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俺の希望の星がっ

 


 俺は頭がクラクラして、本当によろめいた。


「お、俺の希望の星だったのにっ!!」


「それはどういう意味だ?」

 マヤ様が不思議そうに問う。

「レイバーグは我らにとっても敵ぞ。それどころか、この騒動前は最大の敵だったくらいだ」

「いえ……まあだから、俺の勝手な胸算用だったんですけどね」



 つまり、こういうことだ。

 以前、この城内で出会った会話からして、俺はレイバーグはリベレーターについて何か知っていると思っていた。「この大陸の歴史を詳しく調べてみるといいよ」などとほのめかしてたし、俺が召喚されたことにも言及してたからな。


 ついでに言うと、ルクレシオン帝国のベルグレム王は、はっきりとリベレーターについて何か知ってるはずだ。

 なにせ俺が流した「魔界のファルシオン伯は、リベレーターと呼ばれるかつての強敵と和解し、彼らの力を借りて、近々、帝国に攻勢を掛ける模様」ってな偽情報に釣られて、まんまと軍勢を出したんだし。

 でもまあ、会ったこともない他国の王はどうでもいいんだよ。


 問題はドラゴンキラーの勇者、レイバーグだ。

 今だから白状するが、俺はリベレーターのことを知らされて以来、密かに淡い期待を持っていたのである。


 つまり、最終的には勇者レイバーグリベレーターを駆逐するであろう、みたいな希望を。


 だって、勇者ってそういうもんやん?

 もっと簡単に言うと、「でもレイバーグなら、レイバーグなら何とかしてくれるっ」とか「後はレイバーグが何とかしてくれるて」というような、清々しい他力本願である。




「それが……それが、あっさり倒されたって……俺の美しい他力本願を台無しにしやがって」


「だから、どういう意味なのだ?」 

 マヤ様が呆れた顔でまた言ったが、俺はふと思いついて、慌てて斥候の元へ走った。

「ちょっと訊きたいけど、一騎打ちで敗れたのか?」

「左様です」

 斥候の彼は恭しく答えた。

「リベレーターを自称する男が、合戦の途中でレイバーグに挑戦し、ヤツがそれに応じたのです。しかし……勝負自体はあっけなく終わり、レイバーグは斬撃を浴びて倒れました」

「重傷を負ったレイバーグはどうなった?」


「はっ。どうやらリベレーターが捕虜として陣中に留め置いているようです」

「つまり……まだ生きてるわけね?」

「そうですね、今のところは」

 いぶかしそうな顔ながら、彼は跪いたまま頷いた。

「ただ、怪我は想像以上にひどく、助かったのは運が良かっただけらしいので、いつまで生きているかは微妙かもしれません」


「なるほど。……それで、五千の魔界反乱軍は、今どうしてる?」

「最後に私が見た時には、まだ陣を敷いたまま、動いてませんでした」

「そうか」

 訊くだけ訊いた俺は、マヤ様達に他に質問がないか尋ねてから、労をねぎらって彼を下がらせた。




 再び席に戻ってから、俺はマヤ様に尋ねた。

「……時に、さっき俺に『後で話す』とか言ってらっしゃいましたね。あれは何の話です」

「それだ。先程も申した通り、ナオヤが休んでいる間に、マヤはあの反乱部隊に使者を出した。口上はもちろん、ファルシオン伯の陰謀を明らかにし、マヤがまだ生きていることを告げたのだ。しかし――」

「まさか……出陣した五千の兵は、撤退に応じなかった?」

 元々、俺の適当な策に乗せられただけなのにさー。

「実際は、それよりもっと悪いですな」

 カシムが深刻そうに口を挟む。


「ヤツらは不届きにも、帝都への帰還を命じたマヤ様の使者に対し、『マヤを打倒し、ルクレシオン帝国も倒し、この世界に新たな国を作る! よって、魔王の娘ごときに指図は受けない。これは我々の総意である』などという口上を携えた使者を寄越しました」


「――ふざけるなっ」

 いきなりマヤ様が、長テーブルの残骸を豪快に蹴飛ばした。

 エラい飛距離で、正面の扉まで吹っ飛んでいき、言語道断な音がした。

 い、いちいちビビるんだよな、この人は。

「我が父が支配するこの魔界で、そこまで明確な反逆を起こした者は、ただの一人もいない。馬鹿いとこ殿ですら、父とマヤが死んだ前提でこそこそやっていたのだからな。本気だと言うなら、覚悟してもらおう」

 真紅に染まった瞳でマヤ様が言う。


「この上はコトの真偽を確かめ、本当にヤツらが謀反を起こしたのだとすれば、五千の兵士全員、ことごとく首を刎ねてくれるっ」


 ……この人は本当にやるぞ。

 俺は他人事ながら、ガクブル物だった。仮に五千が一万だろうと、相手が本気だとわかれば絶対に首を刎ねる。

 多分、信長と同じく比叡山なんか鼻歌交じりで全焼させた上、ついでに近所の神社仏閣まで焼き払いそうな方だからなぁ。

 ただ、俺としてはちょっと疑問でもある。


「俺が気になるのは、その使者の口上にある『これは我々の総意である』って部分です。普通に考えて、そんなことが有り得ると思いますか? 仮に指揮官が反魔王派だとしても、五千もいりゃ、中には絶対にマヤ様や魔王陛下に忠誠心を持つ者もいるはずです。なのに、反乱が総意? その使者、どこまで本気だったんでしょう」


「少なくとも、やってきた正使と副使の使者達、ヤツらは完全に本気だったな。自信に溢れ、目が据わっていた。総意というのがまるっきりの嘘では、あれほどの自信は見せられまい」

 忌々しそうにマヤ様は歯軋はぎしりする。

 まあ、その使者達がどうなったのかは訊かずに置こう……怖いからな。

「それって、もしかして一人だけ同行していたリベレーターの男に原因がないですかね」

 二人揃って訝しそうに見たので、俺は説明してやった。 

 ついでに、リベレーターというのが過去の侵略者であることも説明する。


「――というわけで、魔王陛下の話では、ヤツらって最初はやたらと民衆に受けがよくて、解放者リベレーターって名前も、元々は民の方が付けた呼び名らしいんですよ」


「なんらかのまやかしを使い、兵をたぶらかしているということか?」

「その可能性はあります。でないと、五千の兵がことごとく『新たな国を作るっ』なんて言い出したりしませんよ」

 俺の話を聞き、当然ながらマヤ様とカシムは渋い顔をした。

 もしそれが本当なら、安易に戦うわけにもいかないので、当然だろう。


「あの……俺に一つ提案というか献策があるんですが……お聞きになりますか?」


 ここぞとばかり、俺は持ちかけた。

 こういう難儀な見通しを語ったのは、これから持ちかける意見の伏線だったんだな。



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