表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/317

貞操の危機

 

 ……ところがである。


 よい気分になり、捜索の手はずも整え、「さて、満月までが勝負だぞ」と心に誓ってから床についたその夜――俺は、ドアを連打する音で目覚めた。

 寝ぼけた俺がベッドから這い出す前に、どうやらミュウが先に応対してくれたらしい。

 しばらくして、珍しく焦ったような足音が部屋に飛び込んできた。


「ナオヤさんっ」

「ど、どどうしたっ」


 ミュウの慌て振りに、俺まで青くなって身を起こす。

「レイバーグさんが襲われてるそうですっ」

 簡潔なセリフを聞いた瞬間、本気で血の気が引いた。

「ま、まさか相手は」

「はいっ」

 ミュウはあっさり頷いてくれた。


「おそらくはリベレーターが城内に侵入して、あの人の部屋で――」


 皆まで聞かず、俺はベッドから飛び出した。

 壁際に立てかけた刀を着物みたいな夜着の帯にぶち込み、部屋を飛び出す。

「ナオヤさんっ」

 無論、その後を追ってミュウが駆けてきた。

 俺は振り向きざまに短く尋ねた。

「相手は、本当にリベレーターなんだね!?」

「まだわかりませんが、急を告げに来たメイドの方の話だと、黄金色の目をした男性だったそうですので」

「そりゃ、確かにリベレーターだ!」 



 くそっ、なんてこったい。

 やけに何事もなく帰れたと思ったら、尾行されてたのかっ。

 機械式エレベーターだと動くのが遅くていらいらするので、俺は階段を二段飛ばしに上がり、レイバーグのいる十階へ急ぐ。

 昼間の面会の後、護身用にダガーを届けておいたから、簡単には殺られないはずと思いたいが、相手はあのリベレーターである。


 レイバーグは既に一度敗れているし、しかも今のあいつは本調子じゃない。

 十階へ着くまで気が気ではなかったが、着いたら着いたで、石廊下にいた警備兵達が一斉にこちらを振り向いた。

 数は、およそ五名はいただろうか?

 当然、俺がつけていた護衛である。


「おいおい、こんなところでどうしたんだよ? レイバーグの護衛はどうなって――うおうっ」


 いきなり問答無用で斬りつけられ、俺は危ういトコで仰け反って避けた。


「ナオヤさんに何をするんですっ」

「いきなり何を――」


 俺が咎めるより先に、飛び出したミュウが相手の腕を掴んで、気安く壁に叩き付けた。息が洩れるような声がして、そいつは廊下に潰えてしまう。

 しかし、残り四人が抜剣して即座に襲いかかってきた。


「ちくしょう、読めたぞ!」

 やむなく俺も抜刀して、相手の剣撃を受ける。

 警備兵の据わった目つきを見て、事の真相を理解したのだ。

「こいつら、リベレーターに操られてる!」

「で、では?」

 とっさに剣撃を避けたミュウが、俺に指示を求めた。

「決まってる! 殺さないようにして、なんとか気絶させてくれっ」

「わかりましたっ」

 俺とミュウは頷き合い、二人して一斉に攻勢に転じた。

 俺は風のように相手のふところに躍り込むと、身をさばいて斬撃を避け、同時に相手の首筋に峰打ちで剣撃を叩き込む。

 あるいは、ちょっとダメージが増すが、剣腹で横から殴りつけるようにこめかみをぶっ叩くなどして、次々に倒していく。

 さすがに相手は自分より格下だし、そうそう苦労もしなかった。

 俺が三名にミュウが一名を片付け、無事に残りを気絶させた。


「……ナオヤさん、凄い」


 俺を見て、ミュウが目を丸くした。

「なにが?」

「だって……戦闘用に造られたわたしより、素早く片付けてます」

「最近、敵の動きが凄くスローモーに見えるんだよ。そのお陰かな」

 照れ隠しのように呟き、次の瞬間、俺は慌ててまた走り出した。

 そんなことより、レイバーグだっ。




 ノックを省略してヤツの部屋を開けると、苦痛に顔を歪めるレイバーグがいきなり見えた。

 そして正面の窓を背に、そんなヤツを羽交い締めにして、首筋に剣を突きつけている男がいる。

「おや……もう私の手駒を片付けたのかな? 意外と早かったが」

 金貨みたいにぴかぴかした不気味な瞳の男が、俺達を見て、ニイッと笑った。

 着ている服は、こちらの世界でよくある裾の長いスーツ姿だが、もちろん、こいつがバルバレスだろう。


「ああ、そうか……地下で会い損ねた時はよく顔が見えなかったが、君がナオヤ・マツウラだろうな。そういえば、エスメラルダが随分と残念がっていた。君を殺せなかったと」

 何が愉快なのか知らんが、バルバレスは喉の奥で笑った。

「では、私の獲物としておこう。たまにはエスメラルダの鼻を明かすのもいい」

「バルバレス……だよな?」

 俺は慎重に刀を下段に構え、相手の出方を窺う。

「レイバーグをどうする気だ!?」

「この、背伸びした可憐な少女か」

 細い喉元に肘を回すようにして締め上げている相手を、バルバレスは舌なめずりするように見下ろした。


「いや、あの夜に犯す予定が狂ったのでね……取り返して改めて犯すんだよ、もちろん。ついでに君とその女は殺して行くかな」


 こ、こいつ……エラい堂々と言いやがる。

 もうなんていうか、最初から腹が真っ黒じゃないと、なかなかこんなセリフは出てこないな。某アニメに出てくる、腹黒の伯爵みたいな顔しやがって。


「俺が、あっさり行かせると思うか!?」


 睨み付けたが、向こうは涼しい顔だった。

「確かに君は奇妙な男だ……それを言うなら、この子もね。我々の瞳に心を縛られないのは、それだけでも大したものだよ。しかし、かといってやはり単なる人間ではね」

「勝ち目がないってか!?」

 調子よく答えながら、俺はレイバーグの必死な目つきに気付いていた。


 なぜかこいつ、さっきから下の方を見て、ちらちら合図を送っているんだな……それで俺もこそっと視線を移動させ――やっとヤツの狙いを理解した――気がした。


 い、嫌な予感がする……この馬鹿、無茶なこと考えてやがるな!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ