勘付かれた逆奇襲
「わかりませんが、敵軍兵士のほとんどは獣人族の非人間タイプです」
「そ、そうか」
心配そうなミュウの顔を見て、俺は意識して落ち着こうと努めた。
こんな大軍を指揮するのは初めてなんだが、とにかく俺は戦士将として全軍に指示を出す立場にあるのだな、信じがたいことに。
マヤ様ですら、どういうつもりか「マヤは全てナオヤに任せた」なんて指揮官クラスに伝達して、豪快に俺にぶん投げてるわけで。
大きく息を吸い込み、俺は改めて尋ねた。
「敵の兵力と、遭遇予想時間は?」
「見た限りでは、兵力は一千ほどです。今は熱源感知可能なギリギリの距離ですが、あと半時間もしないうちにここに着きます!」
「少ないな……最初から奇襲が目的か」
俺は少し考え込んだが、すぐに結論を出した。
「よしっ。なら、こっちから出て行って、敵の意表をつくっ」
俺は部屋から出て、ドアをそっと閉めた。
最後に振り返ったところでは、まだマヤ様は幸せそうな顔で爆睡中だった。まああの方は一度眠ったが最後、真横で恐竜が吠えても起きないからな。
起こせるのは、慣れてるジャスミンくらいだ。
距離を置いて待機中の、そのジャスミンの姿を見つけ、俺は即座に彼女を手招きした。
「戦闘準備に入ります! 十分ほど後でいいですから、マヤ様を起こしてください」
「わかりました!」
「あとは――」
ジャスミンから、今度はまた周囲の伝令を近くに呼び、次々と指示を出す。
「全部隊に命令伝達。すぐに戦闘準備……ただし、あくまでも密かに。向こうはまだ、こっちが奇襲に勘付いたことを知らない。だから、何も気付かないふりをしたまま、敵軍を迎え撃つ用意! 大急ぎでっ」
『ははっ』
さっと散った伝令を見送ってから、俺は残ったミュウの肩を叩く。
「後はカシムに任せるとして――悪いけど、俺と貧乏クジ引いてくれるかな」
「……喜んで」
ミュウは夜目にもあでやかな微笑を浮かべ、肩に乗せた手に自分の手を重ねてきた。
あ、なんか膝の力が抜けた。
もちろんミュウだけではなく、俺はネージュ率いる魔法使い部隊とギリアムの部隊にも声をかけた。
ギリアムは緊張気味に頷いたのみだが、ネージュがなぜか予想外に喜び、俺を面食らわせた。
この人は、頭の右側に純白の髪を寄せたサイドテールの髪型に、レオタードプラスミニスカートみたいな服装の、モロに魔法少女コスプレっぽい格好なんだが――。
実は見かけによらず、かなり年季の入った魔法使いである。
年齢も相応のはずなんだが、純血のエルフらしく、見た目は女子高生にしか見えない。
実際、年頃の女の子みたいに、その場で軽く跳んだりしたりしな。
なんか、喜びの表現らしい。
「やっぱりナオヤ君についてきて正解だったわぁ」
金色の目を輝かせ、ネージュは笑み崩れた……いや、喜ぶことじゃないと思うんだけど。俺が苦笑してそう言うと、彼女は大きく首を振った。
「いえいえ、喜ぶことよ。だって、魔法使いの地位が低かった少し前だと、華々しい先陣の役目なんか、絶対にもらえなかったものね」
それを聞いて、さりげなく俺のそばから離れようとしていたエルザが、なぜか急に戻ってきた。
「あ、それならあたしも同行しようかな! だって、また出世して俸給上がるかもだし」
何かを期待するように俺を見る。
じゃなくて、色っぽい流し目で見るのは、やめてくれ。そんな場面じゃないし。
「不謹慎だぞっ」
「不謹慎です!」
案の定、ギリアムが俺より先に叱りつけた。
ついでに、二等戦士のローズまで一緒に睨むという……彼女をギリアムの下につけたのは俺だが、一応、エルザの方が上官なのに。
「なにようっ」
さすがに膨れっ面になったエルザを、俺は慌てて宥めた。
「まあほら、エルザはより重要な本陣の警護頼む。問題の敵は前方だし大丈夫だと思うけど、万一のためにさ」
「そ、そう……残念」
いきなりやる気を出した彼女は、がっかりして肩を落とした。
いや、本陣の警護が一番重要なんだぞっと言いかけ、俺はかろうじて我慢した。今は年上のねーちゃんに説教なんかしてる場合じゃないや。
「よし、千数百ほど率いて、敵軍に逆夜襲かけるぞっ。みんな、いいなっ」
『はいっ』
やたらといい返事だけど、ローズの声が一番でかかったな。
なんかすげー不安だ。
というわけで、俺は馬に飛び乗るようにして日が沈んだばかりの荒野を駆け抜け、迫る敵軍を目指した。
真っ正面から当たるより効果は高いと思うので、わざと敵軍の脇腹を突けるように、部隊の進路をやや南寄りにズラした。
月明かりだけが頼りのこの状況だと、奇襲が成功するかどうか心配になるのが普通だが、こっちにはミュウがいるからな。
彼女の指示通りに突っ走りゃいいんだから、行き違う心配だけはない。よし、あと少しで絶好の奇襲ポイントに――
「ナオヤさんっ」
そのミュウがいきなり声を張り上げ、俺は馬上で飛び上がりそうになった。
「ど、どうした!?」
「敵軍が進路を変えました! まっすぐにこっちへ向かってきますっ」
いつになく狼狽した声に、俺は正直、びびった。




