正直(すぎる)人
「それに、機会を与えてくださらないと、戦士将の仰る経験もできませんっ」
ローズは俺の目を直視し、はっきりきっぱり言ってくれた。
とてもじゃないが、「今のセリフ、ちょっと妄想入れるとエロくなるな!」とか茶化せる雰囲気じゃない。
あと、俺が面接官みたいに座ったままで、このゴージャス美人が面接される側っての、なんか違和感あるなぁ。普通は逆だろう。
「私の主張は間違っているでしょうか」
俺のしみじみした思いには気付かず、ローズはさらに畳みかける。
「いや……そりゃ間違ってない。間違ってないが、俺に言わせりゃ、殺し合いなんてあまり喜んでするものでもないんだけどな」
思わず本音が漏れてしまったが、相手はまた何か言おうと口を開けたので、俺は慌てて手を振った。
「ちょっと待ってくれ」
ローズに一言断り、俺は傍らのミュウにこっそり尋ねた。
「この子、正直に語ってる?」
「極めて正直です」
嘘発見器など問題にならない精度で真偽を当てるミュウは、そこは保証してくれた。
腰を屈め、そっと俺の耳元に囁く。
「ただし……彼女はナオヤさんが苦手なようですね。敵視してると言っていいです」
「ああ、なるほど……そうだと思ったよ」
俺は自嘲気味に言った。
だいたい俺、日本じゃ余裕の非モテだからな。こんなハイソな美人に好意持たれるわけがない。予想が当たってかえって確信したね。
俺はミュウに礼を述べてから、今度は自分からローズを見上げた。
「君を使うかどうか決める前に、一つ尋ねたいんだけど」
「なんなりと」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
俺はやや間を置き、思いっきり手札を広げた。
「ローズは俺を嫌ってるくせに、なんでうちの部隊に来るんだ?」
おぉ、見事に顔が強張ったぞ。俺は、いささか意地悪な感想を持ってしまった。
しかも、この子は思ったより正直だな。証拠があるわけじゃないんだし、「嫌ってはいませんっ」と言えばいいのに、衝撃を受けた表情の後は、なんだか悩んでいる様子だ。
「……嫌っているというのはではなく、異世界人は苦手なのです、私は」
辛抱強く待つと、ようやくローズは答えた。
「特にナオヤ様が来てからは、魔界の根幹を成していた旧来の法が次々に崩れ始めていますし」
「例えば?」
「例えば、獣人族にも奴隷以外の道を開いたことがそうですし、それにマヤ様に対する拝礼の作法も、ナオヤ様の提案で別のやり方に変わったと聞きます」
「ああ、なるほど」
そういや、ファルシオン伯の反乱時にこの帝都に侵入する時、俺はマヤ様に獣人の身分を引き上げろと訴えたな。
結局、あの後で勝負を決めたのは俺とマヤ様とカシムの部隊だったんだけど、マヤ様は後から約束通り、獣人達の身分を引き上げた。
とはいえ、それはあくまであの時に俺が声をかけた連中に限るわけで、まだまだ特例の数は少ない。それにもう片方の、あのかっこ悪い拝礼のやり方を変更した件についちゃ、むしろ褒めてもらっていいと思うんだが。
だって前のやり方って、頭頂部を床につけて、ケツを思いっきり上げる姿勢だし。
例えば眼前のローズみたいな美人がやるなら俺は見たいが、野郎とか獣人がそんなポーズするのは、見るに耐えないんで、いらん。
片膝ついて低頭の方が、絶対にかっこいいと思うがなぁ。
この点、一部を除いてマヤ様も同じ意見だったというだけの話だ。
その辺のことを遠回しに説明してやったが、ローズはあまり納得した風ではなかった。
「理由があるのはわかりますが……でも、今のはあくまで一例です。それに、先程は言いませんでしたがその」
「怒らないから言っていいよ」
俺が愛想よく促してやると、ようやくローズは顔を上げた。
物凄く申し訳なさそうに言う。
「魔界の貴族は、同胞に親しみすぎたせいか、自分達以外の種族に慣れていません。肌の色も髪の色も目の色も違うナオヤ様を見ると、現状に納得いかないというのもあります」
「へぇええええ」
いや、俺はいよいよ感心したね。
ローズは要するに、自分の差別心を赤裸々《せきらら》に語っているわけだけど、普通、そういうのは隠すもんやん?
言いにくそうであっても、真っ正直に打ち明ける度胸は買ってやりたい。こちとら、差別されるのは慣れているし。
……と俺は思ったのだが、美人度ではローズに負けないミュウは違う意見だったらしい。珍しくむっとした顔でまなじりを吊り上げた。
「つまり、差別心ですね……それも、ナオヤさんに対して」
おぉ……ヤバい。
切れ長の目が表情を失ってるぞ、ミュウ。この子がこんな顔する時は、大抵頭の中で、相手を敵に分類した時だ。「識別信号赤、敵!」みたいな感じだ。
「そ、その通りです……私には大きな差別心があります」
しかもまた、金髪のローズが顔を赤くして言うんだな。自分を恥じているわけで、この子はこの子で珍しい性格かもしれない。
自分に厳しく他人にも厳しいタイプだな、こりゃ。
「ですからっ。私はあえてナオヤ様の指揮下に入り、自分の差別心が正当なものか、それとも唾棄すべきものだったのかを、自ら見極めたいと思ったのです」
これはまた……なんとも正直な話で。




