脳内変換で、「僕」が「ボク」に
俺のやけっぱちな作戦が上手くいったのか、あるいはリベレーターであるバルバレスが「ヤツらなんぞいつでも片付けられる」と思ったのか理由はわからんけど、とにかく俺達は逃げ切った。
まあ、かなりの確率で後者が理由なんだろうけど、生きてさえいりゃ文句はない……いや、新人のラウルは死んじまったけど。
仲間が死ぬとすげー気が重いんだが、しかし今はメソメソしてられない。
例の水車小屋まで戻った俺達は、その足で即、城まで撤退……というか、もっとはっきり言えば逃げ帰った。もちろん、馬でさ。
五千の兵士がすぐそばでうろうろしてんのに、のんびりと怪我人抱えてさまよってる場合じゃないからな。
……どうでもいいけど、水車小屋で留守番してたレイマンさんも、新たに馬を調達して、俺達と共に逃げた。
全員、休まず駆け続け、翌日の午後遅くには帝都マヤに、そして魔王城に戻っていた。
レイバーグが、その時点でも未だに昏睡状態なのが心配だったが、俺はひとまずヤツを城の薬師と魔法使いに任せ、部屋で爆睡しちまった。
ホント、今回も寿命が縮んだからなぁ。
で、またしても夜になったところで目が覚めて、今に至る。
きちんと服を着替えた俺がまずやったことは、レイバーグが休んでいるはずの部屋を訪ねることだった。
……言うまでもなく、一応は帯刀している。
いきなり斬りかかられたら、シャレにならんからな。まさか、そこまで道理のわからんヤツでもないと思うけど。
俺の世界では病棟に当たるような専門の階がこの城にはあり、そこの一番奥の部屋に、レイバーグは警護の兵士付きでいる――はずだ。
しかし、警護の兵士は外にいたものの、部屋に近付くなり、中からエルザが出てきた。
「――おっ」
「あれっ?」
二人揃って、仲良くびっくり顔である。
「いや……俺がここに来るのは普通のことだろ?」
警護の兵士の敬礼に答礼してから、俺はエルザを見やる。
このボブカットの色気ねーちゃんは、今日はシルクのドレスなど着てめかし込んでるけど。
「あいつ、実は女の子だってわかってる?」
「わかってるわよ」
バツが悪そうに言う。
「別に仲良くしゃべりに来たんじゃなくて、怪我の治癒でも手伝えないかと思っただけじゃない。変な気、回さないで」
「怪我の治癒ねぇ」
その割に、外見に気合い入ってるな。
と嫌み言う前に、エルザは自分から白状した。
「まあ、以前の凛々しいレイバーグ様を思い出して、ちょっと見たかったというのも否定しないけど」
「で、もういいのか?」
「うん……だってさ、なんか愛想悪いモン」
膨れたように呟き、エルザは俺の刀にちらっと目をやった。
「ナオヤも油断しない方がいいよ」
あまつさえ、こそこそと囁く。
「彼、まだ恨みも忘れてないみたい」
「げぇえええ」
うんざりして息を吐く俺である。
エルザは逆にすっきりした顔をして、「じゃ、せいぜい楽しんで」と意味不明なセリフを残し、とっとと消えてしまった。
何を楽しむんだよ、何を。
……もう会う前から疲労してきたが、それでも俺はノックしてから中に入った。
目覚めてるなら、余計に会わんとな。
「入るからな!」
などと軽く声を掛けてからささっと入ったわけだが、これが大間違いだった。
「うっ」
「おわっ」
今度はヤツと二人で声が合っちまったよ。
レイバーグはベッドの上で上半身を起こし、ちょうど傷口を見ていたらしい。
それはいいのだが、見るために包帯を取っていたわけで、すると胸がモロに目に入るのだな……年齢相応の、小ぶりの可愛い二つの膨らみが。
「ぼ、ボクはまだ返事をしてないぞっ」
一瞬で真っ赤になったレイバーグが、ブランケットをおとろしい勢いで引っ張り上げる。
「悪いっ。いやホントご免っ」
慌ててそっぽを向いたのはいいが……やべー、い、いま俺、脳内で「僕」を「ボク」と変換してたよ!
我ながら、見る目が変わってるしなっ。
いやぁ、意識してないつもりだったけど、甘かったね。
「よ、よそ向いてるから、包帯戻すなりしてくれ」
無駄にどきどきした胸を宥めつつ、慌てて言う。
つか、こいつ今や髪型も短めのワンレンにしか見えんし、女だと思って見るせいか、もはやどっから見ても女の子だ! なんで男だと思ってたのか、今となっては不思議だ。
あたふたと考えていると、また声に曰く。
「もうこっち向いてもいいよ」
ぼそりと声がした。
振り向くと、相変わらず毛布を引っ張り上げたままのヤツが、不機嫌そうに俺を睨んでいた。
「ボクに、なんの用だ?」
あ、もう「ボク」としか聞こえないや……まあいいけど。
俺はちょっと赤面したまま、椅子を引き寄せてベッドのそばに座り込む。
さて、色々と訊かないとな。




