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ぶち切れ

 


 いかにも迷惑そうな顔で睨むレイバーグに、俺は真っ向からずばり切り出した。


「ところでおまえ、リベレーターのことを知ってるか?」


 うわ……ビンゴ。

 なんかもう、むちゃくちゃ表情が動いたぞ、今っ。冷静なこいつがここまで反応するってことは、やっぱり知ってたな。

 俺は内心で大いに期待した。


「おまえと一騎打ちしたヤツ……多分、そいつがリベレーターだと思うが、実はうちにも一人、潜り込んでやがってな。今、こっちにはおそらく二人いると思うんだ」


 無言のレイバーグに、俺は自分達が城を奪われた顛末てんまつと、またその直後に奪還した経緯を教えてやった。どうやらルクレシオン側は全然詳しい事情を知らなかったと見えて、レイバーグは興味深そうな顔で聞き、全く口を挟まなかった。

 ざっと説明した後、俺は声を忍ばせて結論を言う。




「――で、俺はエスメラルダとかいうイケイケねーちゃんと戦って、はっきり悟った。こりゃ、何か方策の欠片でもないと、倒すのはとても無理だってな。ここまで話せば察しはつくだろうけど、おまえが捕虜になったと聞いて、助けに行こうとマヤ様に持ちかけたのは、この俺なんだ。もちろん、理由は言わなくてもわかるだろ? 最後に出会った時の会話からして、おまえは多分、リベレーターのことを知ってるだろうと思ったわけさ」


 黙り込むこいつに段々心細くなり、おれはしゃべりまくるのをやめて、じっと相手を見やる。レイバーグはそれでもブランケットを見つめたまま黙り込んでいたが、俺がいつまでも熱い視線を送っていると、ようやく息を吐いた。

 少女漫画風の大きな瞳を瞬き、やっと俺を見やる。

「なるほど、君がボクを助けた理由は理解した……確かにボクは、リベレーターについて多少のことを知っている。もっともそれは、傭兵時代に遺跡で見つけた文献の記述程度に過ぎないけどね」

「おお、それでもいいさっ。なら――」

 息せき切って身を乗り出す俺を、レイバーグは冷たい瞳で抑えた。


「待ちたまえ。ここではっきりしておくけど、君はリグルスの仇だ。いつか必ず倒そうと思っている相手に、なぜボクが協力しなきゃいけないんだ」


「え……」

 勢いをそがれ、俺は眉根を寄せる。

「いやしかし、それを言うなら、おまえだってうちの仲間の仇だけど?」

「それがどうした」

 開き直りくさったのか、こいつは堂々と言い放ちやがった。

「戦いで人が死ぬのは当然だ。もちろん、君の言い分もわかる。それでボクが憎いなら、この場で殺すがいいさ」

 なんだか英雄らしからぬむちゃくちゃな理屈を並べ、暗い瞳で俺を見やる。

 呆れて黙り込むと、トドメのように吐き出した。

「とにかく、ボクの憎しみはそう簡単に消えない。何度でも言うけど、君はボクの」


「おい、クソ女」


 自分でも意外だったが、俺は手を伸ばしてレイバーグのブランケットを引きずり下ろし、肩に羽織ったシャツをまとめて、胸ぐらを掴んでいた。

「なにをするっ」

 さすがに抵抗しようとしたけど、あいにく今のこいつの体力じゃ無駄だ。

 別にそれを狙ってやったわけじゃないけど。


「おまえ、仮にもルクレシオンじゃ『勇者』扱いされる英雄なんだろうがっ。その英雄が、ケツの穴の小さいこと言うな、馬鹿たれっ」


「――なっ」

 俺の言い草に真っ赤になりやがったけど、頭に来た俺は無視した。

 実際、こっちに跳ばされてから、ここまで頭に血が上ったことはない。なんかもう、一瞬で沸騰したね。

 これまでの反動かもしれん。


「言っとくけどなぁ、リグルスが殺しやがった俺の仲間――そいつはダヤンって言うんだけど、とにかくダヤンには娘がいたんだ! 最後に名前を口走った娘がなっ。みんなにはずっと黙ってたけど、俺が残されたその子のトコに『父さんは俺のせいで死んだんだよ』って告げに行った時、どんな思いをしたかわかるかよっ。憎いのはお互い様なんだよ、このエセ勇者の軟弱者があっ」


 力任せに、えりをぐらぐら揺すり立てる。

 面白いようにガクガクと細首が揺れ、なめらかな髪がさらさらと動いた。一応、洗髪くらいは済ませたらしい。まあ、どうでもいいけど。


「この救出作戦だって、撤退する時にまた仲間が一人死んだんだ! まだ全然若い兵士で、俺のトコに来たばかりだったんだぞっ。それでも俺がおまえにぎゃあぎゃあ言わず、恩にも着せないのは、おまえがお偉い勇者様だからじゃないっつーんだ、クソボケっ。正直、俺だっておまえなんか嫌いなんだよっ。ハンサムだしみんなに信頼されてるし、英雄だしなっ。ああ、落ちこぼれのボッチ野郎の俺とは大違いだとも! だから殺してやりたいのは俺も同じだっ」


 ばばっと盛大に唾が飛んで、レイバーグの顔にかかった。

 普段のこいつなら絶対に斬りかかってきただろうけど、どういうわけか今は呆然と俺を見ていた。おそらく半泣きで襟元を揺さぶり立てる俺を。

 俺も「なに切れてんだかなぁ」と心の底のどこかで思ってたけど、どういうわけか死んだ仲間の笑顔とか孤児になった女の子の顔なんかが浮かんで、止めようがなかった。


「聞いてるか、おいっ。それでも俺が我慢して我慢しておまえをここまで運んできたのは、おまえに頼みたいことがあるからだっ。おまえなら俺と協力して、ヤツらに対抗できる術とか知識を持ってるかもしれないと思ったからだ! おまえが仕えるルクレシオンだって、このまま行けば他人事じゃないんだぞっ。それなのにおまえと来たら、『友達を殺したヤツに協力する気はない』とか、それしか言えんのかよおっ。もう一度、同じことを言ってみろや、おいっ。おまえの望み通り、この場で斬り殺してやるよっ。どうせ散々、人殺ししてきた身だしなあっ」


 最後の罵声と同時に、レイバーグを思い切り突き放す。

 すると、勢いが強すぎたせいで、ベッドのヘッドボード(木製フレームの頭のトコな)にゴツンとレイバーグが頭をぶつけてしまった。

 意外なほど大きな音がして、俺はそこでやっと正気に戻った。


「あっ」

 苦痛に顔を歪めるこいつを見て、さすがにだいぶ血の気が引いてしまう。

「う……いやまあ」

 大きく深呼吸して、まだ昂ぶる気持ちを抑え、ようやく口にする。


「悪かった……ちょっとかっとなったらしい」


 少し考え、付け加えた。

「俺、あんまりキレる方じゃないんだけどな」

 俯いてうなだれる。

 これはさすがに怒鳴られても仕方ないと思ったが、レイバーグは黙って首を振った。


「いや……謝罪はいい」


 妙に落ち着いた声で言われ、俺は顔を上げた。


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