一難去って、また一難
俺が半狂乱でミュウに呼びかけている間に、さすがに所在がわかったのか、ギリアムやネージュが駆けつけてきた。
特にネージュは、最初は喉元に複雑なメカを晒したまま動かないミュウを見て驚いていたが、やがて、ふいに言った。
「ねえ、ナオヤ君。ミュウってその……一種のホムンクルスだったわけ?」
「……俺にとっては普通の人間だよ」
我ながら沈んだ声で返すと、ネージュはしゃがんで無理に俺と視線を合わせ、肩を揺さぶった。
「そうじゃなくて――人間じゃないわけね? だったら、活動停止状態でも何とかなるかも」
「えっ」
さすがに涙目だった俺も、ネージュに注目した。
「な、直せるのか? こんな未来のシステムを?」
「……ええと、普通は死んじゃった人間は、さすがのあたしでもどうにもならないけど」
ネージュは俺の目つきにたじろぎ、生唾を呑み込んだ。
「でも、あたしは状態復元の魔法――つまりレストレーションが使えるわけ。これは、建物の破壊とか簡単な機械を復元するための魔法だけど、もしもミュウがホムンクルスに準ずる人とか、機械を組み込まれた人なら、復元できる可能性はあるってこと」
「それを先に言ってくれよっ」
俺は目をまん丸にして言った。
「なら、すぐやってくれ、今やってくれ!」
あっという間に希望を持ち、今度は逆にネージュの肩を揺すった、揺すりまくった。
「で、でも、この子はほら、操られててっ」
揺さぶられつつも、ネージュが言い募る。
横から、スーツ姿のギリアムも口添えした。
「そうです。見ていた衛兵によれば、ミュウは完全にリベレーターの手で操られていたとのこと。では、仮に元に戻っても、すぐにまた襲いかかってきますよ」
「だからってこのまま――」
言いかけた俺は、駆け寄ってくるもう一人の魔法使い……つまりエルザを見て、歓喜した。
とりあえず、急場を凌ぐ方法を思いついたからだ。
「きゃっ、ミュウはどうしたの、それ! だいたい妙な機械が喉の下に――」
とか何とか言いかけた彼女を無視して、いきなり彼女の手を引っ張る。
「エルザ、いいトコに来た!」
「な、なにがっ」
ドン引きする彼女に、俺は頼み込んだ。
「今からネージュがミュウを復元……つまり、治してくれるらしい。もしその後でミュウが目覚めたら、エルザがすかさず魔法で眠らせてくれ。急場凌ぎだけど、やらないよりマシだ」
「え、ええと……あたし、今ついたばかりで、何が何やらさっぱり」
「いいから、早くスリープを使う準備を!」
俺が言い返すより先に、ネージュがびしっと言ってくれた。
「こういうのは早い方がいいわ。あたしはすぐにレストレーションの魔法を使うから、彼女が目覚めたら、即座にスリープをかけて!」
「よ、よくわからないけど、わかったわよぅ」
俺達の気迫に押されたエルザが、十回近く頷く。
ネージュは既に俺が抱き上げたミュウの喉元に手をかざし、詠唱に入っていた。すると、詠唱に応じて掌が白く光り出し、ミュウの露出した喉元が見る見る元に戻っていく。
俺は一応、注意深く人工皮膚の下の複雑なメカを注視していたが、見ていた限りでは、そっちもちゃんと復元されていたように思う。
すわ、成功か!
喜色満面で俺は思い、ネージュも「終わったわよ」と告げた。
しかし……あいにく、ミュウに変化がない。
さっき閉じたばかりの目も、一向に開く兆しがなかった。
「ま、魔法は成功したんだよな?」
「もちろん! おかしいわね……特に失敗したような感じはしなか」
言いかけたネージュが、いきなり目を見開いた。
「ナオヤ君、危ないっ」
「ぐっ」
かっと碧眼を見開いたミュウが、俺の喉を両手で締め上げるところだった。俺は、(おそらく)喜びと焦りが入り交じった実にアレな顔でエルザを見て、ぱくぱくと口を動かす。
早く、早くスリープぅううう、と思うのだが、このボブカット巨乳女、最初はあわあわとうろたえるだけで、忘れてやがるし!
俺の切ない目を見て、ようやく思い出したらしく、慌ててスリープをかけてくれた。
ようやく効果が出てミュウの手が緩むまで、生きた心地がしなかったよ!
「な、ナオヤ様!」
「ナオヤ君っ」
ギリアムとネージュが、冷や汗をかいた顔で俺をミュウから引き離してくれた。
というのも、眠ってしまったとはいえ、ミュウの手が俺の喉に食い込んだままだったからだ。
離した後の喉を見て、ネージュが口元に手をやったくらいだ。
「うわぁ……痛そう。その痣、当分、取れないわよ」
「――! げほげほっ」
俺は喉を押さえて咳き込みつつも、顔には満面の笑みが浮かんでいた。
痣の十や二十がナンボのもんかとー。
ミュウが助かったなら、どうってこたぁない。むしろ、名誉の負傷だろ。
「い、いいさ。とりあえず、ミュウは助かったんだ。それ以上、望むことはない。もちろん、本当にどうにかするのは、これからにしてもさ」
まだ座り込んだまま、明るく告げる。
「まあねぇ」
「あたしのお陰ねっ」
頷くネージュと、鈍くさいエルザが、ニコニコと賛同する。
エルザについては一言二言、文句を言いたかったが……まあ、今は気分がいいので俺もうるさく言うのはやめた――が。
なぜかギリアムが、葬式帰りみたいな景気の悪い顔で俯いているので、声をかけてやった。
「なんだよ? ずっと暗いけど、なにかあったのか、ギリアム?」
「はい……実は。それどころではなかったので、控えておりましたが……ご報告しないわけにはいきません」
「え……どういうこと?」
また簡単に奈落の底まで気分が落ち込み、俺は思わずミュウを抱えたまま、その場で正座しちまった。
ギリアムは――遠回しに言っても同じだと思ったのか、文字通り、実にあっさり言ってくれた。
「ダークプリンセスが誘拐されました」
……はい?
モウイッカイ、イッテクレル?




