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足音



 流れを断ち切るためにも、俺は率先して牢を出ると、さっさと地下牢の通路を進むことにした。


 この地下牢の入口は、突き当たりの壁際にあった石段を何十段か上がった先にあるらしい。幸いにして俺とレイバーグの武器は、その石段の下に置かれた空樽に、無造作に突っ込んであった。


 しかも、床を掃くホウキと一緒に。




「ひでー扱いだな……まあ戻ったんだから、文句ないけど」

 ぶつくさ言いながら、俺は早速、刀を回収する。

 この刀はマヤ様から拝領したものなので、無くすとシャレにならん。俺自身が愛着あって手放したくないというのもあるが、「敵に奪われました」とかマヤ様に報告した日にゃ、なに言われるかわかったもんじゃない。ぶっ飛ばされるからな。


 レイバーグもほっとしたように、例の刀身の長い刀を腰に装着している。こいつの武器も確か魔剣だったし、もはや鬼に金棒だろうな。


「そういや、牢番はどうしたの?」


 俺がミュウに訊くと、彼女はあっさり言った。

「気絶させて、階段の上に寝かせてきました。しばらくは目覚めないと思います」

「おお、相変わらず有能だなあ。じゃあ、脱出の最短距離は?」

「一階に出たところで廊下を進み、建物を出てまっすぐ裏門の方へ向かうのがいいと思います。もちろん、裏門にも警備兵はいますが、私がだ……抱いてジャンプすれば、越えられるかと」


「な、なるほど」

 いいけど、なにも「抱いて」の部分で赤くならんでも。この子も人間臭くなったなあ。

 釣られて俺まで照れるじゃないか。……実際に少し頬が熱くなってそっぽ見てると、なぜかレイバーグが俺とミュウを見比べて眉根を寄せた。

「いつも思うけど、ナオヤの周りって美人が多いね……わざとなの?」


「お、おまえはマヤ様かっ」


 反射的に憤慨して叫んだね。

「似たようなこと言うなよっ。んなわけ、ないだろ!」

「でも、金髪で胸の大きなローズさんは、ナオヤさんが選びましたわ」

 ミュウがふいに口を出した。

 それも、すげー不満そうに。


「胸が大きいのは関係ない、関係ないって!」

 なぜか俺は、こんな場所でいらぬ弁解をしてしまう。

「あれはギリアムの身内だし、同じく有能だし、最初は目の届くところにいたまだ生存率高いかなと」

「でも……あの人の胸を見る時は、他の部分を見る時より、ナオヤさんの視線固定時間が少し長く――」

 自分の胸を見下ろし、ミュウが哀しそうに言いかける。


「はい、ストップ!」


 レイバーグの目つきが段々険悪になってくるのを見て、俺は慌ててミュウを止めた。

「俺だってまだ男の子だし、そりゃ女の子の胸くらい見るよっ。今はそれより脱出をだな」


「ボクなんか、胸を直に触られたしね……大きくなくて悪かったね」


 人の言い訳を遮って、レイバーグがまた吐かしやがる。

 君ら、心が狭いよっ。

 ちょっと胸に関心持ったり触ったりするくらい、大目に見てくれよ。それと、ミュウもレイバーグも別に小さくないだろ……普通よりは、十分上だと思うぞ。


 そうは思ったが、言えるようなことでもないので、もう俺は黙って先頭切って石段を上がり始めた。


 なんでもいいから、とっとと逃げよう。 





 長い石段を最後まで上がると、ミュウの言う通り踊り場みたいになっている平坦な場所に、無精髭の兵士が二人転がっていた。

 そいつらは無視して、俺はそっと頑丈な鉄製のドアを開ける。


 左右を見たが、今は人の姿はない。壁に松明の明かりが等間隔であるので、別に歩くのに不自由はないな。

 ただ、天井のあちこちに妙な切れ込みがあるのが気になるが。


「あれは廊下の天井に収納した鉄板を、下へ落とすための切れ込みのようです」


 俺の視線で気付いたのか、ミュウが背中に覆い被さるようにして言う。胸が当たるんだけど……わざとじゃないよな、まさか。

「そ、そりゃまたなんで――あ、もしかして防御のための隔壁みたいな意図か?」

「おそらくは」

「そうか……そんなの落とされて逃げ道塞がれたらたまらんから、早く出よう」


 振り向いて告げると、ようやく二人とも頷いてくれた。

 それで、三人揃って廊下に出ると、ミュウの先導でびくびくと歩き始める。いつ人が来るかわからないからだが……これがまた、ものの二十メートルも歩かないうちに、ミュウが立ち止まった。


「階段から誰か下りてきます、人数は二人っ」


 曲がり角を指差してミュウが囁く。

 ここからは見えないが、あの角を曲がったところに階段があるってことだろう。まだ足音すら聞こえないけれど、俺はもちろんミュウを信じた。

 この子の場合、距離があっても見破るからな。


「くそっ……この際、そいつも眠らせてしまうか」

「でも、一人は足音からして女性ですよ? いいんですか?」


 俺が女に弱いのを知っているミュウが、心配そうに告げる。

「それとも、なんなら私がやりましょうか?」

「じょ、女性っ!? いや、待って」

 この時、俺が速攻でサクラを思い出したのは、言うまでもない。

 もう一人が誰かにもよるが、さすがにあの自称ブレイブハートは強敵だ。だいたい、やり合ってる間にドカドカ他の兵士も寄ってくるだろう。


「いや、駄目だ! それはやり過ごす方がいいと思う。と、とりあえずあそこへっ」


 俺は一番手近なドアを見つけてそっと開けてみた。

 幸い、中は空の客間っぽかったので、大急ぎで三人ともそこへ避難した。 


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