○○を(一時的な)仲間にした!(ファンファーレ)
レイバーグはむちゃくちゃ気まずそうな顔で俺をちらっと見た後、膝の上に視線を落とした。
「君の言う通りだ。僕はあと少しで殺されるところだったし、あの後で乱暴される寸前だった。礼を言うべきだったのに、申し訳ないことをした……目が覚めたよ」
ぽつんと寂しそうに言う。
「ボクは英雄なんかじゃない……それは、自分でもよくわかってるのに」
「いや。今のはホント、俺が柄にもなく切れたんで」
謝られると、こっちの方が気まずいやんけ。
俺もなんとなく、視線を逸らして、殺風景な部屋を見渡す。窓はあるが、ここは十階だし、まず警備上は問題ないだろう――などと、どうでもよいことを考えたりして。
……ていうか、乱暴ってのはやっぱりアレ……のことだろうなぁ。
そりゃもう、アレしかないよ、うん。
バルバレスとかいうリベレーターの野郎は、レイバーグが男じゃないことに気付いて、用が済んだらやっちゃうつもりだったか。
その前に奪還できて、よかったよかった……つか、こいつなんかしゃべってくれないかねぇ。気まずいんだよ、空気読め! コミュ障も同然の俺に、会話術を期待すんな。
重苦しい沈黙が続いたせいか、俺はむちゃくちゃ焦り初め、つい尋ねてしまった。
「ところでなんでおまえ、男装なんかしてんだ?」
「だ、黙っていたと思ったら、いきなりそれか」
レイバーグがぱっと赤くなる。
あんまり見たことがない照れた表情なので、新鮮だった。
「いや、悪い……いずれは訊こうと思ったけど、なぜか今、口をついてでちまった」
「この世界に飛ばされてきた四年前――その時のボクはまだ十二歳だったけど、とにかく飛ばされてきた途端に、いきなり奴隷商人に捕まりかけたんだよ。以後も、同じようなことが何度も続いたから、いい加減に嫌気が差して、男の姿で通すことにしたんだ。このことを知ってるのは、ボクの仲間だけなんだけどね……これまではね」
「おお、なるほど」
こいつはまあ、そういう悩みが出ても全然不思議じゃないね。
俺が奴隷商人でも、目を付けそうだし。
まあ、理由がわかったら、すっきりしたかな。あと、こいつまだ十六歳だったのな。俺より一つ年上なだけか。
多少は肩の力が抜け、俺はやっと切り出す。
「じゃあ、本題だ。……俺は魔王陛下にリベレーターについて多少のことを聞いたけど、おそらくはおまえの方が詳しいような気がする。ヤツら、どうやってこっちに来てる?」
「ボクや君と同じく、異世界からだな。ただ、ヤツらの場合はボクらとは決定的な違いがある。それは、最初から――といっても、この世界じゃ千年以上も前らしいけど――とにかく、そんな昔に自分達の意志で訪れて来ている、という点だ」
レイバーグは意味ありげに俺を見た。
「別にここに限らない。リベレーターは、いろんな世界に侵攻してるらしい。つまり、自分達の世界を統一しただけじゃ飽き足らず、異世界まで進出して、領土を拡張してるわけさ」
「侵攻の件は魔王陛下から聞いてたけど。つまりなにか……ヤツらはその気になれば、好きなだけこっちに来られるのか?」
俺は顔をしかめ、我ながら嫌そうな声で尋ねる。
そら、エスメラルダ一人でも難儀したのに、あんなのが大量に来たら、止められる自信ないって!
俺の渾身の主張に、レイバーグも憂鬱そうに頷いた。
「同感だ。……ただ、ボク達にとってのよいニュースが一つだけある。ヤツらは確かにこちらへ渡って来られる手段があるが、多くの世界を相手に戦っているせいで、戦力を無駄に振り分けるのを由としない。つまり、本格的な侵攻に乗り出す前に、まずは斥候を出し、それでいけそうなら、軍勢未満の小部隊を送る――そして、想定した日数内に侵攻が順調に進むようなら、本格的な侵略に入るんだ」
「読めたぞ!」
俺は座ったまま、膝を打つ。
「かつてこの世界に来た時は、おまえの言う二段階目までいったわけだ。まずは斥候を送り、安全と見て、次に小部隊――しかし当時は、そいつらを魔王陛下とその仲間がなんとか倒しちまったから、ヤツらも危険だと見て、それ以上は部隊を送らなかったと! 当時の真相は、こういうことだったんだろう?」
「おそらく」
レイバーグも素直に頷いてくれた。
「かつて、リベレーターの本拠があった遺跡で、ボクらは彼らの古い記録を見つけた。その文献には、ナダル――つまり、今の魔王陛下とその仲間達と、最後の戦闘に入るという記述があったんだ。リベレーターの社会はひどく冷淡で、派遣した味方と言えども、無用な援軍など出さないらしい。もし現地に派遣した斥候や小部隊が全滅したら、『侵攻にはある程度の危険が伴う』と判断して、他のもっと主要な戦線(他の異世界)に集中するわけさ」
「じゃあ、エスメラルダとバルバレスは、その話で言うと放たれた斥候だな……もっとも、彼らを呼んだのは魔界のど阿呆共だけど」
「……その辺りの事情が、ルクレシオンでは未確認のままだ。君の口から、詳しく説明してもらえないか?」
「ああ、それはもちろん」
今更隠すことでもないので、俺はこの前鎮圧したファルシオン伯達の策謀と、リベレーターを呼びくさった経緯を教えてやった。そして、魔王陛下の行方不明の件も、迷った末に教えてやった。共闘を目指すなら、隠し事してもしょうがない。
ヤツは終始驚いたような顔で聞いていたが、俺が「でもって、リベレーターの畜生共は、どうやら人をコントロールする術を持ってるようで、うちの部隊がそっくり乗っ取られちまってさ~」という部分を聞いた途端、大きく息を吸い込んだ。
「待ってくれ! それは初耳だっ」
「え、だっておまえ――」
言いかけ、そういやこいつは一騎打ちに敗れた直後、地下牢に放り込まれていたのだと、俺は思い出す。つまり、あの男が部隊を操ってることは、まだ知らなかったんだな。
やっぱ、情報の交換ってのは必要だよなぁ。
「そのアレな力は、どういうわけか俺には……あと、多分おまえにも効かないようだけど、他のヤツらは見つめられただけでヤバいみたいだぞ。このまま行くと、あの五千の部隊が魔界かルクレシオンのどっちかを攻める気がする」
「事態は切迫してるじゃないか!」
レイバーグは似合わぬ焦った顔で俺を見た。
「だから、最初からそう言ってるだろ?」
俺が言い返すと、たちまち目を伏せた。
「ごめん……そうだね。君の言う通り、ボクらは争ってる場合じゃないようだ」
「そうとも!」
危うく肩を叩きそうになって、俺は危なく抑えた。
こいつの怪我、ひどそうだしな。
「じゃあ、共闘を頼めるな」
息を潜めてレイバーグの綺麗な黒い瞳を覗き込む。
「力を合わせ、あの二人の斥候野郎をなんとか倒さないと。次に来るはずの
小部隊とやらが何人か知らんが、そんなのが来たら、以前より確実にひどいことになりそうだからな」
そんな真似したことなかったけど、俺があえて手を出すと、レイバーグはそろそろと右手を持ち上げ、そっと俺の手を握った。
「わかった。ボクの遺恨も君の恨みも、今は全部、棚上げだな」
「ああ。敵同士に戻るとしても、そりゃこの件が片付いてからだ」
「よしっ」
レイバーグと俺はしっかり目を合わせ、互いに頷きあった。




