表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/317

一瞬の喜び

 

 ……すぐとはいえ、さすがに奪い返したばかりの城内が落ち着くのに、あと一日くらいはかかるということで、実際に帝都を出るのは明日になった。


 まあ、それでギリギリだろうな。

 なんせ、レイバーグの部隊を打ち破った反乱軍が、もしも帝都マヤじゃなくてルクレシオン帝国の帝都クレアールへ向けて進撃を開始すれば、追いつくのに少し時間かかるし。

 あと関係ないけど、どうやら俺は一晩寝込んでたのではなく、二晩寝込んでたようだ。

 治癒魔法で怪我の手当を急いだせいか、思ったより休んでたのな。


 ……とにかく、明日から始まる作戦のために、久しぶりにみんなを呼ぼうかと思った――が。

 そんなことしなくても、戻ったサロンにギリアムを初めとして、ほぼ顔見知りが全員揃っていた。






「おぉ、ナオヤ様! お元気になられたようで、祝着至極にございます」


 城内のサロン(客間)にコの字型に置かれたソファーの一角で、まずはギリアムが立って深々と一礼する。

 それはいいが、その横ですかさずヨルンが言った……両腕を頭の後ろで組んだナメた格好で。


「しっかし、出荷場で息を潜めて時が来るのを待ってた俺達、馬鹿みたいだったなぁ。知らない間に全部終わってやんの」


「こ、こらっ」

 慌ててギリアムが制止したが、俺は笑って手を振った。

「いいっていいって。ヨルンが愚痴るのも、もっともだし。――それは後で謝るとして、今は良いニュースと悪いニュースがあるんだ」

 早速自分もギリアムの正面に座ると、入れ替わるようにミュウが部屋を出ていく。おそらくお茶の支度をしてくれるつもりだろう。


「で、では悪いニュースから」

「よいニュースからってことでー」


 ギリアムとヨルンが同時に言ったが、俺はギリアムの方を尊重して話し始めた。

「じゃ、悪いニュースから。……明日、早速新しい作戦を開始する」

 覚悟したが、不満を表明したのはそれまでは黙っていた女性陣だけだった。


「あたしの買い物計画がっ」


 スカート短めのチャイナ服みたいなのを着たエルザが言えば、ネージュも深刻な顔で頷く。


「十日は休めるかと思ったのにぃ」


「いや……今回は希望者だけでいいよ、うん」

 俺は微笑してぽつんと述べた。

 途端に顔を見合わせたみんなに、さっきの決定と話し合ったことを教えてやる。もちろん、秘匿ひとくしていたリベレーターの話も教えてやった。

 リベレーターについちゃ、策に使うデマに名前を使わせてもらったから、一応エルザなんかは先に名前を聞いてるが、まだどういう連中かまでは知らなかったのだな。 


 せいぜい、「えー、昔攻めてきたらしい種族?」程度の知識だ。

 いや、それを言うなら俺も似たようなもんだけど。




「うわぁ」


 全部説明した途端、まずはヨルンが息を吐いた。

「ナオヤに付いていくようになってから、ハードな日々だよな……ついに、レイバーグを破るような化け物が相手か」

「いや、だからさ、別に今回は」


「おいおい、こう見えて俺は友情に厚く、かつ忠義にも厚いイケメンだぜ」


 失敗したロックバンドのボーカルみたいなご面相を自分で指差し、ヨルンはニヤッと笑う。 

 ……とりあえず、歯を磨けよ。

「もちろん、今回もついていくさ。自分だけ安全圏にいるとか、俺の美学が許さねぇ」

「そ、そんなこと言われたら、あたしも行くしかないじゃないっ。残ったら卑怯者みたいだし」

 ぷりぷりしながらエルザが唇を尖らせる。

 逆にネージュは、微妙な笑みでそんなエルザを眺めていた。

「あたしも人に言えないけど、素直じゃない人がいるわよねー」

「な、なんの話よっ」

 頬を赤くしたエルザがささっとそっぽを向いた。


「いぇえええ、別にぃいい」

「なにようっ」


「無論、この私も同行致します」


 女同士で、バシバシと背中を叩き合うエルザとネージュを尻目に、ギリアムが折り目正しく低頭した。

「しかし、仮にレイバーグを救出できたとして、ヤツは我々に協力してくれますでしょうか」

「そりゃわからないさ」

 多少不安だったことを指摘され、俺は顔をしかめた。

「でも、このまま座視していたら、多分俺達全員が死ぬと思うんだ」

 さらりと答えると、見事なまでに場が静まり返った。

 まあ……ギリアム達はあのエスメラルダの戦い振りをみてないからな。

「そ、そんなすげー相手なんか!?」

 ヨルンがそう呻いて黄色い目を丸くしたほどだ。


「びびらせたくないけど、まぁなー。……でも、それは今どうこう言ってもしょうがないんで、とりあえず今度は良いニュースな」

 ちょうど、飲み物を乗せたワゴンを押しながら、ミュウが戻って来てくれた。

「でもって、そっちは割と派手でみんなにも関係ある」

 頃はよしとばかりに全員にコーヒーのカップが行き渡るのを待ち、俺は立ち上がってワイン代わりにカップを掲げた。




「今回の魔王城奪還で、マヤ様から莫大な褒美が出て、しかも俺は戦士将に昇進した!」


「うそっ! いきなりそこまでっ!?」

 ネージュを初めとして、たちまち歓声が上がった仲間達をぐるりと見渡し、ぐっと親指を立ててやった。

「当然、みんなにも惜しみなく金ばらまいて、身分もどかんと引き上げてやるぜぇーーーっ」

 ――ええと、俺の権限で許されるところまで。

 と最後に付け加えた時には、既にヨルンとエルザの絶叫で声がかき消されていた。


「よっしゃああああああ。持ち家をキャッシュでぶっ建てて、綺麗どころの巨乳奴隷を大勢囲う野望が、これでまた一歩かぁああああ」

「あたしの宝石コレクションがまた増えるうううっ」



 ……こいつらの夢、即物的すぎ。

 あと、ヨルンの目標がたまらんよな。

 カップ掲げたまま、俺はソファーにへたり込みかけたね。


 でもまあ……喜んでくれるならいいか。あんまり仲間に報いる機会もなかったしなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ