開かれたゲート
「え、ええっ。だって……そんな……でも、じょ、冗談でしょ!?」
混乱した俺は、久々にキョドりまくったね!
いやだって、俺がエスメラルダの邪眼に引っかからないくらいだから、俺なんか足下にも及ばない精神力持つマヤ様なら、楽勝だと思ってたし。
無論、なんの証拠もないことだけど――でも、前にエスメラルダが襲って来た時だって、あいつはミュウを邪眼の虜にはしたけど、マヤ様は放置だったもんな。
しかし……冗談でも嘘でもなかった。
マヤ様は巨大な大剣を軽々と引っさげ、一陣の風みたいな勢いで俺の方へ駆け寄ると、斬撃を浴びせてきた。
それこそ、横殴りの一撃で、こっちの身体が泣き分かれになるような勢いのヤツだ。すげー風切り音がしたぞっ。
「ちょっ!?」
あ、あぶねーーーーっ。
冷や汗をかきつつも、俺はなんとか避けて飛び退く。
前髪を掠ったよ、今っ。
「あっはっは!」
エスメラルダの馬鹿が思いっきり愉快そうに哄笑する。
「その女は確かになかなか私の瞳に屈しなかったけど、でも最後はやっぱり掛かっちゃったわよ。君だって、時間さえかければ何とかなったかもねぇ」
「おのれっ」
「リベレーターめっ!」
俺が焦りまくっているのを見て、魔王陛下とレイバーグが二人同時に動こうとした。
――しかし。
「うるさいわねっ。あんた達はこの楽しいショーを黙って見てなさい! 相手なら、後で幾らでもしてあげるからっ」
そんな勝手なことを喚くと、ヤツはいきなり素手の左手を大きく振った。
途端に、赤い閃光みたいなエネルギーがブーメランみたいな形になって飛び、襲いかかろうとした魔王陛下達に飛んでいく。
当然、二人共慌てて避けた……レイバーグは傷ついた身体で横っ飛びに避け、そして魔王陛下は翼を使って上空へ。
途端に、それを待っていたかのように、またエスメラルダが左手を――今度はなぜか高々と天へ向かって差し上げた。
同時に、聞いたこともない発音の言語で叫ぶ。
甲高い声で、こっちの鼓膜が破けるかと思うほどだった……つか、翻訳の魔法すら効かないって、どんな言語だよっ。
しかもしかも――その異国の叫び声が終わった途端、夜空の彼方から薄赤いヴェールみたいな光が降りてきて、エスメラルダと俺達、つまりあのクソ女と俺、そしてマヤ様の三人をすっぽりと押し包んでしまった。
しかもこれ、円筒形の赤い光が、俺達三名を隔離したようなものらしい。
魔王陛下とレイバーグが、すぐさままたエスメラルダに飛びかかろうとしたんだが、なぜか赤い光の中に入ろうとした途端、思いっきり弾かれちまったんだな。
二人して何か怒鳴っているが、もはやその声すら聞こえない。
どうも、音声まで遮断しているらしい。
「ふふん」
仕上げに満足したのか、エスメラルダがほくそ笑む。
「こっちが片付いた後、後でゲートの幅を一気に広げて、今度はエセ勇者と魔王の首を刎ねてあげましょう。それまでは、こっちのお楽しみよ」
身勝手なことを吐かすと、エスメラルダはマヤ様の方を見て叫んだ。
「ほら、何してるのよ、貧乳女っ。捕らえられないなら、お得意の衝撃波? とにかくなんかそんな力があったでしょ。そんなのも活用して、さっさと決めなさい!」
「――うおうっ」
クソ女が余計なことを吐かしたせいか、いきなりマヤ様が腕を振り上げ、本当に衝撃波を放った。もちろん、見えなくてもタイミングくらいは読めるので、俺はまたしても転がって避けたが、今回は左腕に鈍い衝撃が当たって、痺れた!
どうやら、掠ってたらしい。
ついでに言うと、エスメラルダが魔王陛下達とやり合い、「ゲート」なるものを開いている間も、俺はもちろん、ずっとマヤ様の攻撃を避けまくっていたのだ。
そ、そろそろ息が切れてきて、マジでヤバい。
マヤ様のスピードはエスメラルダには及ばないんで、なんとか避けられるんだが、それでも体力には大きな差がある。HPは確か、15420もあったしな! このままいつまでも避けまくるのなんか無理に決まってる。絶対、俺が先にヘバる。実際、マヤ様は息切れ一つしてないけど、俺はもうだいぶへばってきた!
「マヤ様っ」
俺は右へ左へと最小限の動きでかわしまくりつつ、マヤ様に必死に呼びかけた。
大きなモーションで避けるのをやめたのは、少しでも体力を温存するためだ。
「貴女ともあろう方が、どういうことですっ。正気に戻ってください!」
「あははっ。テンプレすぎて、笑えるわね! 無駄よ、無駄っ。わからないの、ボーヤ。そいつはもう、私の手駒ですからね」
エスメラルダが調子こいた声で、笑いながらほざく。
しかも、腕組みなんぞして、見物してやがるしなっ。この瞬間にも、赤いヴェールの向こうでは魔王陛下とレイバーグがガンガン攻撃を加えているんだが、このゲートを覆う赤い障壁は、想像以上に強固らしい。
忌々しいことに小揺るぎもしないし、彼らの声すら届かない。
どうあっても、俺が自分で何とかするしかないらしい。
「マヤ様っ、本気で操られてんですかっ。貴女ともあろう人がっ」
無駄だ無駄と言われても、俺は避けまくりつつ、呼びかけをやめなかった。ちなみに、間違っても刀であの大剣を受ける気はない。ステータス上では、筋力で八倍以上の差があったのを、忘れてないし。刀が持ち堪えても、多分俺の腕が一発でオシャカになる。
だから、取り押さえて気絶してもらうか、あるいは呼びかけるしかないわけで――。
マヤ様の真紅の瞳を覗き込んでまた呼ぼうした――が。
む……今なんか――。
「じれったいわねぇ、まだなのっ」
あ、クソ女が痺れを切らした。
「やっぱり、その子のスピードについていけないみたいね。いいわよ、私が手伝ってあげようじゃないっ」
言うなり、今度はエスメラルダがダッシュでこっちへ来やがった。
この上、駄目押しかよっ。




