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魔王の姿

「放り込まれた部隊は全然別ですが、調べたところ、ナオヤ様とほぼ同時期に召喚されているようですぞ。しかも、その後も最後まで戦死を免れてます!」


 いや、戦死してないのは見ればわかる、うん。


「し、しかしっ。異世界から奴隷兵士を召喚するのは、俺がマヤ様に進言してもう廃止になったはずじゃ?」

「廃止になりましたとも」


 カシムは大きく頷く。

「マヤ様が帝位につく寸前に。……ですがどのみち、その時に盾の奴隷に残っていた異世界人は、こいつで最後のようですな」

 俺の驚き顔を見て、カシムはわざわざ補足説明してくれた。


「盾の奴隷については、ナオヤ様がいた頃と状況はさほど変わりませんぞ。ファルシオン伯の反乱から帝都の動乱に至るまでの騒ぎの間、大規模な戦は数えるほどでしたからな。ミュウなどの例外は置いて、こと盾の奴隷に関してのみ言えば、当時から異世界人はこいつとナオヤ様しか残っていなかったわけです。どうも年齢も同じらしく、不思議な縁ですな」


「そ、そうなんですか……」

 いや、こっちも日頃から自分と同じ立場の奴をほとんど見かけないなとは思っていたが、それでも他の部隊にはいるんだろうと思っていたよ。

 しかし……そうか、肉の盾で残ってる異世界人は、あの時点でもう俺と彼くらいだったのか。あの部隊は悲惨だから、特に驚きもしないが。


 そういうのって気が咎めるな、しかし。

 俺は、自分が過剰に衝撃を受けた理由を、ようやく理解した。

 だってほら、俺だってチンタラ遊んでいたわけじゃないけど、この数ヶ月の間に身分が大きく変化しているわけで。


 少し前まで立場が同じだったのに、こんな短い間にでっかい差がついちまったと思うと、気が引けるぞ……俺が奴の立場なら、むちゃくちゃ腹立つ――ような気がする。


 いや、意外と「まあ俺はボッチだし」としか思わんかったかもしれんが。




「おい、アラン!」

 俺の戸惑いをよそに、カシムは後ろを振り返った。

「戦士将のナオヤ様だ。挨拶をせい!」

 カシムの声に応じて、黒衣の少年はゆっくりと彼の横に並び、敬礼をした。


「たった今、二等戦士に昇格しました。アラン・リムスキーです」


 綺麗に澄んだ瞳だが、やはり一切の感情が窺えなかった……少し寂しそうには見えるが。

 髪と瞳の色は俺と同じだが、肌は白いし、優男風のイケメンだし、こいつは少なくとも日本人じゃないよな。

 俺がじろじろ眺めていると、アランは静かに俺を見返した。


 とくに気を悪くした様子はないが、相変わらず感情というものがさっぱり感じられない。実は、この手のタイプは肉の盾では珍しくなかった。

 絶望を通り越してある意味達観してしまうか……あるいは無闇に陽気になるかだ。


 俺のような中間タイプなんてほとんどいなかったね。まあ、記憶に残ってるのは、魔界出身の肉の盾ばかりだが。


「ああ、ごめん。ナオヤ・マツウラです、よろしく」

 それでも俺は、とにかく答礼しておく。

 思わず敬語になってしまったせいか、カシムに咎めるような目で見られたけど。


 これくらい許せ! 俺は元々、道の向こうから他人が歩いて来たら、自然と脇に避けるようなメンタル弱い奴なんだよっ。


 なぜかじくじくと気が咎めてる今、横柄な口調で話せるもんかっ。

 とはいえ、どのみちアランはそれ以上は一言も話さず、カシムも俺の反応の薄さに首を傾げつつ踵を返した。


「では、明日また帝都の門でお会いしましょうぞ!」

「ええ、よろしく」

 何をよろしくだか知らんが、俺は適当に愛想笑いで二人を見送る。

 そのまま、なんとなくため息などついていたんだが。

 俺がドアに向き直る寸前、アランが静かに立ち止まり、こちらを振り返った。カシムが気付かないまま、俺とアランの視線が真っ向からぶつかる。





 ――その時、なぜかアランはゆっくりと微笑した。


 半ば身体をこちらへ向けたままの不自然な姿勢で。

 笑い顔ではあるが、温かみは全く感じられない。肌に冷気が忍び寄るような笑みだった。 

 微妙に威圧感があって、こえーんだよ!


 どうかしたのかと訊きたかったが、アランが俺を見て微笑んだのはほんの一瞬のことで、

あとはすぐにカシムを追って早足で歩き始めた。

 肝心のカシムは、おそらく奴が俺を振り向いたことすら気付いてなかっただろう。


「なんなんだ……一体」


 俺は人知れず背中に冷や汗をかいたまま、しばらく冷たい廊下に立ち尽くしていた。







 もう部屋に入る前から疲れた気がするが、当初の目的を思い出し、俺はようやくマヤ様の私室をノックする。


「ナオヤです。ご命令により、参上しました!」


「うむ、入ってよい」

 待ちかねたような声がして、俺は気を取り直してドアを開けた。

 何気なく入って後ろ手にドアを閉めたのだが……そこで固まってしまった。

 マヤ様が純白のピアノ前に立っている。

 元々、前陛下であるナダル様の私室だったので、このピアノもあのお方が使っていたものだが、そのピアノの前でウエストに両手を当てて仁王立ちしていた。


 格好がまた凄いぞ。

 競泳水着みたいな黒のボディスーツに、表面が漆黒で、裏地が真紅のマントときた。


 ……有り体にいえば、速攻でドロンジョ様を思い出したね!




「どうだ、この姿は? ナオヤの意見を容れてみたのだが」


「え、俺ですかっ」

 口を開けていた俺は、慌てて問い返す。

「今更、何を言う? この前、雑談で『俺の世界では、想像上の魔王はだいたいこんな格好してます』と教えてくれたのは、ナオヤであろう!」

 マヤ様が眉根を寄せる。

 おぉおお……そういえば、そんなことも言ったかもしれない。


 夜中に呼ばれてマッサージの最中、「ナオヤの世界でも魔王という存在は認知されているそうだが、それはどのような格好をしているのか」と訊かれたのである。


 疲れ切っていた俺は、あえぎながら上の空で返事した気がする。




 主に、露出面積を基準にしてな!


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