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酒には強い(ただし自称)

 


 思い出したくもない冷や汗もののジャスミンへの言い訳やら何やらを経て、ようやく朝が来た。


 時間通り、帝都マヤの境にある魔界の門前に来た俺は、早速ギリアム達から質問攻めに遭っていた。

 もちろん、マヤ様との会話をそのままゲロするほど俺も馬鹿ではない。

 その辺は「ただ護衛に行って夜中に雑談してたら、マヤ様が酔っぱらってぶっつりと切れた」ということにしておいた。


 そうでも言わないと、マヤ様の私室の壁にでっかい穴が開いたのを、どうにも説明できないし。とはいえ……あの後で飛び込んで来たジャスミンには、この言い訳も全然通用しなかったんだけどな。





「なるほど、昨晩の騒ぎはそういうことでしたか」


 ギリアムは感心した――というよりは、むしろ呆れたように俺を眺め、頷いた。

 彼が(多分)あえて言わなかったことを、同じくそばにいたネージュがあっさり述べた。


「でもナオヤ君、あの方とよく雑談なんかできるわねぇ。あたしは畏れ多いというか……それ以前に怖くてとても無理だわぁ」


 両の頬を掌で挟み、いかにも恐ろしげな顔で言う。

 ……ぶりっ子してるけど、この人は幾つだろうな。見かけはきゃぴきゃぴの女子高生だけど。

「そうそうっ」

 朝っぱらからやたら元気なヨルンが激しく同意する。

「だって、怒らせたら一発で首が飛ぶもんなぁ」

「気のせいだろ」

 頭痛を我慢しつつ、俺は一応、弁護しておいた。

「あの方が短気なのは認めるけど、そこまでするのはよっぽどだよ」


「そ、そうでしょうか……私は割と簡単な理由で首を刎ねられかけましたが」


 小さい声でギリアムが返す。

 む……いや、そう言われると……まあ確かに。

 さすがにこれはどうにも言い訳しようがなく、俺はわざとらしく黒い金属製の巨大な門を見上げ、「ついに新たな任務かぁ」などと呟いておいた。


 ていうか……とっても……頭が痛いです。


 俺、あの酒入り紅茶、一口しか飲んでないのにさ。あんなのボトルごとがぶ飲みしたマヤ様、今頃はベッドで悶えてんじゃないのかー。

 早朝以降は、ジャスミンに任せてきたけど。





「よし。ちゃんと集まっているな!」


 いきなり気力に溢れた声がして、俺達は慌てて振り向く。

 見れば、レース飾りの多い漆黒のゴスロリ衣装姿のマヤ様が、颯爽と歩いてくるところだった。相変わらず、スカート部分は股下十センチくらいのフリルミニに、つやつやした黒ストッキングだよ……色っぽくてすげー。


「じゃなくてっ」

 慌てて馬を降りつつ、俺はマヤ様をつくづく見た。

 ……酔いの兆候も頭痛の兆候も全然無いでやんの。いや、そういや暴れた当初から、泥酔してたって感じでもなかったけど。

 下馬したどころか、「へへぇええっ」とばかりにみんなその場に平伏していたが、俺はそれに合わせるのも忘れちまったよ。


「うん? どうした、ナオヤ?」

 きらきら光る薄赤い瞳で、マヤ様が尋ねる。

「少し元気がないな」

「いえ……昨晩の飲酒のせいか、少し頭が痛くて」


「あっはっはっ」


 ゆ、指差して笑わんでもいいだろうにっ。

「あの程度で、もう酔ったとな!? 酒に弱いな、ナオヤはっ」

 今……すげー納得いかないこと言われたぞ。

 しかしこの方は、くびれたウエストに片手を当てたいつもの「傲慢なスーパーモデル」みたいな姿勢であり、全然変わったところはなかった。

 快調そのものに見えるのは事実だ。

「俺が頭痛に悩んだくらいだし、マヤ様はだいぶキツかったんじゃないかと……思ったんですが」


「ふふん。知らなかったのなら、教えてやろう。これは自慢だが、マヤは酒が強いのだ!」


 カラーチェンジしたアンミラの制服みたいな格好のまま、思いっきり胸を張る。

 いや……その話はもう、何度も聞きました……けど。

 俺がそう答えると、マヤ様はふいに俺の腕を掴み、皆から少し離れたところへ連れて行った。



「皆の者は、もう立ってよいぞ。出発まで、しばしそのままで待て!」

『ははあーーーっ』

 うわ……声を合わせてるよ、ギリアム達。

 どんだけ怖がられてんだ、この人はー。

「時にナオヤ、話は変わるのだがな」

 ギリアム達には目もくれず、マヤ様がひそひそと言う。


「実はマヤは、ナオヤと酒入り紅茶を飲んでから後の記憶がないのだ……あれから、どうなったのか? なぜか目が覚めると、予備の客間のベッドで寝ていたのだが」


「おおっ」

 あれだけ暴れまくって記憶ナシとかっ。色んな意味ですげーな。

「いえ……まあ実は」

 俺は雑談の後、マヤ様が豪快にベッドをぶん投げた話を改めてした。まあ、会話の内容はボカして。

「ほほう?」

 不思議そうに小首を傾げるマヤ様である。


「またどうして、ベッドなど投げた? 何かのゲームか」


 なんでやねん!

 あまりにもスカッと忘れられてて、突っ込む元気もないよっ。


 俺はあれから、ジャスミンに「まさか、間違いはなかったのでしょうねぇえええ」とじくじくと問い詰められ、挙げ句に「ひとまず警護は完遂かんすいしてください。ただし、部屋の外でっ」と言われて、結局は廊下で刀抱えて座ってたんだよぅうう。


 まあ……当初の予定通りと言えば予定通りだけど、なんだかなぁ。



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