盾の奴隷アゲイン
「そうだなー、全くだ」
俺はそこは大いに賛成した。
「実際、戦闘では何が起こるかわからない。汚い手を使う奴だって多いし。だからこそ、最初のうちは俺達の目の届くところにいた方がいいんじゃないかな?」
「……恐れ入ります」
生真面目なギリアムは何に感心したのか知らないが、俺に向かって深々と一礼した。
その後も夕方まで面接が続き、ようやく解放されたところで――。
今度はマヤ様付きのメイドに呼ばれ、俺はマヤ様の私室に向かうことになった。
せっかく、ミュウと夕食でも一緒に摂って休憩しようとしてたんだが……まあ、俺は主君に仕える身だし、やむを得ない。
そういえば、今日は丸一日お会いしてないから、ちょっとお顔も見たかったしな。
……それはいいんだが、なんとマヤ様はこれまでの私室だった十二階を引き払い、魔王城の最上階――つまり十三階に私室兼執務室を移していた。
これは前魔王であるナダル様の思し召しらしく、娘のマヤ様――つまり新たな魔王と、部屋を交換したらしい。
しかも、ゆくゆくはナダル様は魔王城からも退去されるつもりだとか。
……何もそこまで権力の交代を印象づけることもないと思うんだが、それがナダル様のお考えなら、俺が口を挟むことじゃない。
それに、どのみちもう引っ越しは済んでしまったようだ。
俺が面接している間に人海戦術でさっさと済ませたらしいが、先に教えておいて欲しかったぞ! お陰で知らなかった俺は先に以前のマヤ様の部屋に向かい、警護の兵士に「ご存じなかったので!?」と呆れた顔で見られたやん。
ようやくマヤ様が最上階にいるとわかり、俺は機械式エレベーターを使わず、階段で十三階へ上がった。
いやぁ、久しぶりに城の最上階に出ると、感慨深いものがあった。
もはや季節は晩秋だが、つい数ヶ月前にはファルシオン伯側の兵士達やエスメラルダと死闘を繰り広げた場所でもあるからな、ここ。
――柄にもなく思い出に浸りつつ、石廊下を歩き出す。
とそこで、奥にある私室から見覚えのあるごついオヤジと、全然見覚えのない若者が出て来て、俺は思わず足を止めた。
オヤジの方は、最近になって無精髭を長く伸ばし始めたカシムで、俺を見た途端に嬉しそうに歩み寄ってきた。
「おお、ナオヤ様っ。よいところでお会いしましたな。陛下に呼ばれましたか?」
「ええ、まあ。ていうか、カシム――もかな?」
カシムさんと呼びかけ、俺は慌てて呼び捨てに変更する。
この人、身分の上下にうるさいからな。俺はさん付けで呼ぶ方が気が楽なんだが。
「いえいえ、わしは新たに召し抱えた家臣の身分を引き上げる許可を頂くのと、それから明日の出陣の同行を、陛下にお願いに参った帰りです」
「そ、それで陛下はなんと?」
「快く、同行をお許しくださいましたっ」
このおっさんがまた、嬉しそうに言ってくれるんだな!
こっちは「カシムがいりゃ、留守は安心だ」と算段してたっつーのに。
アテが外れたよ、ホント。
「魔王城の留守が心配なんですけど……う~ん」
「はっは! そっちはナダル様がいらっしゃるではありませんか。何も心配ありません。我々はひたすら、戦うことを考えましょうぞっ。わしも今回は、久しぶりに敵の首を刈りまくりますぞおっ」
「は……はははっ」
また相変わらず、イケイケなことを言う人だ。しかも、もう上半身は革鎧姿だしな。出陣は明日なのに、気が早いよ!
俺は内心で、ルクレシオンとの戦を結構心配してるってのにー。
引きつった笑顔で表面上は応じつつ、俺は内心でため息をついた。
「時にナオヤ様」
カシムは興奮した目つきで俺を見た。
「今回の戦のために奴隷兵士をかき集める途中、面白い男を見つけましたぞ」
「後ろに立ってる人ですか」
さっきから気になってた俺は、カシムより数歩後ろに立つ男を眺め、ひそひそと返す。
魔界風のスーツではなく、黒シャツに黒ズボンの地味な格好で、ただ剣のみを腰に吊っている。
黒髪を長く伸ばし、ハンカチみたいな布で背中で結んでいた。
戦士のくせにやたらと落ち着いた表情だし、かなり見栄えのいい少年に見える――が。
ただ……瞳が暗い。
まるで、喜怒哀楽など母親の腹に忘れてきたような目つきだ。
「実はさっきから気になってました。もしかして、身分引き上げの許可っていうのは、彼ですか? かなりの腕だと見ましたが」
「さすがはナオヤ様です、奴の実力に気付きましたか」
カシムは嬉しそうにニヤッと歯を剥き出した。
「わしは今回、とんでもない宝石を拾った気がしますわい。先行きが楽しみでしてなあ」
このおっさんはホント、荒事方面の話題が大好きだなっ。密かに苦笑していた俺は、しかし次の瞬間、顎が落ちた。
カシムが……こう述べたからだ。
「こいつは、異世界から召喚された肉の盾――いえっ、盾の奴隷の最後の生き残りです!」
「えっ」
情けないことに、俺は上擦った声を上げた。




