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砦攻略(の予定)――その2

 


 もちろん俺以下、馬上の者は全員が降りて拝礼したし、歩兵の奴隷はその場で這いつくばった。

 例の間諜かんちょうエルザ(めでたく同行させることになった)のように、そっぽを向いてた奴は、近くの二等戦士が無理に頭を押さえて下げさせていた。

 それどころか、見物に来ていたわけのわからん野次馬連中まで、泡を食って地面に額を擦りつけていた。さすがに恐れられてるなぁ、マヤ様。

 俺は例によって片膝をつく独自のやり方だが、たまたまそばにいたヒューマノイドのミュウ(無事にあそこから連れ出せたのだ)も、俺の真似をしていた。




「ナオヤ、早い出陣だな」


 ウエストの細さを強調するような漆黒のコルセットドレス姿のマヤ様は、俺の前まで来ると機嫌よく声をかけてきた。

 相変わらず颯爽さっそうたる立ち姿であり、覇気の固まりのように見える。

 つーか、まだ十三歳なのに俺と身長もそう変わらないし、むちゃくちゃ大人っぽいよな。


「はっ。グズグズする意味もあまりないので。マヤ様こそ、わざわざ見送りに来てくださり、ありがとうございます」

「ナオヤの、指揮官としての初陣とあらば、無視もできまい」

 笑って述べた後、マヤ様は全員に声をかけた。

「皆の者、立って楽な姿勢を取るがよいぞ。マヤはナオヤと少し話がある」

 手招きするマヤ様に連れられ、俺はマヤ様と共に少し端に寄った。



「何とか陣容を整えたようだな」

「お陰様で」

「うん……しっかりやるがよい。マヤもこの後、すぐに出陣する予定だが、おまえの成功と無事を願っている」

「えっ!?」

 言うまでもなく、この「えっ!?」というのは、「この後、すぐに出陣する予定」というマヤ様の言葉である。聞いてないんですが!

 俺はよほど心配そうな顔をしていたらしく、マヤ様は苦笑して俺の二の腕辺りを軽く叩いた。

「なんという顔をする。おまえに比べれば兵力も五倍近いし、それに基本的には敵をあざむく陽動が任務だ。実際の戦闘には、遭遇しないはずだぞ……マヤは残念だがな」

「陽動、ですか?」

「うむ。父の本隊が北の前線に向かうのに合わせ、マヤは軍勢を率いて父からやや離れた前線を視察する。敵の目をこちらへ引きつける狙いもあるが、領内から出ることはない。初陣でもないし、案ずるには及ばぬ」

「そう……ですか」

 俺が息を吐くと、マヤ様はだいぶくすぐったそうな表情で俺を見た。


「ナオヤは、マヤのことを心配しているのか」

「そりゃ当然ではないでしょうか」

「そうか? 父だけはたまに心配してくださるが、これまでは、他にマヤの心配をするような者はいなかったな」

「失礼ながら」

 ためらいはしたが、俺は思い切って正直に言った。

「どれほど偉大な人でも、完璧では有り得ないはずです。もちろん俺は心配しますとも」

「そう……だな」

 意外にもマヤ様は怒らなかった。

 綺麗な薄赤い瞳を細めると、長い金髪を手で払った。

 そんな細かい仕草ですら、この人がやるとめちゃくちゃかっこいい。


「直臣のおまえには白状してもよかろう……自分が完璧ではないことを、マヤは誰よりもよく自覚している。もちろん、他の者にそんな素振りを見せる気はないが」


 しばらく、お互いに黙り込んでしまった。

 俺は個人的なことを打ち明けてくれたことに感激していたからだし、マヤ様の方は多分、この後の出陣のことでも考えていたのだろう――と思ったら、マヤ様がいきなり言った。

 彼女にしては珍しく、やっと聞こえるほどの小声だった。


「帝国のとりでを落とすこの任務が、かなり無理があることは承知している……しかし、おまえの今の階級では、残念ながらこれ以上の兵力を与えることはできない」


「今でさえ、だいぶ破格なのは理解してますよ。……ご安心ください、与えられた兵力で何とかしますから」

 何のアテもないのに、自信ありそうにフカす俺、我ながら呆れるな。

 しかし……マヤ様が滅多に見せないような上目遣いの切ない顔で俺を見ているのに、ここで弱気なコトは言えたモンじゃない。

「それに、俺はこれがマヤ様の心遣いだとちゃんと理解しています。少しでもその信頼に応えられるようにやってみますよ」

 調子に乗ってそこまで言うと、マヤ様はようやく微笑してくれた。


「かつて、おまえの顔を予知夢で何度も見た時は、『なぜこのマヤともあろう者が、こんなオドオドした男を夢に見るのか』と疑問だったものだが……今のナオヤは、辛うじて戦士の顔には見えるようだ。生意気なことも言うようになったし」


 優しい口調で、実にがっかりなことを述べた。

「うわっ、あんまり褒められてる気がしませんがっ」

 俺が呻くと、何がおかしいのかマヤ様は声を上げて笑った。ほとんど笑い声を聞いたことがなかったので、無茶苦茶新鮮だった。

 しかも、昔の俺なら即ハアハアしそうなほど愛らしいし。これほどの美貌を持つ人ともなると、どんな表情をしても絵になるが、やはり笑顔が一番である。

 ……おまけに、胸を強調したアンミラの制服みたいなドレスも素晴らしい!

(まあ、魔王の一人娘に対してこんな罰当たりな感情を持つのは、俺くらいだろう)



 

 二人で肩を並べて皆の元へ戻り、俺はまた馬上の人になった。

 なぜか驚き顔のギリアムに、「出陣する者はみんな揃った?」と尋ねる。

「ぎょ、御意」

「じゃあ、開門の要請を」

「はっ」 

 低頭し、ギリアムが声を張り上げる。

「――ダークプリンセスが直臣、上等戦士ナオヤ・マツウラ指揮下の軍勢が出陣するっ。衛兵、速やかに門を開けよ!」

 要請に従い、衛兵が門の左右でそれぞれ滑車のレバーを操作する。黒い巨大な門が、ゆっくりと音を立てて左右に開く。

 俺は、まだ離れた場所から見ているマヤ様に告げた。


「では、行って参りますっ」


「必ず生きて戻り、マヤに報告するのだぞ!」

 顔を上げてまっすぐにこちらを見るマヤ様は、驚いたことに少々心配そうに見えた。凛々《りり》しい顔と怒った顔しか見たことないので、これも凄く新鮮だ。


  お陰で俺は、指揮官にあるまじきニヤニヤ顔で手を振り、魔界の帝都マヤ(そう、帝都にはマヤ様の名前がついてるのだ!)の門を出て行く羽目になった。 


 ……それでもまあ、とにもかくにも出陣だ!




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