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早速の苦情祭り



 大いにびびった俺だが、使いのメイドさんが「マヤ様が『もし具合が良いようなら、軍議の間に来てほしい』とのことです」と伝言を教えてくれたので、早速、服を着替えて向かった。


 いや、怪我はもう治癒されているし、よく眠ったせいか全然問題なさそうだし。

 ……どうでもいいが、服装は向こうの指定で金線の意匠が入った、貴族が着るような裾の長い上着だったりする……クラバットまでついてて、このネクタイもどきもしなきゃいけないのか……実質、中坊の俺が。

 まあ、用意されているのに着ないとマヤ様がへそを曲げるかもしれないので、やむなくミュウに手伝ってもらって着たさ。


「お似合いです! 風格がありますわっ」


 着替えた後、ミュウはそんな風に言って軽く手を叩いた。

 なんか、どんどん人間臭くなるなぁ……この子。いや、いいことだよな、うん。

「じゃあ……ちょっと行って来るよ」

「はい。ここでお待ちしてます」

「あ……はい」 

 ミュウが一礼するので、俺も思わず低頭した。

 この辺が全然新婚っぽくないところだ。





 

 で、不慣れな城内をメイドさんの案内で軍議の間に着いたが……案内役のメイドさんは、「わたしはここまでしか許されておりません」とか言って、戻ってしまった。


 なんか心細いが、身分制度の厳しい魔界なのでしょうがない。

 まさか入った途端、お偉方が並んでるわけでもないだろうさ。





「ナオヤ・マツウラ、参上しました。入ります!」


 衛兵が左右にいるので、一応俺は声を張り上げてから扉を開けて中へ入る。

 ……でもって、後ろ手に扉を閉めたところで固まっちまったね。

 馬鹿みたいにデカい長テーブルがいきなりでんっとあり、上座にマヤ様が一人で座っている。まあ、これは予想していたのでいい。


 ……よ、良くないのは、その左右にエラそうな軍服やら礼服やらを着た、見るかに「身分の高そうな人」がずらら~っと並んでいたことだ。

 しかも、俺が入った時点で、一斉にこっちを睨みやがる。

 つか、マジで入った途端に「お偉方」が並んでるやんっ。

 意外性強すぎて俺が立ち尽くしていると、マヤ様が遥かな上座から嬉しそうに呼んだ。


「うん、来てくれたのだな! よしよし、マヤの右隣に来るがよいぞ」


「は……はぁ」

 何とも気弱な返事を返し、俺は言われた通りにマヤ様の方へ行く。

 いや、そこまで行くのにすげー距離があったような気がしたねっ。どうも身分順に並んでいるらしく、このおっさん連中と来たら、数十名ほどもいたんだな。


 ようやく上座に着くと、偉いさん達はみんな背筋を伸ばして座っているのに、マヤ様は一人だけ剛胆な格好だった。

 ミニのワンピースに見える漆黒のドレス姿なのだが、大きな椅子の上に片膝を立て、その膝を両手で抱えて座っているのだな。


 まるで、友人とだべっている体育座りみたいな感じ。

 スカートなんで、下手するとパンティーとか見えそうで、心臓に悪い。

 いや、俺が見る分にはともかく、他のヤツに見られると腹立つ。

 ……などと考えつつ、これまた素直にマヤ様の隣に座った――のだが。


 よく考えたら、支配者の右横に座るってのは、魔界ではそのままその人の右手に当たるってことだぞ!

 慌てて立ち上がろうとしたら、マヤ様に途方もない剛力で無理にまた座らされた。


「いたたっ」

「動かず、じっとしているがよい!」

「しかし――」


「ナオヤ殿っ」


 いきなり呼ばれ、俺はさらに右……じゃなくて斜め右前を見た。

 ちょうど、長テーブルの右列、最初の一人目が座っているのだが、この人だけは顔見知りで、カシム戦士長だった。

 このおっさんはもうなんのこだわりもないのか、俺を見ていかつい顔でニカッと笑っていたりする。


「もう元気におなりのようですな! 胸を撫で下ろしましたぞっ」

「は、はあ……ていうか、カシムさんも呼ばれましたか」


「そうですが、ナオヤ殿――わしのことは呼び捨てでお願いします」

 いきなり居住まいを正し、カシムはこの上なくはっきり述べた。

「親しき仲であっても、序列は守らねばなりません故」

 顔をしかめて見返したが、むちゃくちゃ本気そうだった。あと、むしろ嬉しそうに見える。真実を知ったせいか、もう以前の反抗心は微塵もないらしい。

「いやぁ、カシムさんはよくても、ここに集まっている皆さん、みんなすげー不満そうですが」

 俺がモソモソと言うと、マヤ様が悪戯っぽい顔で頷いた。

 この方がこういう笑い方をする時は、だいたい後で面倒ごとに巻き込まれる……主に俺が!


「そう、実は今呼んだのは、その件もあった。まずはそちらを片付けよう。――この者達は、マヤがナオヤの階級を上げたことが、気に入らないそうでな。そこのカシム以外は、全員が文句ばかり言うのだ」


「ええっ」

 いきなり各方面から苦情かい!

 言われると思ったけど、もう少し後だと思ってたよ。そんなのに限って早いよっ。

 俺は内心でうんざりして、お偉方をぐるりと見渡した。


「別に俺はマヤ様の近くにいられたら文句ないので、身分なら元のままでもいいんですが」


 何気なく言ったら、いやぁみんな一転して意外そうな顔になり、次に顔中で笑いやがったね。

「おお、その奴隷上がりはなかなか分をわきまえてますなっ」

「左様、左様。本人がそう言うなら、確かに揉めることはありませぬ」

「元の身分に――いや、元の特等戦士も過剰な身分ですが、まあそこは目をつぶりましょう」

「そして、新体制については、また改めて協議するということで――」 

 偉いさん共が勝手なことを言いまくってる途中で、マヤ様がいきなりテーブルをぶっ叩いた。


「悪戯に口を動かすな、腰抜け共めぇーーーーっ!!」


 ドガッと凄まじい音がして、マヤ様の前のテーブルが木っ端微塵になった! もちろん、テーブル上にあった飲み物のグラスなんかはどんどこ宙を舞い、周囲のヤツらに中身をぶちまけてくれた。

 相変わらず、嘘みたいな怪力だな、この人っ。

 あと、俺にまで破壊されたテーブルの切れっ端が飛んで来て、危うく目に刺さるトコだし。


「あぶっ」

 ひやっとして胸を撫で下ろしたが、本人は聞いちゃいない。

 その場ですっくりと立ち上がったマヤ様は、しかし相変わらず美しかった。輝くばかりの金髪を手で払い、魔王陛下譲りの真紅に染まった瞳でぎらりとおっさん連中を睨み付ける。

 本物の女神みたいに、威厳があるし。


 俺みたいに萎縮するどころか、おっさん連中の方がびびって目を逸らしてたね。




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