追跡者
「や、ヤバいっ。急ごう!」
俺はネージュ達にハッパをかけ、自分は受け取ったマントを真っ先にレイバーグにかけてやる。その間、マヤ様はなんと素手でこいつを拘束してした鎖を引き千切り、自由にしてやっていた。 落ちそうな彼(彼女?)を慌てて抱き留め、俺は小声で合図を出す。
「終わったぞ! ズラかろうっ」
俺達が可能な限り急いで牢を出るのと、鍵が開く音がして、建て付け悪そうなドアがギギギィと開いていくのは、ほぼ同時くらいだったはずだ。
ただ、問題の階上へ至るドアは、地下へ下りる階段を少し上がった先にある。
だから、あとほんの少しは時間がある――はずだ。
それがわかっているだけに、みんな必死で走っていた。
「急げ、急げっ」
小声でみんなを急き立て、俺は仲間を元の地下通路へ押し込める。
だから人数少なめに来た方がよかったのにっ――と後悔したが、追いつかない。最後の一人、マヤ様が中へ飛び込んだところで、脱出した牢屋の方角から「おおっ」という野太い声がした。
「に、逃げやがったのか!」
慌てて走る音と叫び声も。
うわ……しかもこっちへくるぞ、足音っ。
おまえ普通、牢屋が空だったら、まずは上司とか上官に報告しに戻らないかぁ?
なんでまっしぐらに走り出すよ!?
不満たらたらで、俺はマヤ様の後に続いて地下通路へ半ば下りる。肩に担ぎ直したレイバーグはそう重くもないが、これだと動くに不自由だな。
それでも何とか壁の窪みに足をかけ、仕上げに石のタイルを元に戻そうとしたところで――
真っ赤な顔をした兵士がT字路をひょいと曲がり、こっちを見た。
……うわっ。まともに目が合っちゃいました!
「――! 貴様っ」
当然ながら、俺の顔を見るなり、牢番は喚いたね。
こうなったら仕方ない。俺は床は放置でそのまま通路に飛び降り、みんなにまた叫んだ。
「駄目だ、間に合わなかった。ズラかるぞぉーーっ」
通路へ飛び降り、率先して駆け出す。
「はやっ。来たトコなのに、せわしいなぁ」
ヨルンが不満を洩らしたが、用事が済んだのに残っててどうするよ!!
もちろん、逃げるにしてもレイバーグを背負ったままだが、レベルアップとHPの増加は伊達じゃなかったね。こいつくらいのひょろっとした男なら、担いでたって余裕で走れる。
「待て待て、ナオヤ」
軽々と追いついてきたマヤ様が呆れたように言った。
「衛兵が何の用事で下りて来たのか知らぬが、どうせなら、その場で倒せばよかったのではないか? それなら、まだしばらくは誤魔化せたかもしれない」
う……そ、それは正論かもしれないな!
しかし、やっぱりそうそう簡単に、「よし、ここはぶっ殺しておこう」とか、なかなか考えられんし。別に俺、人殺しが好きってわけじゃないわけで。
「ま、待って待って!」
後ろの方でエルザが情けない声を上げ、俺は我に返った。
振り返ると、マヤ様とミュウ以外は、いつの間にか遥か後方に置き去りにしていた。
「速すぎるよ、ナオヤ君。ちょっと待ってよ」
ネージュもへたばってるな。
俺はようやく走るのをやめ、普通に歩いた。まあ……今のところは追ってくる気配ないし。上手くすると、あの衛兵が遅まきながら上に報告に戻ったのかも。
ようやく皆が追いついて、一息つくことができた。
地下に上がった場所は、もうだいぶ後方である。
ゼーハーゼーハーと、両膝に手をついて息を出し入れする軟弱者達に、俺は肩をすくめて言った。
「さすがに休憩するわけにもいかないし、ゆっくりでも歩いて進もう。このまま行けば、追っ手が掛かる頃には、出口に着いてる――」
かもしれない……と言いたかったんだけど。
俺は途中で言葉を切り、肩を震わせた。こ、これは……ひょっとして。
「ナオヤ、感じるか?」
さすがにマヤ様も、同じく感じたらしい。
きょとんとしたような一同の中で、この方だけが俺と同じく後方を睨んでいる。
「感じます……殺気を……物凄い殺気を感じる……それも今までにほとんど遭遇したことのない、鳥肌が立つようなレベルです」
「熱源探知に反応がありましたっ」
いきなりびくっとミュウが動いた。
「さっきの穴から、誰かが地下通路に飛び降りたようです」
「ネージュっ」
俺は皆まで聞かずに叫んだ。
「すぐに攻撃魔法の用意! エルザは防御魔法だっ。俺達全員にシールド頼むっ」
「え、ええっ!!」
「なんでいきなり――」
意表をつかれた二人が同時に言ったが、俺は叩き付けるようにおっ被せた。
「いいから急げっ。多分、俺の勘が正しければ、こいつは」
言いかけてるその瞬間、いきなり元来た方で眩い光が弾けた。
「伏せろぉおおっ」
「きゃっ。し、シールド!」
今度は俺の怒声と、エルザの防御魔法を行使する声が重なる。
混乱していた仲間は、大半が言われた通りに身を低くしようとした。
たちまち半透明のシールドが一同を覆ったが、直進してきた光がそのシールドにぶち当たった途端――わずか半秒ほどで突破され、防壁が四散した。
俺はその時、夢中でマヤ様を押し倒して通路に倒れ込んでいた。




