砦攻略(の予定)――その3
――その3
この世界は、おおよそ歪なオーストラリア大陸みたいな形をしていると思えば間違いない。
で、今現在は大陸の中央よりやや東側が魔界ということになっている。
いや、現状では南北に境界線を引いた場所は、「やや」どころか「かなり」魔界寄りだ。要は、ルクレシオン帝国との戦が始まって十年の間に、ガンガン押し込まれてしまっているわけだ。魔界が圧倒的に有利だった当初の頃からこっち、負け戦が続いていると。
噂では、数年前から帝国側に民衆が「勇者(出たよ!)」と称える騎士、レイバーグが現れ、彼の向かうところ、連戦連勝(魔族から見れば、連敗続き)らしいんだが……まあ、その辺は今の俺が心配してもしょうがない。
まずは目先の任務である。
マヤ様がなぜ、国境にある某砦の攻略を命じたかというと、その砦のある国境の南方面は、ちょうど魔族が帝国側に進撃する軍道がある場所なのだな。
しかも、今現在急ピッチで拡張が進められているその砦たるや、左右を山に挟まれた隘路に位置する。もっと簡単に言うと、山脈の切れ目を通る軍道を、件の砦が露骨に塞ぐ形になっている。
このまま拡張工事が終わった日にゃ、以後、魔族軍はその軍道を使うことができなくなるわけで――というか、今現在、既にそうなりかけているわけだ。
まだ砦が小規模だから辛うじてその左右を通ることはできるが、通行する度にいちいち砦から矢雨を受けて、被害が出ているわけだ。このまま座視してあそこが増築され、籠もる兵力も増えたりすると、もはや完全に南方方面の軍の運用に支障が出る。
だからこそ、早急に何とかする必要があるわけだ。
しかし、魔族のトップ連中はなぜか未だに危機感が薄く、いち早くその不利を悟ったマヤ様が、俺に攻略を命じたと。
「……そういう経緯なわけだ」
俺は、左右に馬を並べる二等戦士達二人に詳細を告げた。
街道を馬に乗ってポクポク進みつつ、ようやくきちんと説明をしてやったのだな。
もちろん、俺達三人の背後には、奴隷兵士を含め、全軍が続いている……あとほとんどの者は徒歩だけど。
ちなみに、俺の右側にはギリアムがいて、左側には元俺の監督官だった二等戦士(マヤ様が呼んでると数日前に教えてくれた人)のダヤンがいる。ダヤンは若いくせに歴戦の兵士なので、俺は砦攻略のためにおそるおそる同行を頼んだわけだ。
元の上官に「俺の部下になってくだせー」と頼むってのは、正直、むちゃくちゃ嫌だったが、ほっとしたことに、気の良いダヤンは喜んで引き受けてくれた。
むしろ、「声をかけてくれて嬉しい」とまで言ってくれたな……ギリアムもそうだが、この人も根は良い人らしい。助かった!
あと、元奴隷長の黄色い頭をしたヨルンも奴隷兵士の指揮のために同行してるが、今あいつは偵察の為に馬で先行している。
自慢じゃないが、俺は自分でも自覚するほど臆病なので、行軍しつつもちゃんと四方に斥候を放っているのである。ヨルンもその一人というわけだ。
途中で不意打ち食らって全滅とか、全く笑えないからな……実際、戦況が不利になったせいか、最近はよくあるし。
「――それにしても」
全部聞いた途端、ギリアムが発言した。
こいつはいかにも「自分は憂慮してます」と言わんばかりの顔でずばり述べた。
「南方の国境線にあるあの砦は、最新の情報では、百名を越える騎士達に守られていると聞き及びます。守将はリグルスという男だそうですが、こいつはあのレイバーグの元仲間だとか」
「あー、うん。俺もそれは聞いた。昔、勇者レイバーグがまだ冒険者だった頃、一緒に旅をしてた奴なんだって?」
「そう……ですが」
ギリアムは妙に言いにくそうに俺を見た。
「なに?」
「あ、いえ……その、ナオヤ様はレイバーグが本当に勇者だと思ってらっしゃいますか? 敵の民衆共が称えるような本物の勇者だと?」
「真実は知らない」
俺は身も蓋もなく答える。
「でも、俺達魔族軍が、奴が現れてから連戦連敗してるのは事実だろ? なら、その事実だけは認めて、一応勇者って呼んでるだけ。好き嫌いは置いて、敵の力量は認めてやらないと」
淡々と説明すると、元監督官のダヤンが大きく頷いてくれた。
「敵を甘く見ないのはよいことです」
「うんうん、そうだよな」
嬉しくなった俺が破顔した途端、ダヤンはいきなり不可視のナイフのようにぶすりときた――言葉の刃で。
「して、攻略の思案は立ってますか?」
「……」
俺、無言!
いきなり、なんという鋭い指摘。それはまさに、俺が聞きたいねっ。黙って見つめる野郎二人の視線が痛い、痛すぎる。
つか、こういう場合、部下がよい意見を出すのが本当じゃないのか?
三国志のシミュレーションだって、軍師の意見とか聞けるだろうに。
沈黙に堪えかねて内心で責任転換すら始めてしまったが……幸い、絶妙な横槍が入った。
「そんなことより、あたしの拘束、解いてくださいよっ」
ボブカットの黒髪を振り乱し、後から追いついてきたエルザが喚いた。
例の、魔法使い兼帝国側の浣腸――じゃなくて、間諜の人である。
この人は唯一、奴隷の身で馬に乗ってるものの、後ろ手にぎっちり縛られている上、豊かな胸の上下にもロープが食い込み、実にヤバいポーズで拘束されている。
ただでさえ目立つ方だった胸が、今や「見て、この胸を見て!」と言わんばかりに飛び出してるわけで。下手したら「なんのSMですか?」と顔が赤くなるような光景だった。
おまけに今の格好は、競泳水着みたいな黒い薄手の衣装なのだ。
最初からエルザが着てた、ブラウスやらスカートやらを剥ぎ取った下に着てたものらしいが、もの凄く色っぽい格好である。
正味、イメージDVDの女優みたいだ(それもエロ系の)。
「うわぁ」
「うわぁじゃないですよっ」
俺が呻くと、すかさずエルザが突っ込んだ……無理もないが、真っ赤な顔で。
「あたし、なんでこんなひどい格好で縛られてるんですかっ」




