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ドSなマヤ様


「貴様達の行動は全て調べた。我が大馬鹿のイトコ殿に密かに荷担した者が三分の一、ただ屋敷に閉じこもり、中立を保った者が三分の一、残りの三分の一はイトコ殿に身分を返上する使者を出して助命を願ったそうではないか!」


「な、なぜそれをっ」

 迂闊な誰かが口に出し、慌てて口元を押さえた。

「強者と見るや、途端になびく者は多い。マヤが魔王城を回復した途端、かつての敵が雪崩を打って協力を申し出てきている。それ故、調べるのに不自由はなかったぞ」

 最初の元気が嘘のようにテーブルを見つめて動かないおっさん達である。

 しかし……なるほど、それで大勢が決まった途端、こいつらはぞろぞろ出てきたわけね。いやぁ、わかりやすいな。


「とはいえ、おまえ達の言う通り、この昇格が急なものであることは事実だ」


 いきなりマヤ様はにんまりとほくそ笑んだ。

「そこで、チャンスをやろうではないか――ナオヤ、立つがよい」



 ――へっ。

 言われた通りに立ったものの、俺はもう最高に嫌な予感がしていた。……またろくでもないことを考えたな、この方はっ。

「そう嫌な顔をするでない」

 マヤ様は苦笑して肩を叩く。


「今のナオヤなら、どうせすぐに終わる。――マトルカス、立てっ」

 いきなり諸将の一人を呼ぶ。

「お、お呼びでしょうや?」

 あからさまに警戒顔で立ち上がったのは、カシムと似たような雰囲気の、顔中が傷だらけのおっさんだった。

 いやぁ……魔界は男性至上主義らしいから、上の方へ行くと野郎ばっかではながないよなぁ。ネージュはやっぱ例外なんである。

 一人でがっかりしてたら、マヤ様が言う。


「マトルカス、おまえはどうやら馬鹿イトコ殿にくみした側で、戦況が危ういと見てさっさと鞍替えしたようだが」

 いきなりあっさりバラすマヤ様である。

 無論、マトルカスとやらは唾を飛ばして反論した。

「め、めめっ滅相もない! 私は元々、あヤツに胡散臭いものを感じていましたが、陛下もダークプリンセスも既に帝国側に殺されたと聞き、とにかく仇を討つまではと」

「もうよいっ」

 ずらずら続く言い訳を、マヤ様はばっさりカットする。

 てんから信じてないのは明らかだった。……まあ、俺も大嘘だと思うけど。

「今は貴様の行状を云々するのではなく、ナオヤの昇格が正統かどうかを論じているのだ。……貴様は少なくとも、この諸将の中では一番、腕がマシだ」

 途端に、むっとして立ち上がろうとしたカシムに駆け寄り、俺は慌てて耳打ちする。


『カシムさんは数の中には入ってませんよ! もはや貴方は敵側と見なされてないんです』


「はっ……これは恐縮です」

 俺になだめられ、カシムはほろ苦い笑みを浮かべた。

「あのデカブツに後れを取るほど衰えた覚えはなかったので、つい」

『わかってますって。とにかく、今のマヤ様にとってはあの人達はもう敵だし、勝ち気なマヤ様としては、その敵共をへこませることしか考えてないんです。俺にはよくわかるんですよ』

『なるほど……さすがに、あのダークプリンセスと上手くやっていけるナオヤ殿ですなぁ』

 最後はカシムのおっさんまで囁き声になっていた。




「ナオヤ、なにをカシムとコソコソ談判しているっ」


 叱声を受け、俺は慌ててマヤ様の元へ戻った。

「はいはい……いや、ちょっと雑談です」

「主君のマヤが話してる最中に、他人と雑談するな、馬鹿者」

 戻るなり、拳でこつんと頭を叩かれた。

 実はこれも、本気で腹を立ててない証拠である。もし本気なら、今頃、俺の頭蓋は割れるかヒビが入っている。

 よって、俺はマヤ様の可愛い膨れっ面を見てニマニマしてても大丈夫なわけで。


「何をニヤニヤしているのだ、気持ち悪い。……早く、刀を抜かぬか」


「えっ」

 意外なことを聞き、俺は顔をしかめた。

「本気で聞いてなかったな、ナオヤ」

 マヤ様はしんねりと俺を見やり、ずびっとマトリョーショカ――じゃないや、そりゃロシア製の人形か。えー、マトルカス……だっけ? とにかくそいつを指差した。

「あいつを倒し、おまえの腕を全員に見せてやれ」

「うわぁ……なるほど、そんなこと考えてましたか」

 俺は脱力して呟く。

 この人らしい解決法だわな……これを予測できなかった俺、まだまだ甘いな。


「ふっ……そういうことなら、望むところですな」


 白い礼服を来たマトルカスは、嘘のように元気を取り戻した。

 ギリアムみたいにオールバックにした金髪を撫で、にやりと笑う。うわ、デカいなこの人。多分、身長が185以上はあるぞ。

「戦士長マトルカス、ダークプリンセスの御前おんまえではありますが、この小僧に年季の違いを見せてやりましょうぞ!」


 とっさに、「いや、俺は了承してませんよっ」とやかましく反対しようとしたが……彼をじっと見ていて、違和感を感じた。

 いや……実に押し出しのいい戦士だと思うんだが……なんかあんま強そうに思えない。

 正直、エスメラルダやレイバーグを前にした時に感じるチビりそうなプレッシャーとか、微塵みじんも感じないんだな。


「ふふ……これはナオヤにとってもよい機会だし、魔界の腑抜ふぬけ共にもよい転機となろう。見せてやれ、ナオヤ。おまえが、既にこの者達など敵ではないことを」


 きらきら光る瞳が、完全に真紅に染まっている。

 相変わらずドSなマヤ様である。絶対、あのおっさんが血反吐ちへど吐くのを期待してるよぉおお。

「まあ、マヤ様の命令とあればやりますけど……殺しちゃうのは嫌ですよ。一応、同じ陣営ってことになってんだし」

 などと人が親切に言ってんのに、マトルカスとやらはかえって激怒しちまった。まずかったな、もっとヤワく言うべきだった!


「奴隷上がりの小僧があっ。魔界屈指の実力を持つ俺に、なんという言い草かあっ」


 床に落ちたグラスがビリビリ震えるような怒声を放つと、いきなり抜剣して襲いかかって来やがった。

 しかし、俺があっさり身をさばいて避けたせいで、こいつの斬撃は無駄に空を斬っただけである。むしろ体勢が崩れて、上半身がガラ空きだ。エスメラルダなら、五~六回はこの間に反撃して斬りまくってる気がするな。


 ……なんて考える余裕さえあった。

 で、そんなことを考えつつ、せっかくだから振り上げた刀を巨体の首筋に叩き込んでおく……もちろん、峰打ちで。


 よろめいたところへ受けたもんだから、マトルカスとやらはべしゃっと床に潰え、ビクビク痙攣した後、動かなくなっちまった。うわ……なんか思ったより向こうのダメージ大きいな。

 俺はヤケに静まり返った室内を見回し、頭を掻いた。


「いや、俺はちゃんと手加減……したんですよ?」


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