表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/317

ナオヤとギリアムの寿命が縮む

「いや、別に俺が自分のために配下に加えたわけでは――」


「ほう、面白いことを言うではないか、ナオヤは」

 マヤ様が唇を尖らせて俺を見た。顔が近い上に、声がすげー嫌みったらしい。


「いやだから――」

「自分のためでなければ、誰のためだという? 納得のいく説明を聞かせてもらおうぞ」


 俺がまだしゃべってる途中だっつーのに、無理に遮ってくれた。

 ちなみに、周囲を埋め尽くす全軍(その数九千!)が、まだ拝礼というか片膝ついたままであり、俺達をちらちらと見ている。


 ひざまずく九千の兵達の中で、二人だけ立って痴話喧嘩してる俺達って!


 などと考えていたら、いきなり肘鉄食らった。

 骨にヒビが入りそうな威力で、うずくまりそうになった!!




「いてえっ」

「返事はどうしたのだ!?」


「こ、声が大きいですって」

 俺は必死で声を低め、針が落ちても聞こえそうな周囲を見渡す。

 魔王が到着しているので、雑談なんかする命知らずがいるはずもない。よって、小声の会話でも結構、遠くまで響くのである。

「そもそも彼女は、ギリアムの妹らしいですよ。だからうちに来たのは、いわば縁故採用なんです」


「ギリアムとな? 誰だ、それは?」


 腰に片手を当てたまま、マヤ様は平然と首を傾げた。

 ま、また忘れたんですか、貴女は。

 もう割と何度も顔を会わせてると思うんだけどなっ。これで忘れられるんだから、ある意味すげーよ。

「ギリアム・クラインですよ、貴族の出の。ほら、あそこに這いつくばってるオールバック金髪の人です。マヤ様、前に彼の首を刎ねかけたじゃないですか」


「ふん。マヤが首を刎ねた者など、数えきれぬほどいる。それくらいでいちいち気に留めるものか」


 ちらっと恐ろしいことを述べたが、それでもマヤ様は、俺が指差す先を見て頷いた。

「ああ、クライン家のあの者か……」

 理解はしたようだが、機嫌はあまりよくならなかった。

 前にも言ったように、マヤ様は反乱騒ぎの折にクライン家が中立を保ったのを、未だに腹に据えかねているのだ。 


「だがそうか……そういうことなら、仲間思いのナオヤなら部隊に入れても不思議はないか」

「そう、そうですっ」

 ていうか、なんで採用した二等戦士が女だったくらいで、ぎゃいぎゃい言われるのかとー。そう苦情をねじ込みたいが、もちろん俺も昨日今日生まれたわけじゃないので、あえて口にはしない。


「とはいえ、あの者の外見は悪くないな……それに、魔法使いも増えたし」


 まだ納得していない様子で、マヤ様はちらちらとローズを、そしてエルザ達魔法使いを見やる。

「ナオヤの周囲にいる女は、だいたい皆が美人か――あるいは美人で胸が大きいかだが、これは偶然なのか? うん?」

「偶然ですよっ。ていうか、細かいですよっ」

 さすがに大人しい俺もむっとして、声を張り上げた。

 少し大きい声だったせいか、周囲の兵士が数百名ほど顔を上げて俺を見る。


 たまらんな、しかし!


「それより、今は魔界の危機ですし、早く出陣しましょう。それでなくても、敵はもう国境を突破しているようですし」

「……確かにな」

 命拾いしたなおいっ、と言わんばかりにマヤ様は俺を睨み、ようやく息を吐いた。


 さすがにこれだけの大軍の出陣だし、さらに魔王の地位に就いた直後でもあるので、今回は俺の馬に相乗りするわけではないらしい。

 メイドさんの一人が、毛並みの綺麗な白馬を引いてマヤ様のそばにきた。


「よし、追求は凱旋の後だ(追求するんかいっ)。まずは、ルクレシオンの者共を殺し尽くすとするか!」

 ようやくマヤ様がそう言ったので、俺は正直、むちゃくちゃほっとした。

 カツアゲしてくる不良よりタチ悪かったからな、今の尋問はっ。

 しかし、ほっとした俺が自分の馬に戻ろうとしたその時、いきなり聞き覚えのある声がした。


「お待ちくださいっ」


「えっ」

 慌てて振り返ると、なんと今話題沸騰中だったローズが、顔を上げてこちらを見ていた。横のギリアムが慌てて「ば、馬鹿者っ」などと押し止めようとしているが、それを手で振り払ってマヤ様を見つめている。

「陛下にお尋ねしてよろしいでしょうか!」


「尋ねる? このマヤにおまえがか!? 聞き間違いではあるまいな?」


 素早く振り向いたマヤ様は、ローズが着る制服の階級章を見て、一層顔をしかめた。

 階級章なんか真面目につけてるしな、あの子もっ。

「軍に編入したばかりの女が、しかも二等戦士ごときが、このマヤに直接にか!?」

 うわっ、たちまち瞳が真っ赤に。な、なに考えてんだ、ローズ!!

 俺は心底びびって寿命が縮んだし、妹を見るギリアムの顔色なんか、血の気が引きまくって古新聞よりもひどい色合いになってる。今にも頓死とんししそうだ。

 しかし、ローズは至って本気らしく、片膝をついたまま懸命に言い募った。


「失礼をかえりみずにお尋ねします。陛下はこの戦に同行されるのでしょうか? もしそうであるなら、魔王陛下の御身を考えれば、それはお止めになるべきかと――」


 途中でさすがのローズも口を閉ざした。

 というのも、皆まで聞かず、マヤ様がいきなり右手に漆黒の大剣を出現させたからだ。


 俺に言って聞かせた、ヤクザ話の前振りすらなかったね!


 そのまま無言でローズに向かって歩き出そうとしたので、もう何をしようとしているのか、丸わかりである。放っておけば、あのねーちゃんは二つ割り確定だ。


 さすがに見ていられず、俺は慌ててて前に立ち塞がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ