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ザ・シークレット

 


 座布団みたいな大きさの石のブロックをえいやっとばかりに押し上げ、横にズラして置いた。

 あとは、石床に手を引っかけて懸垂の要領で上るだけだ。

 そこまでは何の問題もなく進み、俺は早速、地下牢の通路に立った。


 ここは、今の今までいた地下通路よりもさらにじめじめした場所で、石造りの床も壁も、湿気でてらてら光っている。

 俺が出たのは、どうもこの地下フロアの隅っこらしい。

 おまけに肉の腐ったような臭いがしていて、あまり長くいたくない。壁に等間隔でカンテラの明かりがあるにはあるが、規模からして全然数が足りていない。

 ともあれ、眉をひそめてしばらく歩くとT字の分岐があり、俺は迷うことなくその角を曲がる。



「何人か、その先を調べてくれ」

 振り返って頼むと、マヤ様以外は全員、まっすぐ歩いていった。

 ……そんなにマヤ様と一緒が怖いかね?

 俺は首を振りつつ歩き、左右を眺める。というのも、ここの通路はその左右に整然と鉄格子の牢屋が並んでいるんだな。

 ただしどれも空か、あるいは……白骨だけが残っていた。

 市庁舎の地下になんでこんな設備があるのか、謎である。


「俺の世界で言う、ケーサツも兼ねてたのかねぇ、ここは」

「ケーサツが何かは知らぬが、市庁舎は昔から法の執行も兼ねた場所だ」

 マヤ様があっさりと種明かしをしてくれた。

「それを考慮に入れても、随分と暗い歴史を感じる地下牢だな」

 さすがのこの方も、顔をしかめていた。

「人の怨念が籠もっている場所のように思うぞ」

 そらまあ、骸骨とか転がってたら、そう思っても不思議はあるまい。

「おっ」

 次の瞬間、俺は立ち止まった。

 凄惨な呻き声が聞こえてきたからだ。


 早足で前へ進み、俺は左右の牢を見ていく。元市長の話じゃ、この時間帯は牢番の巡回が終わってから、さほど経ってないはずだ。

 上手くすれば、見つかる前に助けて逃げることができる。


「いたっ」


 上の階に出る、出口に近いところまで来て、俺はようやく目指す相手を見つけた――と思った。

 なにせ、魔法封じのマジックシフトが牢屋の四隅に描いてある。……つまり、魔法も使えるレイバーグを捕らえておくためだろう。

「しかし……これひどいな」

 思わず、目を背けたくなる光景だった。


 ズタボロになったシャツを着込んだ若者が、両腕をまとめて、天井から伸びた鎖に繋がれている。元は白だったらしいシャツだが、今は彼の血を吸って真っ赤になっている。

 おまけに、血の雫が今も下に垂れていき、足下からぽたぽたと床に落ちていた。

「くそっ」

 他人事ながら、俺は義憤に歯軋りし、左右を見渡した。

「とにかく、鍵を探して」

「それなら、マヤの方が速い」

 言下に、マヤ様が長い足を振り上げ、思いっきり牢屋の扉を蹴飛ばしやがった。


「ちょっ!」


 心臓が止まりそうになり、頭を抱えてしまう。

 なにしろ、雷鳴より響いた気がする。

 一応は鍵が吹っ飛んで、ババーンとばかりに鉄格子の扉が逆方向に叩き付けられはしたが、凄まじい音がしたよ!


「自重してくださいよっ。牢番が走ってきたらどうします」

「あ……そうだな。忘れていた」

 きょとんとしたマヤ様に脱力させられたが、とにかく俺は、吊られた相手のそばまで歩み寄った。いや、俯いて顔が見えないし、こいつは横向いてるんで。


「おい、れいばー」


 呼びかけた俺の声が止まった。

 まず第一の驚き……こいつ、前を開かれた素肌が、鞭の跡だらけ! 皮膚の下の白い脂肪層まで見えてて、痛そうってレベルじゃないよっ。

 顔だけは傷が少ないが、それでも頬に斬り裂かれた跡が見つかった。


 そして二つ目の驚き……こいつ顔はレイバーグだけど……ええと確かにレイバーグの顔だけど、でもこの人、じゃなくてこの子――





「……お、女の子なんですが?」


 幾ら控えめとはいえ、目の前に見えているのは、どう考えてもおっぱいだろう。

 これを見間違えるようでは、男としてヤバい。


 しかし、これほどびっくりしたのは、小学生の時にコンビニでオカマさんにナンパされそうになった日以来だ。

 いや、本気で驚いた! 実は、最後に見かけた日以降、モロッコで性転換したとかのオチじゃあるまいなっ。


「なにっ」

 興味なさそうだったのに、慌ててマヤ様もすっ飛んできた。

 遠慮なしに胸の部分に注目した後、首を振って顔をよく見る。

 ……ついでにズボンに手を突っ込みかけたので、俺が慌てて止めた。

「そこまで調べなくても、わかりますって! こりゃどう見ても女の子でしょ」

 俺があたふたと言ううちに、騒ぎが聞こえたのか、次々に仲間が戻ってきた。


「どうなさいました?」

「手伝うかっ」


 ギリアムとヨルンが牢に入ろうとして、俺は慌てて手で止めた。

「いや待てっ。……ええと、ネージュとミュウだけ来てくれ。残りは通路で警戒待機!」

 二人だけ呼ぶと、背中でみんなの目からレイバーグを隠すようにして、二人に手早く説明した。


「う、嘘っ。あたしまで騙されてたなんて!」

「最初に見た時……センサーでよく調べるべきでしたね」


 二人して、期待通りに驚いてくれた。

 まあ、誰だって驚くよな。


「たまげるのは後にして……ネージュ、マントだけ貸してくれ。こいつにかけてやるから。それと、ミュウは運ぶのを頼めるか」


 俺が頼んだその時――出口に当たる通路の先で、ドアに鍵を突っ込む音がした。



 だ、誰かがこの地下室に下りてこようとしてるっ。

 


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