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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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11-燃え滾る憎悪の炎

 セルゲイを抱えてポーターを潜り、僕たちは元いた私邸へと戻った。


「お疲れ様です、結城探偵……おや、お隣にいる方は、その」

「ええ、僕の同業者です。市長には内緒にしておいてくださいね?」


 いずれは彼らにも紹介しなければいけないだろうが、いまはまだ時期尚早だ。彼らにとっても、僕にとっても。セルゲイを彼らに引き渡し、ひと段落。


「これからセルゲイはどこに移送されるんでしょうか?」

「取り敢えず、市庁舎にある議員会館に送られる手筈になっています。

 市長軍本隊もいますから、そう簡単に入り込めはしないでしょう。

 セキュリティは万全です」


 だが万全のセキュリティを突破してくるのがロスペイルと言うものだ。


「恐らく、セルゲイは何も話さないと思います。

 どうするんですか?」

「結城先生にお任せすることになっています。

 彼が交渉役を買って出てくれましたから」


 父さんが来るのか。と、なると彼に危険が及ぶ危険性もある。

 ユキも呼んでおくか……


「それでは、ご協力に感謝します、結城探偵。何かありましたら……」

「ええ、ご協力させていただきます。ああ、そうだ。

 一つ頼みたいことがあるんです」

「頼みたいこと、ですか。出来る限りのことはさせていただきますが……」

「一つはセルゲイが移送される地点について教えていただきたい、ということ。

 場合によっては僕が現地に向かう許可もいただきたい。そしてもう一つ……」


 二つ目に関しては完全な賭けだったので、彼が了承してくれるかどうかは分からなかった。少しドキドキしたが、隊長はかなり興味深く僕の話を聞いてくれたようだ。


「なるほど……確かに、そのような能力が報告されています。

 それならば、やってみる価値はあるかもしれませんね。

 上の方に掛け合ってみます」

「お役に立てればいいんですが。それでは、失礼します、隊長さん」


 僕は隊長さんに頭を下げた。隊長さんも会釈し、護送バンに乗り込んだ。ローチが最後のアタックを仕掛けて来るのではないか、と警戒してはいたものの、何とかなったようだ。僕たちは去っていく光を見送り、自分たちが乗ってきたバイクに乗り込んだ。


「それじゃあ、行きましょうエリヤさん。

 かなり時間が掛かるかもしれませんけど」

「で、調べたいことっていうのはいったいなんなんだ?

 そろそろ教えてくれ」


 ここから先は完全な思い付きだ。実があるとは思えなかった。


「かつてセルゲイが始末した人間。

 それについて調べてみたいと思うんです」

「そんなものの記録が残っているとは思えんな。

 すべて消されているだろう」

「でも残っているかも知れません。

 膨大な情報のすべてを消し去れるはずはない。

 特に、電子データではない、紙面で残したデータなんかはね」


 光が闇を切り裂く。

 スレイプニルMKⅢは僕たちを乗せて加速した。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 彼はあの日のことを回想していた。

 己が死んだあの日のことを。


 実直な警官でいたつもりだった。ヤクザをぶちのめし、無辜の市民のために体を張って戦った。小さな感謝を得るのが嬉しくて、時々無理をした。相棒はずっと言っていた、『お前を見ているといつか死ぬんじゃないかと心配になる』、と。


 まさかその相棒に殺される羽目になるとは、夢にも思っていなかったのだが。


 きっかけになったのは、大規模な金の動く公共事業入札に関わる不正疑惑捜査だった。新参の建設会社社長、マリオ=パッセリーノが大きな仕事をかっさらっていく。更に、それに関わった人々が不審な死を遂げている。何らかの陰謀の臭いを嗅ぎつけて然るべきだ。だが、彼はその経緯に不自然なところがあるのを知ってしまった。


 どうしてピンポイントに土地を買うことが出来るのか。まるで予知しているかのようにパッセリーノの買収は的確なものだった。誰かが手引きをしていなければ有り得ない。


「すまない、相棒。

 だから言ったんだ、いつか死んじまうってな」


 相棒と彼のことを呼んだ男は、泣き笑いのような表情を浮かべながらトリガーを引いた。鉛玉が叩き込まれ、熱い液体が体から流れ出した。だんだん寒くなって行く。


(ああ、そうか。あいつが全部仕切っていたんだ。

 心配するふりをして、それで!)


 裏切られた。欺かれた。謀られた。

 彼の脳裏に様々な言葉が、感情が浮かび上がり。

 そして一際強いものに塗り潰された。

 それはすなわち――怒りである!


(死んでなるものか! 俺は、俺は復讐を遂げる!

 そのために――)


 彼はその時、ロスペイルとなった。

 人を殺すために化け物となったのだ。


「やあ、ドーモ。起きているかな?

 起きていると仮定して話を進めていいかな?」

「……起きている。そのふざけた態度を止めろ、貴様ッ」


 ローチは目を開き、少年を睨んだ。彼の名はジェイド、シティにその名を轟かせるテロリストにして、TCAセラフの装着者である。彼がなぜローチと共に?


 あの時、地下都市構造体の戦闘で彼はローチを助けた。爆発四散に混ぜたスモークカードが彼を覆い隠し、戦場からの離脱を可能とした。そして、ジェイドは彼を癒した。粉砕された胸部装甲と内臓が一気に修復され、彼は一命を取り留めたのだ。


「助けてもらったことには感謝しているぞ、テロリスト」

「まあ、俺もあんたに協力してほしいわけじゃない。

 暴れてほしいだけさ」


 ジェイドはへらへらと笑って答えた。その返答がローチには気に入らなかったが、背に腹は代えられない。突入作戦に際してはジェイドの力が必要不可欠だ。


「しかし、よくもまあ15年も恨みを保って来れたもんだね」

「最初の10年はここで過ごした。

 自我を取り戻すまで、俺は獣だったのだ」


 何者かによって地下都市構造体に押し込められた彼は、弱肉強食の戦いの中で己を鍛え、そして自我を再獲得した。通常、ロスペイルに脳を支配された人間が意志を取り戻すことはない。

 だが、彼に残った激しい憤怒の炎がその道理を覆したのだ。


 それから5年間を、彼は更なる力を付けることに、そして地上への道を見つけることに費やした。前者は獣型ロスペイル100体を相手にすることで鍛えた格闘術と8本腕を自在に操る器用さで手に入れ、地上へのルートはジェイドという協力者を見つけた。正直なところ、ローチはジェイドを信用していない。だがその力は信じている。


「んじゃ、作戦の決行は3日後ってことで。

 それまでに体を休めておきたまえ」

「お前は何のためにこんなことをするのだ、ジェイド?」


 それは、彼が決して口にしてこなかった疑問だった。

 ジェイドは真顔で振り返った。


「気になるのかい、ローチ?

 珍しいな、他人に興味を持つなんて、さ」

「少し気になっただけだ、他意はない。

 答えたくないなら答えなくても結構だ」

「いいや、答える、答えるさ。

 俺も人に話したことはないんだがね……」


 少しもったいぶったためを作ってから、ジェイドは答えた。


「俺は復讐したいんだよ。お前と一緒さ、ローチ。

 俺をこんな目に遭わせてくれやがった奴に復讐したい。

 そのために何をするべきか?

 あいつが作って来たものをすべてぶっ壊してやろう。

 俺はそう思った、だから出来るだけ……

 悲惨になるようにしているのさ」


 ニッ、とジェイドは笑って答え、部屋から出て行った。残されたローチは、その言葉の真意を考え、それが意味のないことだと悟り止めた。


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