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ミュウの自己主張



 どうも俺は、気絶していたらしい。


 目が覚めると外にいて、しかも夜だった。

 我ながら情けない話だが、気力はともかく、出血多量による急性貧血はいかんともし難かったようだ。意識が戻った時もまだ頭がふらふらしていたが、今度はちゃんと、事前に膝枕されているのがわかった。


 なぜなら、普通に俺がよく知るやり方だったので。

 ……ちなみに相手はミュウで、俺を心配そうに覗き込んでいる。




「よかった……目が覚めたのですね」

「う、うん」

 俺はひどくどぎまぎして頷く。

 慌てて起き上がろうとしたが、まだそこまで体力が戻ってなくて、全然無理だった……あと、なんか顔が痺れてるんだが。


「傷……レイバーグさんが、治癒魔法で塞いでくださいました。失った血液はどうにもなりませんが、傷痕はそのうち自然と消えるとか」


 聖母マリア様みたいな優しい目つきで、ミュウが俺の頬を撫でてくれた。

 俺は、あんまり甘やかされることに慣れてないっつーのに。

「傷痕くらい気にしないって。元々が元々だしさ」

「そんな……あまり、痕が残らないようにしてくださいませんと」

 珍しく、ミュウが抗議するように言う。


 それはいいけど、膝の上からこうしてミュウの顔を見上げていると、いつもの戦闘スーツを持ち上げる胸の膨らみがばっちり見えてヤバいな!

 煩悩に弱い俺はなるべくガン見しないようにして、さりげなく周囲を見る……結果、ここはどうも、北方にある国境付近の森だとわかった。


 俺達の座っているのも、枝振りがいい黒い樹の根元だしな。

 周囲がまんべんなく、真っ黒で巨大な葉を持つ辛気くさい大木が林立する森みたいで、景色に見覚えがある。


 ここは確か、ブラックリーフという名の森だったような。

 リグルスとやり合った時の深い森のどこかだな。





「もしかして、逃げられた?」

「まだわかりません」

 ミュウは少し表情を引き締めて首を振った。


「城からは出ましたが、追っ手に追いつかれる可能性が高かったので、私がナオヤさんを――だ、抱いたまま、レイバーグさんも背負って、全力疾走で振り切ったんです。今は治癒のために、少し休止していたところですわ」


 抱いた、の部分で照れて目を逸らされると、俺まで思い出して恥ずかしくなるやん。

 俺は頬が熱くなってしまい、ミュウから目を逸らす。

「そ、それで、レイバーグは?」

「周囲の様子を偵察に行ってくれてます……今のところ、計測レンジ内に誰もいませんと申し上げたんですが、どうも信じてくださらなくて」

「まあ、探知装置なんて概念は、異世界出身のあいつにもないみたいだしなあ」

 置かれた状況を知り、俺はようやくほっと息を吐く。


 ミュウの全力疾走で振り切ったなら、おそらくしばらくは時間があるだろう。本当はアランのことで落ち込みまくっていたんだが、俺はなるべく顔に出さないようにした。奴がどんな裏切り方をしたのかは、戻ればわかるさ。


 それより、忠実なミュウに心からの感謝を込めて、俺は彼女の手を取った。


「ありがとう、ミュウ。ミュウがいなきゃ、そもそも逃げられなかっただろうし、凄く助かったよ。いつもありがとう」


「い、いえ……私はナオヤさんにお仕えするのが喜びです」

 どっちかというと、立場がなきゃ俺がミュウに仕えたいところなのに、そんなことを言う。しかも、俺が笑って否定しようとしたら、ミュウは白銀の髪を払ってから、素早く顔を寄せて俺にキスした! それも、唇にっ。


「い、いやミュウ、あの――」

「私の気持ちはご存じのはずです」


 赤い顔をして、懸命な声音でミュウが言う……そう言われると、何も言えなくなるけど、しかし――




「――あっ」


 いきなりミュウが本来の鋭い表情を取り戻し、息を呑んだ。

「ど、どうしたっ」

「動体センサーに反応が出ました。かなりの人数が接近してきますっ」

「追っ手かっ!?」

 さすがに俺も余計なことは考えている場合じゃなく、無理に身体を起こした。幸い、今度は目眩もだいぶマシになっている。


「わかりませんが、北から来ますっ」

 立ち上がった俺を支えるようと、ミュウが慌ててこっちの腰に手を回す。

「無理をなさらないでください。敵なら、私が撃退しますから」


「いや、ミュウでもヤバそうな奴が向こうにはいるんだよ、それが」

「でも――えっ」


 またミュウが声を上げ、本当にうっすらと光る碧眼を北へ向ける。なぜか、驚いたように目を細めていた。


「ひ、一人、集団から抜け出して物凄い速さでこっちへ接近してきます。でも、おかしいです! まだ相手の姿を確認できませんけど、これって人間が出せる速度の限界を遥かに超えていますっ」


「下がれ、ミュウっ」

 俺は断固としてミュウを押しのけ、刀の柄に手をかけた。

 脳裏には、前傾姿勢で疾走してくるサクラの姿がある。あの女勇者モドキなら、人間の限界なんか超えてたって不思議じゃない。


 今の俺には、ヤバすぎる敵だ!


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