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3-2 船の上

怒りの真相が明らかに!


まぁ、そういう人もいるよね…

白い国 3-2 船の上



 遡る事は前日のレンブランド大学、ドルフ教授の研究室にて、テレスはローレンスの取扱説明において重要な事項の伝達を受けていた。


「ああそれと、重要な事を伝えねばな。ローレンス君の弱点、いや着火点をね。」


「着火点?ですか?先生ならいつも不機嫌に怒っていますけど?」


「いや、そんなもんじゃないんだよ。彼が本当に怒った時はね。君は彼がどうして離婚したのか知っているかい?」


「いえ、単に仕事に没頭し過ぎて愛想を尽かされた。くらいにしか知りません。」


「そうかね。だがその情報は誤りだよ、テレス君。むしろ彼は愛に溢れて、周囲を困らせるほど、妻、オリヴィア・エヴァンズを大切していたよ。仕事もそっちのけでね。」


「それは意外ですね。先生はてっきり「人間の情愛と言う、俗に言うロマンスとは人間の多大なる勘違いが起こす衝動的過ちの事だ!」とか言って人間とは相容れない生物(宇宙人)かと。」


「フフッ、それは誤解だよ。何かと記念日には二人で出かける仲睦まじい夫婦だったよ。まあ、しかしその愛情深さが仇となった。」


 ドルフ教授から聞くに、ローレンスはメディラ海南部の都市ラヒードで発見した古代都市の遺跡、そこから発掘されたラヒード石版の聖刻文字の解読で名を上げた。元々その発掘調査には考古学者のジェイコブ・アストルムと共同調査を行っており彼もそれがきっかけで有名となった。


 しかしそれが悲劇の始まりだった。ジェイコブ・アストルムは無類の好色男であり、ローレンスの妻と知らずに調査に同行していたエヴァンズに言い寄っては、宿屋に無理矢理誘い込もうとした。


 その所を目撃したローレンスは無論、激怒。アストルムを責めるのはもちろん、妻であるエヴァンズに対してまでも狐疑し始め、この後の行動は常軌を逸するものだった。


 それの前と後とでは、彼の行動には明確に違いがあった。粘着質の狂気さに拍車がかかり、それに堪りかねたエヴァンズが離婚を切り出すと、それを頑なに拒否。


 最終的に裁判まで行った。


 しかし結果は離婚を認める判決が下され、即日控訴するも、あえなく控訴も棄却。


 その事件から彼は離婚の原因となった考古学者のアストルムを嫌っており、故に同類の考古学者と言われるのは甚だ不快であり、堅忍するには堪えがたく、容易に怒りの着火点、沸点になる。とのことなのだ。


 テレスはその話を聞いてある種の同情もするが、その後の常軌を逸した行為をするなど、彼を知る者なら想像するに難くない。


 そもそも理由が幼稚なのだ。離婚原因となった男が考古学者だから、考古学者と言われるのが嫌だし、考古学を毛嫌いしている。


 それはまるでパイナップル農家が気に入らないからパイナップルは嫌い。


(ちなみにローレンスは食用に適した皮をしていないトゲトゲしい植物を、およそ食用と言い張る奴らは頭がおかしい。などと言い、よってパイナップルは食用ではないため食べない。本当の話だ。)


と言ってるようなものではないか。


 本音は嫌いなものにあれやこれやと理屈をつけて嫌っているだけで、その理論構成は小学生のそれと変わらない。


 とても普通なら反証に耐えられない理論だが、ローレンスならば、もしや‥ということはある。彼はプライドという名の堅固で、遥か見上げるほど高い城壁を持って、己の敵を跳ね返すのかもしれない。


「分かりました。気をつけます。」


 以上回想。


 そう、そうやって前日に注意を受けたばかりにこの事件だ。


 しかし、テレスなりの抗弁をさせて貰えば、そもそも怒りの理由が幼いが故に、それを防ぐ手立てが少な過ぎる事だ。


 唯一の根本的解決方法であるローレンスの精神年齢を上げろと言われても、位の高い聖職者や哲学者、精神科医でなければ土台無茶な事なのだ。


 加えてこのオンボロ船に乗れと言われれば、多くの人が怒りや苛立ち、不快感を覚える。(流石のテレスもこの船には二度と乗りたくない。)


 この悪条件下では、テレスは噴火した山を見守り、活動が落ち着いたところで雀の涙程の水量で溶岩を固めるくらいしかする事がないのだ。



「いえ!先生は歴史学者、あの聖刻文字を解読した歴史に名を残す博士ですよ!自信持ってください!」


 遥か深い海溝よりも深く、遥か高く聳える山脈に届く、末恐ろしい自尊心をもつこの男に自信持ってください。などと言う事は、テレス自身言っていておかしな話だと思う。


 しかしこの状況下ではその自尊心を高めさせるしか切り抜ける方策がないのだ。




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