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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第四章:追放者の果実
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12-Sideトラ:モヒカンたちの襲撃

 サウスエンドとアウトラストを隔てるアーチの手前に僕は立っていた。隔てると言っても門や壁が経っているわけではない、商店街のアーケードめいたものの残骸が立っているだけだ。アーチには様々なものを組み合わせて『命の保証がない』と書いてある。


 ヘルメットを被り、ゴーグルも着ける。どんな汚染物質が存在するのか、どんな現象が起こるのか、まるで分かっていない。シティの重汚染地帯さえも上回るほどの危険地帯があると言われていたり、逆に失われた太古の自然が保持されている地域もあるという。ようするに何も分かっていないのだ。あまりにもハイリスク過ぎるがゆえに。


 スレイプニルMKⅢのスターターを蹴り、エンジンを始動させる。それにしても、これはどうやって動いているのだろうか? 一度だって給油を試みたことはないし、そもそも燃料を入れるようなものは見当たらない。さすがは古代テクノロジーと言ったところか。


 アウトラストに足を踏み入れた瞬間から、周囲の景色は一変した。イーストエンドを思わせる荒涼とした大地が広がっているが、ビルや兵器の残骸と言ったものは向こうにはなかった。時折襤褸布を纏った人が歩く以外は、生命を感じることは出来ない。


(古代大戦、か。

 世界をこんな風にする戦いってのは、いったいどういう……!)


 小高い丘に差し掛かったところで、僕はバイクを止めた。

 そこにあったものを見て、僕は思わず息を飲んだ。

 それは、大地に突き刺さった船だった。


 そうとしか形容出来ない。先端の尖った船がなぜか地面に突き刺さっているのだ。よく見ると、周囲には人の形をした巨大な金属塊や、車両と思しきものの残骸が転がっている。ここは、墓場。古代大戦で用いられ、打ち捨てられた兵器の墓場なのだ。


「これは……壮観だな。アウトラストに来なきゃ見られなかった」


 僕は思わずカメラを手に取り、その情景を写した。忘れないように。カメラを動かしていると、丘の下に何かが目に付いた。それは、破壊されたバギーだった。


「オォォォォーィ! 誰か、誰か助けてくれェーッ!

 お願いだよォォォォ!」


 拡声器でも使っているのか、と思うほど大きな声でバギーに乗っていた男は叫んだ。さて、どうするか。あからさまに怪しいが、しかし彼らはここで出会った最初の人間だ。アウトラストについて知っておきたい。僕はバイクを丘の下まで走らせた。


「どうしたんですか、あなたたち。何かあったんですか?」


 横転したバギーに縋りつくモヒカンの男がいた。筋骨隆々な肉体を誇示するように上半身は殆ど裸で、肩に着けたトゲトゲのパットとそれを括り付けるためのバンドだけが巻き付いていた。アウトラストの風俗というのは思いの外奇妙なものなのかもしれない。


 バギーの下では逆モヒカンの男が呻いていた。何らかの事情で横転し、助けが必要な状態になっているのだろうか? 僕はバイクを降り、彼らに近付いた。


「そのバギー……どかせないんですか?

 手伝った方がいいですか?」

「いや、いいんだ。

 お前がここまで近付いて来ただけで……十分だぜ!」


 その時だ! 廃棄車両、バギー、あるいは岩陰から男たちが飛び出す! そして、僕に向けて網を投げて来た。一瞬のことに反応することさえ出来ず、僕は押さえ込まれた!


「ヒャッハッハ!

 手前がここに来たと聞いて準備しておいて正解だったぜ!

 お人よしのザコ市民如きがよォ! マジで簡単だったぜ、ヒャッハッハッハ!」


 入り口にいた襤褸布の男か何かが、僕がここに来たことを知らせたのか。迂闊だったがこの程度の拘束ならば、エイジアに解けないはずはない。僕はキースフィアを掴んだ。


「おっと、おかしな動きをしようとしてるぜ! やっちまえ!」


 モヒカン男の指示を受け、小男がスイッチを押した。

 電流が網に流れる!


「グワーッ!?」

「ヘッヘッヘ、動くなよ。黒こげにしてやってもいいんだぜ?

 殺さねえのは慈悲さ」


 マズい、スフィアを装備する暇がない。このままではここで焼き殺されるか、あるいはこいつらに拘束されて惨たらしく死ぬかのどちらかだ。


「久しぶりのお客人だ!

 手前はプロセッサーのところまで連れて行くッ!」


 粉砕器(プロセッサー)? 機械の名前か、あるいは人の愛称か。いずれにしてもロクでもないことになるのは間違いない。脱出しなければならないが、しかしあの電撃が邪魔をする……! いったいどうすればいい、どうにかしてこの網を!


「GWWOOOOOOO!」


 その時だ! 鋼鉄の馬が嘶きを上げた! 振り向いたモヒカンたち、そして僕は、操縦者なしで動くバイクを見た! それは真っ直ぐ電撃攻撃者に向かって行く!


「なっ!? アバーッ!?」


 一切の減速なしに突っ込まれ、男はきりもみ回転しながら吹っ飛んだ! バイクの動きは止まらない、180度エッジターンを決めると同時に前輪を跳ね上げウィリー姿勢となり……そして車体が真っ二つに開いた! 変形は尚も止まらない!


「ッ……! 変身!」


 気を取られている暇はない。僕はキースフィアを挿入し変身、全身に赤熱機構を転移させた。光り輝く人型となった僕は脆弱な網を突き破り脱出した!


「なっ! そ、その姿はいったグワーッ!?」


 言い切る前にリーダーモヒカン男を殴りつけ昏倒させた。後ろから迫って来たスキンヘッド男を、変形したバイクが轢き吹き飛ばした。もはやバイクではなかったが。


 昔読んだ絵本に乗っていた『馬』という生物に似ていた。違いと言えば足が4本ではなく8本あるということ。それは頭のような部分を僕に向け、LED光を瞬かせた。まるで自分が敵でないとアピールしているかのようだった。


「早くここから逃げよう。

 こんなところにいたって、意味はない」


 僕はモヒカン男を馬の背に乗せ、ここから去ろうとした。その時、バギーが跳ね上げられた。スレイプニルMKⅢは後ろ足で蹴りを繰り出し、飛んで来たバギーを弾き飛ばす。


「ハッ! 寝転んで待っていたが、だらしねえことこの上なし!」


 逆モヒカン男は両腕を広げた。

 すると、彼の体が光り輝き、ロスペイルへと変身した。


 平たい顔と大きな鼻、蹄のような装飾を施した手足。背中には三つのこぶが付いており、胴よりも手足の方が長い。絵本で見たラクダに近い怪物へと変身した。


「ロスペイル……! やはり、ここにはオーバーシアの改造技術が……」

「改造技術? 俺があいつらに作り出されたものだと?

 このキャメル様が? ハッ、舐められたもんだぜ」


 キャメルは長い手で攻撃を仕掛けて来た。僕はブリッジでそれを回避、両足を跳ね上げ追撃を回避しつつ、スレイプニルの背に乗った。長居している暇はない!


「スレイプニル、逃げるぞ! あいつを振り切ってくれッ!」


 眼孔部が再び光り、スレイプニルは走り出した。

 それを見送るキャメルではない。


「逃がす分けねえだろうが! 手前もザコもプロセッサー送りだぜ!」


 キャメルの体が光に包まれ分解され、再構成された。逞しい上半身はそのままに、下半身はより長く、太くなった。ドラム缶の横合いから体が生えているような状態だ。こぶは新しく生まれた胴体の方に移動しており、胴からは更に4本の足が生えていた。高速疾走用の形態であることは容易に想像が出来たし、すぐそれが正解だと分かった。


 8本足の馬と4本足のキャメルが並走する。

 僕はその背で武器を作り出し、構えた!


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