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我が道を行くミュウ(第三章終了)

 当然、さっきの裏切り騒ぎの後なので、本陣もぴりぴりしている。たちまち護衛兵がミュウの前に壁を作った。


「止まれっ! ここから先は陛下の本陣だっ。所属と用件を言えっ」


 マヤは、職務に忠実な護衛達を下がらせようとしたが――。

 なんとあの女は、一言の抗弁もせずにいきなりその場で跳躍し、このマヤの眼前まで跳んで来おった。


 ……軽く数十メートルはあったのだが……さすがに機械仕掛けの女だな。


「ぶ、無礼者めっ。陛下の御前だぞ!」

「よいっ」

 さらに大勢の護衛兵がマヤの周囲を固めようとしたが、マヤはそれを制止した。今は礼儀云々は後だ。ナオヤの方が気にかかるっ。


「ナオヤの配下だ、その者に話させいっ。ミュウ、どうし――」

 言いかけ、マヤは心の中にブリザードのような冷気を浴びた気がした。こんな気分になったのは、父上が亡くなったというデマを聞かされて以来のことだったはずだ。

 というのも……いつも冷静なミュウが、なぜか今はひたすら動揺していたからだ。


 正直にいえば、マヤはミュウの報告を聞きたくなかった。

 しかし、ミュウは拝礼もせずに、マヤの胸ぐらを掴みそうな勢いで言ってくれた。


「あの、ナオヤさんはっ。ナオヤさんは、まだ戻ってないんですか!?」


「どういうことか……なぜそれをマヤに訊く?」

 信じがたいことに、マヤの声は震えていた。

「ナオヤはおまえ以下、配下を引き連れて敵部隊に奇襲に向かったそうではないか。なのにどうして、マヤに居場所を尋ねる――ミュウっ」

 仮にも魔王たるマヤが尋ねているというのに、この女は全く人の話を聞いていなかった。こちらの返事を聞くや否や、なぜか青い瞳が不自然に光ったかと思うと、今までにも増して激しい勢いで陣中を見回した。


 その合間にぶつぶつと「レンジ内のユニット検索開始。身長及び推定体重が誤差5パーセント以内で一致する者を全てリストアップ……終了……さらにそこから、髪と肌の色が異なるユニットを排除……以上、該当者候補を全て検索。……違う違うっ、全員ナオヤさんじゃないっ。どこ、ナオヤさんはどこっ!?」などと、わけのわからないセリフを吐き出している。


「駄目、センサーの有効レンジ内にはいないわっ。これ以上範囲を広げるなら、自分が動かないと!?」


 どうもナオヤを探しているらしいが、マヤに全然説明しないのが、ほんっきでむかつくぞ!

「ミュウっ。これ、マヤの質問に答えるのだ! 奇襲に向かった後、何があった」

「ナオヤさんは途中で抜けました……貴女を助けに行くと言って」

「抜けただと!? それはどういう意味かっ」

 きょろきょろするのをやめ、ようやくミュウがマヤを見た。

 それでも、動揺丸出しで瞳が落ち着かない……馬鹿者、おまえがそんな顔をすると、マヤまで焦ってくるではないか。


「あのっ。私達が陣を出た後、戦闘があったんですよね? 敵はもう撤退したのですか」

「おまえ、マヤの質問を無視して自分が質問するとは、よい度胸ではないか」


 しまいには、いつぞや口を滑らしてしまった側室の話もなかったことにするぞっ――とむっとしたマヤだが、しかしこやつが冷静さを失うのは、唯一ナオヤ関係の時だけだ。

 それがわかっているだけに、今は叱責は後にすることにした。

 というより、とっととこいつを落ち着かせないと話にならん。

「敵は確かに攻めてきた。しかし我が軍と一当たりした後、そのまま裏切り者と一緒に撤退した」


「その方角はっ」

「……今、唾が飛んでマヤにかかったぞ?」


 それほど真っ二つにされたいのか、この女はっ。

 不機嫌さがどんどん増していくものの、それでも親切なマヤは、黙って東の方角を指差す。

 本来、そちらは帝都マヤがある方向なのだが、本当にそちらに逃げたのだから仕方ない。


「飛行魔獣と歩兵、つまり空と陸からの両面作戦――あ、待たぬかっ」

 ミュウの無礼さは、実にマヤの想像以上だった。

 あの者はなんと、そこまで聞いた途端、いきなりまたジャンプしおったのだ。

 大きく跳んで本陣の外に着地すると、その足で東の方角目指し、脇目も振らずに駆け去ってしまう。


 その足の速いことと行ったら、見る見るうちに遠目も効くマヤの視界外に消えたことでも明らかだ。


『おおっ』

 陣中の兵士どももさすがにざわめいた。

「あの人、ミュウっていうんだぜ。話したことないけど、すげぇえ」

「おお、俺も知ってるぞ! 戦士将のコレなんだってな」

「おいマジかっ。いい加減なこと言うと、殺すぞっ」

「俺も憧れてたんだよなあ……スタイルいいし」

「おい、それよりさっきの話は」

「美人でスタイル抜群の上に足も速いとかなんて女神――」


「黙れっ」


 周囲に怒鳴りつけると、ようやくざわめきが止んだ。

 どうでもいいが、さっきまでそばにいたエルザは、どうもいち早く遠くに避難したらしい。


「ミュウめぇえええっ」


 マヤはエルザに腹を立てるより先に、本気で地団駄を踏んだ。

 いつもは「帝王の威厳もあるし、以前より控えねばな」と自分を抑制していたのだが、今はそんな自制も消し飛んだぞっ。

「マヤだって、この場で走って探しに行きたいのだぞ! それを自分だけとっとと行ってしまうとはどういう了見だっ」

 ――ではなくだっ。


「そんなに速く走れるなら、なぜマヤも連れていかないのだあっ」


 その時、ようやく護衛兵に先導され、ギリアムがびくついた態度で戻ってきた。ネージュがいないのは、既にマヤの命令を受けた兵士に言われ、カシムの元に行ったせいだろう。

「ようやく来たかっ」

 マヤはギリアムを見て、苛立って手招きした。


「ミュウでは話にならん、近こう寄れっ。奇襲に行ったと聞いたが、あれからどうなったのだ」

「いえ、ご報告は致しますが」

 その場で跪いたギリアムは、薄く血の跡が残った顔を上げた。


「ナオヤ様はまだご帰還では――」

「その質問はさっきも訊いたっ」


 マヤはにべもなく遮ってやった。


「それより奇襲に向かった後のことを、詳細に報告せよ!」


 ……マヤは久しぶりに、声を限りに怒鳴りつけていた。


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