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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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11-黒の決着

「イヤーッ!」「イヤーッ!」


 抜き放たれた8挺の銃。拳撃の加速を乗せて放たれた銃弾を、側転を打って回避。銃弾の初速を速めるローチの技は極めて精緻で、危険だ。高速弾の射程は確実に短くなるだろうが、衝撃力は倍増される。科学と力の合わせ技、といったところか。


 すぐに立ち上がり、踏み込む。ローチは真っ直ぐ突進を仕掛けると思ったようだが、僕の考えは違う。脚部にブースターを生成、踏み込みと同時に点火し、飛び上がった。銃弾が空を切り、僕はローチの懐まで飛び込んだ。


 右の銃底チョップを手刀で受け止め、腰を捻り右の3挺銃を回避。膝蹴りを繰り出して右側の銃を叩き壊した。ローチは左手でボディーブローを放ちながらトリガーを引く。至近距離で銃弾と打撃を受け、僕は吹き飛ばされた。追撃の銃弾をかろうじで避ける。


「やらせはせんぞ、エイジア!

 貴様も、あの男も、すべて殺す!」


 残った5挺の銃を撃ちながら、ローチはフリーになった手でポーチを探った。そこに入れられていたのは手榴弾。彼は僕の軌道を予測し、前後にそれを投げた。どちらかで僕を攻撃出来れば御の字、そうでなくとも足を止めたところを倒そうというのだろう。


 ならば、僕はそれを上回らなくてはならない。手榴弾の放たれた方に敢えて加速し、跳んだ。空中ボレーキックで手榴弾をローチの方に跳ね返す!


「小癪な真似を……! イヤーッ!」


 ローチは銃弾で手榴弾を迎撃。空中で爆発した手榴弾が破片と爆炎を辺りに撒き散らすが、至近距離でない限りダメージは受けない。僕はスラスターで軌道を制御し素早く着地。爆炎を掻い潜るようにスライディングを打ち、ローチの懐に潜り込む。


 ローチは多数の腕を持つため、立ち技では無敵を誇る。だが、足元に回れば通常のロスペイルと大差はない。仰向け姿勢のままで足を振り上げ、加速用と原則用のブースターを脚甲に生成。連続で蹴りを放った! 炎が足を押し上げ、そして戻す!


「ヌゥーッ! 小癪な真似を……してくれるわッ!」


 更に二挺の銃を失いながら、ローチはバック転で後退。追い掛けようとする僕の手前に吸着地雷を転がした。ピッタリと床に張り付いた地雷を熱弾で破壊、爆炎が再び二人を遮った。それが晴れる頃には、ローチの手に次なる武器が握られていた。


「たった一人で戦争でも起こすつもり……

 だったんだろうな。その装備ってことは、さ」


 ローチは無言のまま背負っていたマシンガンを抜き放った。重い弾丸が壁を抉る。回避軌道を取る僕目掛けて、ローチはいくつもの手榴弾を投げた。赤熱砲を生成し熱波を放ち、手榴弾を迎撃する。嵐のような攻撃を捌きつつ、僕は考えた。


 ローチと僕の差は何か? 身体能力、特殊能力、経験、技術、色々あるだろう。だが一番大きいのは、ローチの持つ捨て鉢な感覚が僕には存在しない、ということだ。セルゲイを殺すために、ローチは命のすべてを賭けている。ならば僕はどうするべきだ?


「人を守る。そのために、僕はこの命を賭ける……!」


 姿勢を低くして、僕は一直線にローチへと駆けた。背面装甲は限界まで削り、手甲を巨大化させ40口径の弾丸を弾く。投げ放たれた手榴弾、それが爆発するよりも速く駆け抜ける! 背中に破片が降り注ぐが、しかしそんなものに意識を割くことはしない!


 ローチの懐へと再度肉薄。マシンガンを持つ両腕を使うことは出来ず、ローチは残った6本の腕で僕に殴りかかる。だがそれよりも先に僕はローチに抱きついた。


「貴様ッ! 離れろッ! イヤーッ! イヤーッ!」「グワーッ!」


 猛烈な肘打ちを受け、止めとばかりに膝蹴りを打ち込まれ転がされた。


「何をしようとしたかは知らんが……無駄なこと! 貴様は俺をッ!」

「分からないか、ローチ? ならばこの戦いは、僕の勝ちだ!」


 僕は抜き取ったピンを投げ捨てた。ローチは目を剥き、己のベストを見た。懐のポーチに入れていた手榴弾、そのピンを僕は抜いたのだ。ローチは絶叫したが、遅い。


 一斉に手榴弾が爆発、衝撃を受けて彼が巻きつけていた爆薬が一斉に爆発! 僕は衝撃に煽られ、吹き飛ばされた。破片と炎が僕の体を舐め、装甲を破壊した。背中から硬い大理石の壁に叩きつけられ、息が詰まった。だが、これならば……


「……まあ、あの程度で死ぬんなら、ロスペイルなんてやってないよな」


 壮絶な爆発に巻き込まれながらも、ローチは生きていた。もちろん、瀕死だ。キチン質の外骨格はところどころが抉れ、特に腹部は酷い有り様だ。複腕も千切れ、黒い液体を辺りに撒き散らしている。


 それでも、ローチの闘志は、生への意志は少しも揺らがない。


 僕とローチは同時に踏み込み、同時に拳を繰り出した。先ほどまでなら僕の攻撃は弾かれ、複腕による手痛い反撃を喰らっていただろう。だがもはやそうはならない、突き込んだ拳がローチの肉を抉り、身の内へと辿り着いた。


「これで……終わりだ! ブースト・マキシマイズ!」


 ローチの内側で手甲が変形し、肉体を痛々しく抉る。赤熱機構が右腕に集中し、白い閃光さえも瞬かせながら燃えた。それは不浄のものを燃やし尽くす、浄化の炎。憤怒と妄執を焼き尽くし、情念に囚われ者を解き放つ解放の光!


「ぐっ……おおぉぉぉっ! ま、まだだ。

 まだ、私は、消えるわけには――」

「消えろ、ローチ。あんたのやろうとしていたことは……

 決して忘れないから」


 内側から焼き尽くされ、ローチロスペイルは爆発四散した。

 紙一重の勝利、それでも。


 それでも、僕のエゴは誰かを守ることが出来たのだ。

 いまはいい、それだけで。


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