一瞬の喜び
……すぐとはいえ、さすがに奪い返したばかりの城内が落ち着くのに、あと一日くらいはかかるということで、実際に帝都を出るのは明日になった。
まあ、それでギリギリだろうな。
なんせ、レイバーグの部隊を打ち破った反乱軍が、もしも帝都マヤじゃなくてルクレシオン帝国の帝都クレアールへ向けて進撃を開始すれば、追いつくのに少し時間かかるし。
あと関係ないけど、どうやら俺は一晩寝込んでたのではなく、二晩寝込んでたようだ。
治癒魔法で怪我の手当を急いだせいか、思ったより休んでたのな。
……とにかく、明日から始まる作戦のために、久しぶりにみんなを呼ぼうかと思った――が。
そんなことしなくても、戻ったサロンにギリアムを初めとして、ほぼ顔見知りが全員揃っていた。
「おぉ、ナオヤ様! お元気になられたようで、祝着至極にございます」
城内のサロン(客間)にコの字型に置かれたソファーの一角で、まずはギリアムが立って深々と一礼する。
それはいいが、その横ですかさずヨルンが言った……両腕を頭の後ろで組んだナメた格好で。
「しっかし、出荷場で息を潜めて時が来るのを待ってた俺達、馬鹿みたいだったなぁ。知らない間に全部終わってやんの」
「こ、こらっ」
慌ててギリアムが制止したが、俺は笑って手を振った。
「いいっていいって。ヨルンが愚痴るのも、もっともだし。――それは後で謝るとして、今は良いニュースと悪いニュースがあるんだ」
早速自分もギリアムの正面に座ると、入れ替わるようにミュウが部屋を出ていく。おそらくお茶の支度をしてくれるつもりだろう。
「で、では悪いニュースから」
「よいニュースからってことでー」
ギリアムとヨルンが同時に言ったが、俺はギリアムの方を尊重して話し始めた。
「じゃ、悪いニュースから。……明日、早速新しい作戦を開始する」
覚悟したが、不満を表明したのはそれまでは黙っていた女性陣だけだった。
「あたしの買い物計画がっ」
スカート短めのチャイナ服みたいなのを着たエルザが言えば、ネージュも深刻な顔で頷く。
「十日は休めるかと思ったのにぃ」
「いや……今回は希望者だけでいいよ、うん」
俺は微笑してぽつんと述べた。
途端に顔を見合わせたみんなに、さっきの決定と話し合ったことを教えてやる。もちろん、秘匿していたリベレーターの話も教えてやった。
リベレーターについちゃ、策に使うデマに名前を使わせてもらったから、一応エルザなんかは先に名前を聞いてるが、まだどういう連中かまでは知らなかったのだな。
せいぜい、「えー、昔攻めてきたらしい種族?」程度の知識だ。
いや、それを言うなら俺も似たようなもんだけど。
「うわぁ」
全部説明した途端、まずはヨルンが息を吐いた。
「ナオヤに付いていくようになってから、ハードな日々だよな……ついに、レイバーグを破るような化け物が相手か」
「いや、だからさ、別に今回は」
「おいおい、こう見えて俺は友情に厚く、かつ忠義にも厚いイケメンだぜ」
失敗したロックバンドのボーカルみたいなご面相を自分で指差し、ヨルンはニヤッと笑う。
……とりあえず、歯を磨けよ。
「もちろん、今回もついていくさ。自分だけ安全圏にいるとか、俺の美学が許さねぇ」
「そ、そんなこと言われたら、あたしも行くしかないじゃないっ。残ったら卑怯者みたいだし」
ぷりぷりしながらエルザが唇を尖らせる。
逆にネージュは、微妙な笑みでそんなエルザを眺めていた。
「あたしも人に言えないけど、素直じゃない人がいるわよねー」
「な、なんの話よっ」
頬を赤くしたエルザがささっとそっぽを向いた。
「いぇえええ、別にぃいい」
「なにようっ」
「無論、この私も同行致します」
女同士で、バシバシと背中を叩き合うエルザとネージュを尻目に、ギリアムが折り目正しく低頭した。
「しかし、仮にレイバーグを救出できたとして、ヤツは我々に協力してくれますでしょうか」
「そりゃわからないさ」
多少不安だったことを指摘され、俺は顔をしかめた。
「でも、このまま座視していたら、多分俺達全員が死ぬと思うんだ」
さらりと答えると、見事なまでに場が静まり返った。
まあ……ギリアム達はあのエスメラルダの戦い振りをみてないからな。
「そ、そんなすげー相手なんか!?」
ヨルンがそう呻いて黄色い目を丸くしたほどだ。
「びびらせたくないけど、まぁなー。……でも、それは今どうこう言ってもしょうがないんで、とりあえず今度は良いニュースな」
ちょうど、飲み物を乗せたワゴンを押しながら、ミュウが戻って来てくれた。
「でもって、そっちは割と派手でみんなにも関係ある」
頃はよしとばかりに全員にコーヒーのカップが行き渡るのを待ち、俺は立ち上がってワイン代わりにカップを掲げた。
「今回の魔王城奪還で、マヤ様から莫大な褒美が出て、しかも俺は戦士将に昇進した!」
「うそっ! いきなりそこまでっ!?」
ネージュを初めとして、たちまち歓声が上がった仲間達をぐるりと見渡し、ぐっと親指を立ててやった。
「当然、みんなにも惜しみなく金ばらまいて、身分もどかんと引き上げてやるぜぇーーーっ」
――ええと、俺の権限で許されるところまで。
と最後に付け加えた時には、既にヨルンとエルザの絶叫で声がかき消されていた。
「よっしゃああああああ。持ち家をキャッシュでぶっ建てて、綺麗どころの巨乳奴隷を大勢囲う野望が、これでまた一歩かぁああああ」
「あたしの宝石コレクションがまた増えるうううっ」
……こいつらの夢、即物的すぎ。
あと、ヨルンの目標がたまらんよな。
カップ掲げたまま、俺はソファーにへたり込みかけたね。
でもまあ……喜んでくれるならいいか。あんまり仲間に報いる機会もなかったしなぁ。




