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またしても、他力本願崩壊

 目を覚ましてまず感じたのは、妙によい香りだった。


 しかもこれ、マヤ様の髪の香りとはまた違っているようだ。あと、何やら後頭部に妙な感触があるな。


「……なんだこれ?」


 俺は寝ぼけ眼で手を伸ばし、自分が何を枕にしているのか触ってみた。





「――っ! だ、だめっ」


「へっ」

 声が聞こえた気がしたが……それよりなんかこれ、やけに手触りよくて生暖かいぞ。

 不審を覚えた俺は、ぐらぐらする頭で考えつつ、さらに手を下に伸ばして触りまくってみる。途端に、「お、お尻に触るなってば!」と悲鳴みたいな声が聞こえ、俺はようやく目の焦点を合わせた。


「……えっ」

 いやもう、まだ夢でも見てるのかと思ったね。

 なぜなら俺の真上から見下ろすようにして、見覚えのある知人が見つめていたからだ……真っ赤になって。


「お、おまえ――レイバーグぅうう?」


 途端に俺は、自分が何をさわさわと撫でているのか理解した。

 つまり、枕と間違えてレイバーグの腰の辺りを撫で回していたらしい。道理で手触りいいはずだな。相手が生粋の男だと、こうはいかない。


 ――いやいや、そうじゃなく!


 俺は慌ててふらつく身体で起き上がり、周囲を見渡す。

 なんか、馬小屋かと思うような、暗くて冷たくてじめっとした場所だった。よくよく見れば鉄格子に囲まれてもいるので、どうも牢屋の中らしい。

 だいたい、似たような鉄格子の部屋が、まだ幾つも並んでるしな。俺達の入った端っこ以外、全部空だけど。


 俺とレイバーグはこの牢屋の隅に積まれた藁布団(藁溜まりの上にシーツかけたもの)の上に、二人して横になっていたようだ。

 しかも、レイバーグの奴は両足を投げ出すように座っていて、どうやらその上に俺の頭を乗せてくれていたようだ。つまり、ある意味膝枕というわけ。


「感謝するけど――でも普通、膝枕って横に頭置かないか? なんでおまえ、両足の真ん中に縦に俺の頭置いてたんだ」

「目覚めた第一声が、それか!」


 無理もないが、レイバーグは赤い顔でぷりぷり怒っていた。

 まあ、散々身体を撫で回された挙げ句にいきなり文句言われたら、そりゃ怒るだろう。

「ボクの元の世界じゃ、膝枕はこうするんだよっ。膝に横向きに頭乗せたら、全然気持ちよくないじゃないかっ」

「そ、そうか……いや、ごめん」


 そう言われても、俺は縦だろうが横だろうが、膝枕なんぞには無縁だし。

「悪い、ちょっとタイム。俺、まだはっきり目覚めてないようだ」 

 未だにぐらぐらして眠気が兆す頭を振り振り、俺はまた座り込む。


 何とか頭をはっきりさせようと努めてみた。お陰でかなり目が覚めてきたが、その代わり重要なこともどっと思い出しちまった。

 そうだよ、俺はあそこで敵の汚い手にやられてっ。





「ちくしょうっ。あれからどうなった!」


 再び跳ね起きてレイバーグを見下ろしたけど、こいつは粋な仕草で長い髪を背中に払っただけだった。またふわっとよい香りがしたが、どうも諦めモードなのが苛つくぞー。


「悪いけど、君の方の事情は知らない」

 しかも、きっぱりと断言してくれたしな。

「ボクがここへ連れて来られたのは一昨日で、君は昨日の夜だよ。君はあれから丸一日眠っていて、ようやく目覚めたところさ」

「つ、つまり俺は今現在、敵の捕虜ってこと?」


「早く言えば、そういうことだね」

「遅く言ったってそうだろっ」


 俺は思わず、駄々っ子みたいに両の拳を握りしめてしまった。


「おまえもいるってことは、おまえだって立場は同じだろっ。そもそも、仮にもドラゴンキラーの勇者が、あっさり捕まっていいと思ってんのかあっ。またしても、俺の美しい他力本願を台無しにしやがってえっ。今後の共闘をちょっと考えてたのにっ」


 自分を棚に上げて、もう一息に文句を言っちまったね!

 レイバーグは座り込んだまま、びっくり顔で俺を見上げてくれた。

「う、美しい他力本願ってなに?」

「それは置いて、おまえはどうやって捕まったんだ」


「今回は、不覚を取ったわけじゃないよ。人質を取られたんだ」

 さすがに少し恥じらいの表情を見せ、レイバーグは語ってくれた。

「そっちの帝都に進軍途中で、ルクレシオンの帝都クレアールから、早馬が来たんだ。『謎の敵軍に王都上空に攻め込まれたから、急ぎ帰還せよっ』てさ」

 なるほど……それで、こいつの一万二千を越える軍勢は、回れ右したわけね。

 今になってようやく謎が解けた。


「それで、戻ろうとしたんだろ、当然?」

「もちろん」

 レイバーグは頷きはしたものの、顔色は冴えなかった。


「可能な限り急いで戻ろうとしたけど、連絡を受けた時点では、もうそっちの魔界領内深くに入った後だからね。そうすぐには戻れない。しかも、帰還途上の翌日、帝都の方角から黒いドラゴンみたいな飛行魔獣がきて、その上に乗っていた女の子がボクに告げたんだ。……ここでボクが降伏しないと、陛下を始め、二人の王族の命はないと」


「……ちょ、ちょっと待て」

 俺は片手を上げてレイバーグを押し止めた。

 よくよく考えてから、おそるおそる尋ねる。


「それって……もうそっちの帝都クレアールは落ちたってことか?」


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