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発見

 


 マレク山の頂上付近まで、俺はなるべく斜面に生えた木の間を縫うようにして上った。

真っ黒で巨大な葉を持つ、魔界特有のブラックウッドだが、ここのは斜面に根を下ろしているせいか、地上で見るよりは小振りだが――。



 それでも樹と樹の間はそこそこ間隔があり、無理すれば歩いて登れないことはない。

 一応、山の途中までは獣道に等しいような小道もあったが、しかし真面目にそんな所を通るほど、俺も迂闊うかつではない。

 さすがにこの時点でエスメラルダがマレク山に来ているとは思わないが、万一ってこともあるしな。

 山肌に生えた木の間を歩くのは想像以上に難儀だったが、今の俺は昔と違って無駄に体力だけはあるので、三時間ほどで山頂近くまで来ることができた。

 やっぱり、日頃のトレーニングは無駄になってない。


 まあ、所詮は六百メートルクラスの山ってこともあるけど。

 木立の陰からこっそり見た山頂は、そこだけブラックウッドが途切れてぽっかりと空白地帯になっている。見通しの利く草原地帯って感じで、なるほどエスメラルダがここを指定した理由がわかった。


 これなら、誰かが近付けば一発でわかるもんな。


 俺は少し考えてから、手近な木に登り、上の方の枝に立って帝都の方を見下ろしてみた。

 夕暮れが迫った帝都マヤにそびえる魔王城も、それから城に続くメインストリートも、ここからだとはっきり見える。

 街中を、人間タイプと獣人タイプの住人が入り交じって歩く様まで見え、魔界の特殊な光景を堪能することができた――のはいいが。





「……あれ?」


 ちょっと帝都から目を離し、今上がったブラックウッドよりずっと左手の方……その百メートルほど下を見る。

 急な斜面の途中に、いわばマンションのガーデンテラスみたいに張り出した部分を見つけてしまった。

 ここからぐるりと見渡す限り、この山には他にそんな地形はない。

 テラス部分の平地はさほどの面積ではないから、下から上がる時は見えなかったのだ。


 こうなると、もう見るからに怪しい場所である。

 枝に立ったまま伸び上がるようにして覗き込むと、しかもどうも洞窟……らしきものがあるようなんだな。

 そんなものがあるとは全然聞いてなかったが――しかし、魔界においてはこのマレク山は全く利用価値のない山らしく、ロクな道もないことからわかる通り、普段から人が寄りつかない。


 よって、そんなテラスが中腹にあろうと、洞窟があろうと、誰も知らなくても不思議はないかもしれない。

 既に陽は落ちかけていたので迷ったが……やはり俺は、朝が来る前に調査しておくことに決めた。一応、背中に斜めに背負った革袋に、ランタンの用意だけはしてきているし、何とかなるだろう。


 ……と言うより、どうしても朝まで待てなかったのだな。

 だってほら、何か魔王陛下の手がかりがあるかもしれないしそれに――何かしている間は、マヤ様のことを考えて焦燥感しょうそうかんに襲われることもないだろう。




 ブラックウッドを降りると、俺はせっかく登った斜面を、また慎重に下りて行く。

 そばまで来た時点で、そっと周囲を窺ったが、特に人の気配はない。

 ……というより、今この山にいるのって、実は俺一人かもしれんな。

 めっぽう暗いし、昔の俺だったら絶対に半泣きになっている気がするんだが、敵味方の死を何度も見たせいか、もうこの程度じゃ何も感じない。

 あんまりよいことじゃない気がするが、今だけは有り難かった。


 安全を確認した後、俺は問題のテラス部分にそっと足を踏み入れ、洞窟らしき黒い穴を睨む。どう見ても天然の洞窟だが、気に入らないことが一つ。

 ……洞窟の前に、足跡が複数残っている。ほんの微かだが、しゃがみ込めば足跡だとわかった。砂利まじりの土壌なので、足跡が残りやすいんだな。

 とはいえ、昔の古い足跡ならとうに消えているだろうから、微かにせよ残っているというのは、まだ最近……少なくとも一ヶ月未満じゃないか?


「魔王陛下の行方がわからなくなった頃とも、被るわけな」


 独白すると、俺は革袋からランタンを取り出して火を点け、洞窟の中に足を踏み入れた。

 ここから探る限りでは、中に人の気配はない……とにかく、生者の気配は。

 しかし……なんだか嫌な感じがする。微かに血の臭いがするし。



 

 

 幸か不幸か、この洞窟は分岐もないまま、ずっと真っ直ぐに続いているだけだった。

 正直、どんな迷路に誘い込まれるかと思った俺は、あまりにも素直に道が続くものだから、拍子抜けしたほどだ。

 洞窟の突き当たりまで、五分もかからなかった。

 そこは広場のように少し場所が開けていて、天井までも多少の高さがあった。

 俺は、着くなり驚きのあまり立ち尽くした。


 ……魔王陛下を、とうとう見つけてしまったからだ。




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