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世界を動かす女の子

 


 その後、俺達はお互いの情報をさらに交換し、俺はレイバーグから得難い新情報を得た。

 収穫は十分だったので、そのまま部屋を辞退することにした。


 後で彼には武器も届けておかんとなぁ……まさかとは思うが、弱ってるところにまた襲われる危険がないとも限らないし。

 そう考えて石廊下へ出た途端、俺はぎょっとなった。

 真横の壁際に、腕を組んだマヤ様がもたれていたからだ。


「……突然、お越しになりまして」


 戸口にいた衛兵が、困り顔で言い訳のように述べてくれた。

 マヤ様は、固まってる俺の代わりにドアを閉め、背中を押すようにしてその場を離れようとする。何が嬉しいのか、随分と楽しそうでもある。


「何をしている、ほら、もう用事は済んだのであろう」

「そりゃまあ……ていうか、もしかして聞いてました?」

 相変わらずの漆黒のゴスロリ風ドレスのマヤ様に、俺は戸惑って尋ねる。

「うん、遅れて来たら話し中だったので、外で立ち聞きしていた」

 うわ、悪びれもせずに言うよ、この人。


「○○(特に伏せ字)の穴の小さいこと言うなっ――は良かった」


 マヤ様がくすくす笑う。

「け、結構、最初の頃から聞いてましたねっ」

 いつも本当に愉快そうに笑うのだな、この方。

 まあ、いつも表情に嘘がない方だけど。

寡聞かぶんにして聞かぬ、威勢のよい啖呵たんかだ。マヤもどこかで使いたいと思ったぞ」

「いや……それは止めて頂きたく」

 女の子がケツの穴とか言うの、やめて。






 マヤ様の私室まで連れて行かれると、この方は早速、中で掃除していたメイド達を追い出し、俺を執務室のソファーへ誘った。

 並んで座り、しげしげと俺を見やる。


「ところで、あの者から得た情報は、正確だと思うか?」

「ええと、最後の方で語ってた、満月の夜の話ですか」

 マヤ様が頷くのを聞いて、俺は彼と最後にした話を思い出す。

 レイバーグが言うには、遺跡で得たリベレーター達の記録からすると、世界を行き来する時は、かならず満月の夜を選ぶそうな。

 しかも、場所は決まって高所で……なおかつ、直接満月の光を浴びられるところである。

 そこで彼らのみの特殊能力で二つの世界を繋ぐ門を開き、元のリベレーターの世界へ戻るのだとか。


 ……重要なのはここからで、レイバーグの予想では、もはやこの世界をナメきったリベレーター共は、次の機会に必ずヤツらの本拠に一度帰還し、第二段階へ移るべく味方を説くだろうと。

 リベレーター共の侵略の理屈では、派遣した最初の斥候――つまり、エスメラルダとバルバレス達が一定の成果を上げて無事に戻れば、それだけこの世界がくみしやすい証拠ともなるわけだ。

 というわけで、無事にヤツらを帰すと、今度はまとまった数でやってくると予想できる。


「当然、それを止めないと!」


 というのが、俺とあいつの出した結論だった。

 言い換えれば、あの二人は絶対に元の世界へ帰してはいけないということ。

 ……ちなみにこの世界の次の満月は、実にたったの五日後である。





「俺は本当だと思ってますよ」


 肩をすくめて、俺は頷く。

「あいつがこんな嘘をついても、なんの得にもならない。となると、俺達は次の満月までにヤツらが門を開く場所を探さないといけません」

「……あるいは、あの二人を見つけて先んじて倒すかだな」

「そ、そうなんですが……なかなか難しいですね、そこが」

 いかにも「俺は心配しております」という顔をしたせいか、マヤ様は余裕の表情で俺の肩を叩いた。


「そう案ずるな、ナオヤ。おまえもいるし、マヤもいる。皆に命じて、とりあえずはあのエスメラルダとやらを捜索しよう。同時に、帰還しそうな場所の候補も探せばよい」

「マヤ様はいつも自信ありそうですねぇ」

 嫌みではなく、しみじみと感心して俺はマヤ様を見やる。

 するとこの方はなぜかその場で立ち上がり、わざわざ俺の前に立った。腰に片手を当て、意味ありげに俺を見つめる。

「な、なんでしょう?」

「いや、今更だが、どうもナオヤはこのマヤのことがよくわかっていないようだからな」

 そう述べると、張りのある声で続けた。


「覚えておくがよい、ナオヤ。マヤは将来、魔王になる女ぞ? であるからには、内心がどうあろうと常に自信ありげな態度を見せ、臣下の者を安心させてやらねばならん。それが、覇王たる者の道だ。だから、マヤは常にこう信じることにしている。いかに困難が待とうが、行く先が険しかろうが、結局最後は決まっているのだと。つまり、こういうことだ」

 ……その時、マヤ様は真紅に染まった瞳で俺を見つめ、宣言した。


「世界はこのマヤを中心に動き、最後は必ずマヤが願う方向へと進むのだ!」


 ああ、いかに強くなろうと、やはり俺はこの人には敵わないだろうなと思った瞬間である。

 常に失敗の危険性を恐れる俺とは大違いだし、色んな意味でレベルが違う。

 ただ――ちょっと苦笑してしまったのも事実である。

「わかりますし、そのマヤ様の理想を実現するのが俺の役目です。……けど、『内心がどうあろうと~』なんて先に付け加えるのは、余計では? せっかくのよいセリフでしたのに」

「本当に馬鹿だな、ナオヤは」

 マヤ様は目を細めて笑った。

 覇気に溢れる表情と、輝くばかりの笑顔で。

 遥か後になって、俺はこの時のマヤ様の笑顔を何度も何度も思い出すことになる。


「ナオヤが相手だからこそ、本音も同じく教えてやるのではないか。他の者に同じことを言うわけなかろう。なぜそれがわからぬ?」


 そう言うとマヤ様は微笑して、コツンと額と額を軽くぶつけた。


「必ず……ヤツらを止めようではないか、ナオヤ」


 嘘みたいに澄み切った瞳が至近にあった。

「はい、もちろん」

 俺は胸が一杯になり、かろうじて答えた。



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