レイバーグを襲う作戦
「……わかった、堂々たる侵略者だな? しかし、なんだって……ええと、サクラだっけ? サクラみたいなセーラー服の子が、その軍勢にいるんだよ?」
「あんた、あたしが前にした説明、忘れてるの? 頭ボケてる!?」
な、なかなか口が悪い子だった。
「今生では、日本人として生まれたって言ったでしょ。でも、その前はこの世界でブレイブハートとして邪神退治をしていたこともあるわ。どちらかというと、異世界である日本へ転生したこと自体が、イレギュラーな事態だったしね」
「ああ……そう言えば、そんなこと言ってたな」
俺はこんがらかりそうになった頭を、整理しながら呟く。
「要するにアレだ。物語でよくあるように、日本から異世界へ転生したんじゃなくて、元々は異世界から日本へ転生してたわけだ……ところが、途中でまた元の世界であるこっちへ戻ったと。で、なんでまたこっちへ戻ったんだよ」
「正確には、こんな世界に戻る気はなかったわよ。本当に戻って制圧するつもりだったのは、もっと遥か昔の時代。ロクストン帝国という国が栄えていた頃ね」
「ま、またややこしいことを」
俺は弱り切ってレイバーグを見た。
「俺は聞いたことないけど、おまえはロクストン帝国って知ってる?」
「……傭兵時代にちらっとね」
おお、さすがにこいつは知ってた!
「確かにそんな大帝国があったらしいけど……でも、それって本気で太古の昔だよ。それこそ、二千年近くも前じゃないかな」
「に、二千年前だぁ?」
「……だから、戻るはずの元の世界に戻れなかったんだってば」
絶句した俺に、サクラは苛々したように言う。
「それより、そっちのハンサムは知らないけど、少なくともナオヤは元日本人でしょ? それなら、魔界なんかに味方しないで、わたし達と一緒に戦いなさいよ。力を合わせて大陸を統一し、人間どもに思い知らせてやるのっ」
鼻息も荒く言ってくれるが……こいつなんか、言ってることおかしくないか?
日本へ転生したけど、訳あって元の世界へ戻ってみたら、なぜか二千年も過ぎてました……という部分までは、まあわかる。
理由を全部省いてだけど。けど、どう見ても人間であるところのこいつが、なんでまた人間どもに思い知らせるとか言い出すんだ。
その辺を突っ込んで訊くと、この女がまた、堂々と吐かすんだな。
「わたしはこの世界の人間に恨みがあるからよっ」
きりきりと柳眉を逆立てて言う。
「他の仲間はあの子(ユメとかいう子か?)のために戦っているんでしょうけど、その点、わたしは違うわね。人間への恨みが動機だもの」
「じ、自慢にもならないことを、堂々と言うなって」
俺は顔をしかめて言い返す。
「あと、ブレイブハートってどういうことだよ? そういや、それも聞き慣れない……というか、意味はだいたいわかるけど、こっちじゃ聞いたことないぞ」
「いいえ、昔は有名だったはずよ。それこそ、二千年前はね」
サクラは年頃の少女にしては凄みのある笑みで俺を見据えた。
「ナオヤに分かり易い言い方で教えてあげると、ブレイブハートっていうのは、世界を救う勇者のことよ。それも、邪神を倒すための使命を帯びた勇者」
「うおっ」
今度こそたまげて、俺はレイバーグに注目した。
いや、レイバーグ本人は首を傾げてるだけだったけど、俺個人としては驚きだ。だって、今のこっちで勇者って言えば、ルクレシオンの民衆的には、ほぼレイバーグってことになってるからな。
「嘘つけぇー……と言いたいところだけど、俺はサクラの腕を見てるからなぁ」
「もしかして、ナオヤはこの子に敗れたの?」
さすがに驚き顔でレイバーグが言いやがった。
「負けてないわいっ。戦ってる最中に汚い手で後ろから眠らされただけだっ」
唾を飛ばして力説したが、当のサクラが鼻で笑った。
「別に魔法使いの援護がなくても、最後はわたしが勝ってたわね。これでもブレイブハートの生き残りですからね!」
「やかましいっ。昔ならともかく、今の俺がそう簡単に負けるかああああっ」
実はそこまで自信なかったのだが、勢いで啖呵を切ってしまう。
「なんですってぇ! 負け惜しみは男らしくないわよっ」
そうすると、サクラも気圧されてうなだれるような可愛い性格ではないわけで、たちまち辛気くさい牢屋の向こうとあっちで、ギャンギャン喚き合いとなった。
しかし、途中で捕虜と怒鳴り合うことの馬鹿らしさに気付いたのか、サクラはたちまち元のしかめっつらに戻り、俺達をぎらっと睨んだ。
「ふんっ。どのみち、味方になるか首刎ねるか、二つに一つだからっ。しばらくはこの黴びた牢屋で反省するといいわっ」
「あ、こら待てっ。まだ質問が――」
慌てて呼び止めようとしたが、既にサクラはずんずん歩いて立ち去った後だった。
すぐに、遠くで力任せにドアを閉める音がした。ここからだと見えないが、おそらくあの難儀な女が去った向こうに、外へ出るドアでもあるんだろう。
「……今の話、おまえわかったか?」
呼び戻すのを諦め、俺はレイバーグに尋ねる。
「あれだけでわかったら天才だね。でも、簡単に言えば二千年前に大勢力を誇った集団が、なぜか未来の世界であるこの大陸に現れたってことだろう」
説明の途中で、レイバーグはふと眉根を寄せた。
「そう言えば、傭兵時代に気になる文献を読んだことがあるよ。もしかしたら、あれと関係あるかも」
「じゃあ、そのことは後で聞くとして」
俺は今成すべきコトを思い出し、声を張り上げた。
「とりあえず、やることは決まったな」
「当然、脱獄だよね」
レイバーグも打てば響くように頷く。
「でも、策はあるの? ここ、嫌なマジックシフトもあるんだけど」
何を期待したのか、頼もしそうに俺を見てくれた。
「おお、任せとけって!」
そこまで確たる作戦ができてたわけじゃないが、こうなると俺も引っ込みがつかない。そこで力強く言ってやった。
「これからさ、俺は全力でおまえを襲うんだ! もちろん、女のおまえをっ」
「……え?」
レイバーグの笑顔が見事に強張った。




