暗いところと言えば
俺とマヤ様が先頭を歩き、魔法の明かりで前を照らすネージュとミュウがその後ろ……後は、各自好き勝手な順序で、ぞろぞろ歩いて行く。
この通路、がっしりした頑丈そうな石造りではあるが、所詮は大昔にできたもののせいか、なにやら黴びた臭いはするわ、ところどころで地下水が垂れているわで、おどろおどろしい雰囲気が出まくりである。
当然、真っ暗がデフォであり、ネージュが頭上に光球みたいなのをふよふよと浮かばせてくれなかったら、一寸先も見えないと思う。
とか思ってるうちに、またどこかで「ぴっちゃーん」とかいう、情緒たっぷりな水音がした。
「――ひっ、ひぎゃあああああっ」
「おわっ」
いきなりの悲鳴に、びびった俺は足を止める。
別に俺だけじゃなくて、おそらくマヤ様とミュウ以外は全員、叫んでたと思う。
「いきなり驚かすなよ……今の誰?」
振り向くと、二列後ろでエルザが面目無さそうに手を上げた。
「ごめん、あたし。なんか薄暗いところへ持ってきて、いきなりホラーな音がしたから」
「……もしかして、そういうの苦手?」
つか、「ひぎゃあ」はないだろ、悲鳴上げるにしても。
「得意な女の子がいるもんですか!」
一転して、今度はぷりぷりして言われた。
知らんがな。
ボッチだった俺には、女の子がどうとか、無縁だったし。
「そうか? マヤは別に何とも思わないぞ」
話を聞いていたマヤ様が、首を傾げた。
「多少暗くてじめじめしているが、それ以外は歩きやすい地下道ではないか。何をそんなに恐れることがある?」
エルザを見て、心底不思議そうに訊くのだな。
話しかけられて怖いのもあるし、どう答えてよいのかわからないのだろう、エルザは泣きそうな顔で俺を見た。
「ええと……それは……ねぇ?」
やむなく、俺は助け船を出してやった。
「人それぞれ、恐怖を感じる部分は違うと思いますよ。まあ、女だからとか男だからとかは、あんまり関係なく」
雑な説明をして、自らまた歩き始めた。
しかしマヤ様は納得いかないようなお顔なので、何となく尋ねてみた。
「マヤ様には、怖いモノはないのですか? 別にモノでなくても、現象とかでもいいですけど」
「ふはは……このマヤに怖いモノなど」
言いかけた途中で、なぜかマヤ様は不機嫌そうに黙り込んだ。
「いや……そうでもないな。最近、恐れることができた」
「へぇえええ」
「なんと!」
「意外ですねー」
「うっそーー!?」
「きたきたっ」
俺を皮切りに、みんながそれぞれ妙な声を上げ、マヤ様が膨れっ面になる。
「なんだ、その声は……失礼な。少なくとも、おまえ達よりは遥かに怖いモノ知らずのはずだ」
「いやぁ、それは認めますが。――ちなみに、何が怖いので?」
歩きながら、俺がさりげなく問うと……マヤ様はしんねりと俺を見やり、いきなりドババンッと背中をはたきやがった。
「よりによって、ナオヤ本人に言えるものか、馬鹿者っ」
「おわあっ」
例によって数メートルは吹っ飛ばされ、俺はジメジメした石の通路に四つん這いに倒れる。
「いきなり、何すんですかーっ」
つか、痛いし!
苦情たっぷりの表情を作ってマヤ様を見上げたが、本人は腕組みしてぷいっと横を見ただけだった。
「知らぬわ!」
……ばかっ、と小さい声で続ける。
暴力振るわれた上に、阿呆扱いされる俺って一体。
納得いかない気分で立ち上がったが……いきなりミュウが後ろで声を上げた。
「ナオヤさんっ」
「ど、どうした?」
「足音がします」
声を低めて言ったが、俺達はまたしても『ええっ』と声を合わせていた。
いやだって――この通路ってミュウの測定を信じるなら(俺は信じるけど)、ざっと千年くらいは放置されたままだったんだろ?
そんな場所で、足音なんかするってどういうことだ。
……首をひねる話だったが、自然と耳を澄ませた俺達にも、すぐに聞こえてきた。する……いや、するよ、うん。
通路を歩く、微かな足音がする……しかもこれ、複数だ。
「そんな……おかしいです」
またミュウが不審そうに言った。
「お、おかしいとは、何が?」
黙り込んでいたギリアムが、震え声で尋ねる。
……こいつも暗い場所が苦手なクチか。まあ俺も別に得意じゃないけど。
「今、測定してみましたが、熱源探知に反応がありません」
ギリアムにではなく、俺に向かってミュウが囁いた。
「動体探知は引っかかりますから、確かに前から誰かが来るんです。なのに……なぜか体温がないようです、この人達」
「ひ、ひぃいっ」
またびびりまくったエルザが、エロゲーの効果音声みたいな声を上げ、口元を手で覆う。
お陰で、俺まで背筋が寒くなった。
それって……ゆ、幽霊とかじゃないよな?
やめてくれよ、おい。俺もそれは苦手なんだって。




