表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/317

勇者の憂鬱

「……というより、帝都の城――クレアール城が制圧されたそうだ」


 浮かない表情でレイバーグが言う。


「ボク達に急を告げる早馬を出した直後には、もう何もかも手遅れなほど押し込まれていたようでさ」

 ふうっと悩ましいため息をつく。

「陛下だって、まさか空から大量の軍勢に侵攻されるとは思ってなかったから、そっちは全くの無警戒だったしね。あの翼のある魔獣モドキが大挙して襲ってきたとなれば、制圧されても不思議はない……軍の主力はボクが率いて国外にいたんだし」


「なるほど。そりゃ災難だったな」

 俺は同情しつつも、どうも引っかかっていた。

 忠誠心の厚いレイバーグにしては、随分と投げやりに見えたからだ。

「あのさ、あえて訊くけど――おまえ、今回はなんでそんなにふて腐れてるわけ?」

「ふて腐れてるように見えるなら、それは当たってるね」

 レイバーグは自嘲気味に笑う。

 相変わらず藁布団に座り込んだまま、動こうともしない。


「飛行魔獣に乗ってた、ユメとかいう名前の黒いドレスの女性が教えてくれたのさ。陛下は自分達が助かるために、喜んでボクの命を差し出したと」


「へっ!?」 

 いま一つ状況が飲み込めない俺のために、レイバーグは詳しく説明してくれた。

 つまり、敵軍の指揮官だったその女性は、ルクレシオンの帝都クレアールにある城を襲って制圧した際に、ベルグレム王(本来は皇帝だが、大陸全土を統一するまでは、王を自称するそうな)と王族達をまとめて取り押さえてしまったのだが――。

 敵のユメがまだ何も要求しないうちに、王自らが申し出たそうな。


『敗戦の責任としてレイバーグの首を差し出すから、どうか我々の命は助けてくれ』


 ――てな浅ましいことを。

「うわぁあああ……そりゃひでーな」

 今回ばかりは、俺も本気で同情した。

 どうも以前から、ベルグレム王はレイバーグをこき使うばかりで、大してその武功に報いてない気がしていたが……こうなると報いるどころが、内心じゃレイバーグを疎ましく思っていたのだろう。


「ボクはさ、自分が嫌われていることは知ってたんだよ」


 レイバーグが寂しそうに言う。

「ただ、王子と王女の二人とは仲が良かったし、身分は宙に浮いたままでも最前線で使ってくれるから、信頼くらいはされているつもりだった。でも……結局はただ利用されていただけだったみたいだ」

「……むう」

 これは否定しようにもできないな……なんか俺もそんな気がしてるから。

 第一、そんな腐れ王とは、さっさと縁を切った方がいい気がするぞ!


「でも、一応おまえはそんな王のために、ユメとやらに降伏したんだな?」

「まぁね。でも、さすがに陛下のためじゃないよ。彼の息子と娘のためさ。あの二人は嫌いじゃないし、殺されてほしくない」

「うん、俺もセシール達は好きだ」

 そこは賛成するぞ、喜んで。王子の方もまあそんな嫌いじゃないし。

「それで、降伏した途端に捕虜としてここへ連れて来られたんだけど……なんかもう、どうでもよくなってきちゃって」


 仮にも勇者と呼ばれる男――いや女の子が、疲れたように俯く。

 長い前髪が瞳を隠していて、今や哀愁漂う麗人って感じだ。少なくとも、戦士には絶対見えん。

 腰の辺りのラインなんか、完璧女の子だし……いや、これは関係ないか。

「この世界に迷い込んでから四年、ルクレシオンに仕えて二年……本当に、裏切られてばかりだよ」


「おい、俺はベルグレム王とは違うぞ! まあ、敵同士だったから、裏切るもなにもないけど」


 俺は隣に座りつつ、強く主張しておいた。

「うん……君は数少ない例外だな」

 レイバーグはゆっくりと微笑んだ。

「君のことは信頼している、ナオヤ。なにしろ、最後はボクを魔王城から逃がしてくれたしね。あの恩は忘れていない……あの後、マヤ殿に叱責されなかったかい?」

「されたけど、俺は慣れてるからいいって」


 慌てて手を振り、俺はしんみりした空気を追い払おうとした。

 というよりだ、もはや今の俺はレイバーグを女の子としか見られないわけで、ちょっと雰囲気作ると、いろいろ意識してヤバい。元々、異性相手にべらべらしゃべれるタイプじゃないしな。


「と、ところでさ! 他にもいろいろ訊きたいことはあるけど、その前に思い切って先に申し出て置こうと思うんだ――つまり、早いトコ唾つけるという意味で」


 回りくどかったせいか、レイバーグは小首を傾げて俺を見た。

「どういう意味なの?」

 今のモロに女言葉だぞ、おい。

 演技を忘れるなよ、レイバーグようっ。


「つまりだ、おまえ……こっちにつく気はない?」


 おぉ……息を呑んで固まっちまった。

 長い前髪の下の瞳が、モロに俺を直視している。同じ黒い瞳なのに、こいつのようなイケメン――もとい、こういう綺麗な女の子の瞳は、どうしてこう全くの別物に見えるのか。

 顔の造作も別次元に整ってるしな。意識するじゃないか。


「それは……ナオヤ個人が……ボクを欲しているという意味なの?」


 いや、なんでそんな囁き声で言うんですか、君は。

 俺は思わず正座しそうになり、なんとか我慢した。


 い、今のセリフって、もちろん「ナオヤ個人の臣下になれという意味?」って問いかけだよな? 


 いや、他に意味もないと思うけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ