戦闘継続!
最後の瞬間、何とか一回転して足から着地しようとしたらしいが、あいにく、俺が最後にカマした腹切り攻撃がだいぶ堪えていたらしい。
回転の途中で背中から中庭に落ち、大きく弾んだ。
俺も思いっきり後追いをするはずだったが――途中でガクッと落下の勢いが止まり、降下速度が一瞬で緩んだ。
「――マヤ様っ」
破顔した俺は、空中で十階の窓を仰ぐ。
血の気が引いたマヤ様の顔が、一心に俺を見ていた。
「この――愚か者めっ」
「いや、でもマヤ様だってちゃんと俺の叫び声に反応してくれたじゃないですか」
……つまり、俺的にはなにも自殺のつもりはなかったのである。
いや、その危険性があったことは認めるが、マヤ様は高確率で気付くはずだと思っていた。ご自分の、特殊な力に。
少し前、ルクレシオンの砦に二度目の攻略を試みた時、空中からロープで降りようとした際、マヤ様が俺やエルザを、落下の途中で減速させて下ろしてくれたことがあった。
いま俺が狙ったのは、あの時のように俺だけ落下の勢いを緩和してもらうことだったのだ。
もちろん、最初から考えていたわけではなくて、マヤ様が飛び込んできた瞬間に思いついた、苦肉の策である。
元自殺志願者の俺じゃなきゃ、こんな無茶作戦は思いつかんかもしれんけど。
……満足感に浸っていたら、頭上から罵声が降ってきた。
「ナオヤの大馬鹿者おっ。マヤのこの力には限界がある! ここまで離れていて成功したのは、これまでで初めてなのだぞっ」
「うええええっ」
それを先に言ってほしかった!
まあ、知ってても俺はやってたかもだけど。
心配した腹いせか、最後の数メートルは不可視の支えが消え、俺はふつーに落下した。でもまあ、さすがに俺も無様に倒れることはなく、これはすたっと着地できた。
……のはいいんだが。
少し前の方に、大の字で倒れていたバルバレスが動き出したのには、正直、驚いた。
こいつ、まだ生きてるのかっ。
生きてるだけじゃない……ヤツは増悪に染まった金色の目で俺を睨むと、大怪我してるくせに、剣を持って立ち上がりやがった。
こっちは丸腰だってのに、こいつはまだ剣を手放してない。
「小僧、殺してやるぞ!」
言うなり、腹から血をまき散らして走って来た。
その瞬間、同時に複数のことが起こった。
「ナオヤっ」
「ナオヤ、投げるぞっ」
マヤ様の叫び声とレイバーグの声が重なる。
マヤ様は純粋に驚きの声で、そしてレイバーグの方は、俺の注意を喚起しようとしていた。というのも、ヤツは動き出したバルバレスを見た途端、とっさに床に落ちた俺の刀を拾い、窓から投げようとしていたのだ。
ちらっと見上げてそれを確認した途端、俺は素手で走り出す。
「殺すっ」
「いーや、おまえには無理だねっ」
血塗れで走る壮絶なバルバレスが躍り込んできた途端、あの特殊な感覚が俺に来た、やっと来てくれた!
唸りを上げて飛来したバルバレスの斬撃を、俺は身を低くしてギリギリでかいくぐる。見事に避けきった瞬間、大きく跳躍しつつ叫んだ。
「投げてくれっ」
「よし!」
静止したような時間の中、俺とレイバーグのみが、当たり前のように普通に動いている。こいつも、俺と同時に例の超感覚が来たらしい。
さすがに似た力を持つ者同士である、息はぴったりだ!
レイバーグが窓から放った魔力付与の刀が、薄赤い光を放ちつつ、真っ直ぐに落ちてくる。俺はその柄を空中で素早く掴むと、一回転して着地した。
即座に身を翻し、こちらに向き直りつつあるバルバレスの懐に、今度は俺の方が飛び込む。
「これで――どうだっ」
闇の中に真紅の軌跡が一閃し、ヤツの右腕を肘から断ち切った。
剣を握ったままの手が明後日の方向へ飛んでいき、ヤツが苦痛の表情を浮かべる暇もあらばこそ、俺はすかさずまた動く。
今度は刀を振り切った状態から右足を支点に一歩踏み出し、返す刀で第二撃を叩き付けようとした。
「おのれっ」
しかしバルバレスは最後の瞬間、まだ自由な左手を振り上げ、俺の顔面に掌を向けた。
「食らうがいい!」
「うおっ」
くそっ、そういやこいつらも同じように動けたなっ。
地下トンネルで見た赤い光線みたいなのが発射されるのと、俺が大地に身を投げるのが、ほぼ同時だった。
すぐ上を難儀な怪光線が通過するのがわかった。
微妙に熱まで背中に感じてぞっとしたが、俺は夢中で前転をこなし、立ち上がる際、今度こそ逆袈裟斬りにヤツの胴を存分に斬った。
「――っ!」
さすがに血飛沫を挙げて仰け反るバルバレスに、俺は超速状態なのを生かし、返す刀で首を狙って渾身の斬撃を放った。
いや、こんな化け物なら、また復活しないとも限らないし。
もはやヤツも避ける余力がなく、赤い軌跡が閃光のように走ってすっぱりとヤツの首を両断し、すっ飛ばしてのけた。
俺が飛び退くと、やっとヤツの巨体が倒れた。首もごとんとその辺に落ちて転がっていく。
「よくやった、ナオヤ!」
……破顔して顔を上げようとした俺は、あいにく新たな殺気に気付いて、慌てて振り向く。
ま、まだ仲間が残ってたのかっ。無理ゲーすぎるだろ!




