(そのままの意味で)セーラー服戦士
「き、気付かれたの!?」
「そのようです。さっきまで直進してたのに、予定の行動のように進路を変えています。もうすぐ、前方に見えます!」
「ぜ、全軍停止っ」
焦って俺はそこで馬を止めた。
とはいえ、馬上にいるのは指揮官の俺以下、ネージュやギリアムなどの、二等戦士以上の兵士だけなのだ。
他の奴隷兵士はどすどす走ってついてきているわけで、このままだと大混乱に陥る。
いや、もう既に混乱が起き始めてるし!
後ろを振り返れば、奴隷兵士を指揮する各二等戦士が「停止、全軍停止っ」と喚く声が聞こえず、そのまま突っ走ろうとする奴隷が大勢いる。
「落ち着きなさい、みんな!」
見かねたのか、ネージュがいきなり魔法の明かりを灯し、俺達の上空に浮遊させた。
お陰で暗闇でもはっきりわかるが、その代わり敵からも丸見えだな……まあ、どうせ見つかってるなら、同じか。
「とにかく、早く態勢を整え――」
「ナオヤさん、あそこをっ」
またミュウが緊迫した声を張り上げ、俺は焦って前方に向き直る。
馬を寄せてきた彼女が指差す方向を、言われるままに見た。うお、敵は気合い入ってやがるな! 騎馬兵が先頭に――いて。
「へっ」
俺は目を懲らすようにして、まじまじと敵部隊の先頭を眺めた。
そこには、白馬に乗って突っ走ってくる騎兵がいるんだが……いやあれ、あの姿……どう見てもセーラー服にしか見えん。
赤いリボンに紺色のプリーツスカート――ネージュどころじゃなく、そのままセーラー服に見えるぞ、おい。
おまけに黒いロングヘアに、純白のヘアバンドと来た。
「さ、最近のこっちはすげーな。セーラー服とうり二つの軍服なんかあるのか!」
いや、私服かもしれんが、とにかく有り得ん。俺は思わず呻いた。
しかも、スカートに赤い鞘の長大な刀をぶち込んでいるのだ。
他の連中は、眉なしの赤い巨眼に漆黒の鎧を纏った見るからに人外の兵士なのに、一人だけ思いっきりセーラー服! どっから見てもバリバリのセーラー服っ。
目立つどころの騒ぎじゃない。
あちらも軍勢のほとんどは歩兵で、騎乗してるのはわずかだった。問題のセーラー服少女は、その騎乗した戦士の一人だ。
俺がぽかんと見つめるうちに、向こうもこっちを見て、なぜか目を輝かせた。
めちゃくちゃ凜々しい顔立ちであり、勝ち気そうな美人だ。
「レイモンっ、先頭の男はあたしが倒すわ! あんたは他をお願いっ」
まだかなりの距離があるのに、遮るもののない荒野のせいか、その声は恐ろしくよく響いた。
「か、勝手に決めるなぁあああ!」
不服そうな野郎(これがレイモン?)の声がして、俺はやっと、隅っこの方にスーツ姿の長髪の戦士がいることに気付いた
こっちは男だが……しかし、そいつに構ってる場合じゃない。
セーラー服少女が、めちゃくちゃ勝ち気そうな少女戦士が、馬を駆って一直線に駆けてくる。しかもあの子、明らかに俺個人を狙ってるらしい。
「上等じゃないか、くそっ。俺だって昔の俺じゃ」
「ナオヤさんっ」
もはや何度目かわからないミュウの警告の声がした。
はっとしてそちらを見ると、今度の彼女は俺達が出て来た本陣の方を見ている。こちらに向き直った時は、ミュウにしてはかなり危機感に溢れた顔になっていた。
「新たに東方より接近する集団を感知! 私達の本陣を目指していますっ」
「うおっ。出て来たばかりの本陣に!」
べ、別働隊がいたのかっ。
というと何か、俺は奇襲部隊を始末するつもりで出て来たのに、本当は逆に誘い出されたわけか。いや、偶然かもしれないが。
「それと、敵ユニット(兵士のことだろう)の幾体かは空を飛んでいますっ」
「手回しいいじゃないか、ちくしょうっ」
俺は途端に焦燥感に駆られ、俺にはまだ見えもしない彼方の空と、それから前方から迫る敵影を見比べた。
ここで踏みとどまって戦うべきだが、しかしマヤ様が気になって――
「ここはあたし達に任せて行って、ナオヤ君!」
ネージュが馬を寄せて俺の肩を揺すった。
「前方の敵はあたし達が何とかするからっ。兵数には勝るし、いざとなればさっさと撤退するわ。それより、ダークロード(マヤ様)の方が心配よっ」
言われ、俺は一瞬だけ迷った。
しかし……念のために目をやったギリアムが何度も頷くのを見て、すぐに決断した。ネージュもいるし、ギリアムもいる。
熟練の二人なら、危ないと思えば退いてくれるだろう。
確かに今は、マヤ様の方が心配だっ。
「わかった! ネージュ、ギリアムと協力して後の指揮を頼むっ」
「任されたわっ」
「お任せを!」
二人の返事を聞いた途端、俺は即座に馬首を巡らして駆け出した。




