同胞が迷い込む
俺は目の前に広がった光景に度肝を抜かれた。
さっきまでマンションの屋上にいたというのに、なんだこの、外国風の街。
石畳の道の左右には、五階建てくらいのお洒落な木造の家屋が林立している。ほぼ全ての建物が、傾斜の急な屋根は赤で壁は空色と、なかなか統一感があってお洒落だった。
なんかのテーマパークと思うくらいだが、もちろんそんなわけはない。
なぜなら、俺達は日本から転移してきたばかりだし、しかも周囲を歩いているのは明らかに洋風のふる~い服装……つまり、男は裾の長い上衣で、女はコルセットとか裾の広がったふんわりしたスカート姿なのだな。
ヨーロッパ辺りの十八~十九世紀くらいの格好だろうか。
「へぇええ……これがロクストン帝国か」
俺が感心して唸ると、腕にしがみついていたユメが激しく首を振った。
ちなみにユメという女の子は、日本で俺が出会った子なんだが……なんとこの子、後から異世界の結構名だたる女神(邪神とは呼びたくない)だとわかったのだな。
あれから紆余曲折あったが、結局俺はユメの元いた場所に日本から転移することにしたわけだ。
……なのに、着いた場所がユメの故郷じゃないって?
「違うよ、パパ。ここ……場所は間違いなく、ユメが元いたフランバール大陸だけど、明らかにロクストン帝国の町並みじゃない。あそこは石造りの街が多くて、もっと見た目が地味だもん」
途端に、俺の背後でユメの配下(女神だけに配下もちゃんといるのだ)がわんわんうるさくしゃべり出したが、どれもこれもただうろたえているだけのセリフなので、無視。
俺は可愛い顔をしかめたユメが左右を見渡すのを辛抱強く待ち、この子の判断を聞こうとした。
なんたって、このご一行の中で一番頼りになるのはユメだからな。
「それで、結局どこなんだ、ここ。ていうか、今からでもおまえの世界に戻れるのかい?」
「……そうじゃなくて」
恐ろしいことに、ユメ自身も途方に暮れた顔で、俺を見上げた。
見かけは中学生の女の子に見えるが、実はユメは、生まれてまだ一ヶ月ちょいしか経っていない。そして今は、本当に途方に暮れた幼女みたいな表情をしていた。
「どういうわけか、ユメが元いた時代より、遥かに時間がズレてしまったようなの。ここは元のフランバール大陸であって、もうフランバール大陸じゃないみたい」
丁度そこで、仲間の一人であるレイモンが、街の通行人を捕まえて訊いてきたらしい。息せき切って戻ってきた。
闇の軍団の軍団長みたいな立場なのに、なんという使い走り体質の奴!
「ユメ様っ。ここがどこかわかりました。どうやら、ルクレシオン帝国の帝都クレアールという場所だそうです」
「ちょっと! そんな国、フランバール大陸にないんだけどっ。ロクストン帝国はどうなったのよ、ロクストン帝国はっ」
気の短い女ブレイブハートのサクラがいきなり叫ぶ……不機嫌そうに。
「わ、私に言われても知るものかっ。私だってうろたえているまっ最中だぞっ」
レイモンはむっとして言い返した。
日本での平凡な記憶しかない俺にとっては、その驚きは共有できないものだが、とにかくこの事態が異常だっていうのはわかる。
元の世界に帰還できてないわけだからな!
そこで俺は、おそるおそるユメにお伺いを立てた。
「ええと、つまりどういうこと?」
ユメの背後の取り巻きもみんな静まり返る中、ユメはきっぱりと言ってくれた。
「つまり、この世界はユメ達にとっては遙かな未来の世界で、ほとんど異世界なの!」
『えぇえええええっ』
いやぁ俺を含めて、全員が絶叫調の声を張り上げてしまった。
お陰で、街路を歩く異世界の皆さんが、みんなこっちを見たな!
そんな簡単に言ってくれて、これからどうすんだよー。
……以上が、半年前に俺達がこの見知らぬ世界に来た顛末である。
ちなみに俺は間宮玲次、通称レージという。
娘代わりとなったユメがとんでもない出自の割に、俺自身は単なるフリーターの十九歳だったりする。
しかも、日本じゃそこら辺にザクザクいるような凡人だ。
なのに、日本で古き女神の転生というべらぼうな女の子に巡り会い、運命が狂って異世界にまできちまったわけだな。
ホントに……どうすんだよ、これ。
○――――○
日本から戻った俺こと松浦直也は、再びナオヤ・マツウラとして戦士将に復帰し、しかも復帰したわずか二十日後には、マヤ様は正式に魔王陛下となられた。
そう、現魔王陛下が引退し、新たにマヤ様の治世となったわけだ!
ひたすらマヤ様に仕えていた俺にとって、こんな嬉しいことがあるだろうかっ。
――などと、譲位式の最中に感涙してた俺だが……なんと、話はそこで終わらなかったのだな。
式典の真っ最中だった謁見の間に伝令が駆け込んできて、「ルクレシオン帝国が攻めてきましたっ」と来たもんだ。
当然、謁見の間にはマヤ様の怒声が響き渡り、俺は早速戦支度することになっちまった。
その間も続々と間諜やら国境砦からの伝令やらの報告が入って、ルクレシオン帝国軍の侵攻兵力は一万二千を優に超えることや、指揮官がレイバーグであることなどが確認できた。
ていうか、指揮してるのはレイバーグかよっ。
聞いた瞬間、俺は「げっ」と声を洩らしちまったな。だって、少し前にレイバーグを逃がしたのは、誰あろう俺自身だもんで。
どうもあいつ、ルクレシオンに戻った途端、即軍勢を仕立ててこっちへ攻めてきやがったらしい。
ま、まあ……そりゃあいつにも勇者としての立場ってものがあるし、そもそも国王に命令されてやむなくなんだろうけど、なんだかなー! 脱獄に協力したことに後悔はないけど、また激突することになったらたまらんぞ、しかし。
俺がそう考えて顔をしかめたのも、無理もないことと言えよう。
しかし、この後で事態はさらに二転三転するんだが――あいにくこの時の俺は、まだそれを知らずにいた。
とりあえず、間を置きながらでも、実験的に再開します。
いきなり登場しているレージは、ここに投稿中の拙作に登場するキャラです、はい。
新たな勢力が、ナオヤと同じような立場ならどうか……と考えて始めたもので、別に俺魔を出した出版社さんに「それでいこう」と言われたわけじゃないです。
(逆に言うと、こういうややこしい設定にしたことで、4が出せなくなる可能性もありますが、その時はその時だと思っています……書き出しちゃったし、仕方ありません)
というわけで、今後どう転ぶかわかりませんが、ひとまずちゃんとした区切りまでは続けたいものです。
なお、ナオヤの独白で、マヤ様が魔王になっていることがわかりますが、こちらの事情については3の番外編(本編以外のおまけ短編)でちゃんと書いてますので、ご安心を。
タイトルについては、今のところはそのままにしておきます。
本当に4巻が出る(つまり元俺魔より先が出る)ことがあれば、その時に微妙に改訂することになるでしょう。
それでは、よろしくお願いします。




