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微妙な部分が

 


 まあ……当初の予定通りと言えば予定通りなんだけど、なんだかなぁ。

 いや、もちろんそれを詳しく説明する気まではない。

「それはまあ、例によって俺がマヤ様を苛つかせたんですよ」

「ふむ」

 マヤ様は探るような目で俺を見た。


「まあ、それならわからないでもないが(納得すんの!?)、しかしマヤは客間のベッドで眠っていたようだ。一体、誰がマヤを移動させた? これでもマヤはゆくゆくは魔王になる女だぞ。にも関わらず、無防備に誰かに抱かれて運ばれたとすれば、それは捨て置けん」


 ぎらっといきなり目を光らせる。

 ……え、そんなこと気にするんですか。

 俺は意外な事実に冷や汗が背中を伝った。だって、ジャスミンに言われてお姫様抱っこして運んだの、俺だしな。いやぁ、今後のオカズになりそうな、よい絵だったんだが……。

 隠してもどうせバレるので、俺は恐る恐る答えた。


「そりゃまあ……俺が抱き上げて運んだんですが。マヤ様は既に寝込んでらっしゃったので」

「そうか、ナオヤか」

 マヤ様の声がぐっと優しくなり、薄赤い目を細める。

「ならばまあよい、うん」

 そっと腕に触れ、そのまま踵を返す。

 俺がほけっと背中を眺めていると、振り向いて促された。

「なにをしている。そろそろ出発するぞ!」

「は、はいっ」


 ……この方、何を考えてるかさっぱりわからんな。

 俺は自分の方こそ首を傾げ、慌ててマヤ様に追いついた。

「ところで、マヤ様の馬は?」

 のたのたと馬に乗った俺は、まだ立ったままのマヤ様に尋ねる。

「特に用意してなかった。以前のお気に入りは失ったからな」

 ――なんと。

 じゃあどうすんのさ。まさか、奴隷兵みたいに一緒に歩くとか?

 そもそも今回は隠密行動のはずなんで、その奴隷兵自体がいないけどな。


「言わずともわかるはずだぞ? ほら」


 んっ、とばかりに顎を上げ、両手を差し伸べる。

「はい?」

「はい、ではない。上に引っ張り上げよ! このマヤを歩かせる気かっ」

「す、すみませんっ」

 ていうか、なんで俺が怒鳴られるんだよ。

 頭がぐるぐるしながらも、俺は言われた通りにマヤ様を馬上に引っ張り上げる。というか、この方は身軽なので、本当にちょっと手を貸すだけで羽のように舞い上がって俺の前に収まった。


 ちょっと……これはすげー態勢だな。

 思いっきりくっついてるんですけど。俺の身体の前面部分の大半が!

「どうだ、嬉しいであろう、ナオヤ?」

 マヤ様が振り向いて目を細める。 

 あ、ちょっと、いま腰を動かすのは遠慮して頂きたい……微妙な部分に当たって、ひどく危ないので……色んな意味で。

 俺が阿呆なことを考えてぼうっとしていると、いきなり指で口元を引っ張られた。


「う・れ・し・い・で・あ・ろ・う!!」


「嬉しいです、嬉しいですっ」

 つか、いてーよっ。

 俺が涙目で頬をさすっていると、マヤ様は自ら前方を指差し、命じた。

「さあ行こう。ぼーっとするでない!」

「はあ」


 ……まあ実際、他の仲間はみんな顎を落としてこっちをポカンと見てたからな。マヤ様が声をかけなきゃ、ずっと動かなかったかもしれん。





 今回のメンツは、マヤ様と俺以下、ギリアムにヨルン、それにネージュと色気元スパイのエルザ、さらにミュウと昨晩直訴してきた刀傷の若者である。

 ミュウだけは「わたしはいざとなれば馬より速いですから」ということで、俺の横で歩いてるが、それ以外はみんな馬に乗っている。


 ちなみに、カシムは帝都マヤを守るべく、残留部隊と共に残ってもらった。

 残念がっていたが、留守中にまたなにかあったら困るからな。信頼できる人が残ってくれないと。

 とにかく、以前の任務とは違い、俺達は街道を外れて普段は使われていない道を辿り、密かに五千の軍勢に向かって出発した。


「時に、軍勢に追いつけたとして、どうやってレイバーグを奪い返す気だ?」

 街道を外れた途端、マヤ様が即座に訊いた。

「それは……夜を狙ってるんですけどね。どうも最後に聞いた話じゃ、ヤツらはまだ帝都からあまり離れてないってことだし、仮にあれから進軍を始めたとしても、上手くすれば、夜はどこかの村か町を接収して休んでいるでしょう。そこをこっそりと」

「ふむ……なかなか危険な任務だな」

 深刻さの欠片もない声で、マヤ様が言われる。

 嬉しそうなのが信じられん。

 あと、俺はみんなの視線が痛すぎる。みんなさっきから、こっちをちらちら見て、信じ難い顔で口開けてるんだな。

 ……横を歩くミュウは膨れっ面だし。


「あ、あと、昨晩のうちに新たな斥候を放って、ちょっと彼らの先回りをさせてます。めぼしい街の事情を調べて、今のうちから侵入経路を見つけておこうと思い」

 わざとらしく俺が言い募ると、珍しくマヤ様は大きく頷いた。

「最初は『ナオヤはやたらと細かいな』と思っていたが、時を経るにつれ、ナオヤのやり方が正しいことが証明されていくな。その調子で、戦士将としてがんばるがよいぞ」

「はあ」



 返事に気合いが入ってなかったせいか、むっとしてマヤ様がこちらを振り返った。いや、返事がアレなのは、密着してるせいですからっ。男だし、色々気になるんだって。

 振り返ったマヤ様は俺の顔をじっくり見たが、ありがたいことに文句は言われなかった。

「まあ良い。とりあえずマヤも最後まで同行するからな……救出の任務にも、当然ついて行く。ここは本番に備えて少し寝ておくとしよう」

「えっ」

「後は頼んだぞ、ナオヤ」


 ていうか、実際の救出作戦までついてくるんですかっ。


 そう訊き返したかったのに、マヤ様は本当に目を閉じていた。

 待つほどもなく、寝息が聞こえてきて、俺は少し驚いたな……寝付きが良すぎだろ、この方。




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