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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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11-一対一対一の勝負

 姿勢を低くしたジグザグ走行を繰り返し放たれた50口径弾を回避、ゼブラに近付く。弾を撃ち尽くしたローチは早々に銃を投げ捨て、格闘戦へと移行した。ゼブラは僕が放った拳を回し受けで逸らし、続けて放たれたローチの飛び蹴りを逆手で受け止めた。


「軽い……!

 信ずるもののないものの軽い打撃など、私には通用せんぞ!」


 すれ違いざまに放った僕の裏拳は簡単に受け止められ、更に受け止めた腕を軸にゼブラは回転。僕の背中に回り、軽いチョップを放った。たたらを踏んだ僕に、ローチのストレートパンチが叩き込まれた。恐らくはゼブラを狙ったものだったのだろうが……


 パンチの勢いを利用し、連続バック転を打ち距離を取る。僕は周囲の状況を観察する。プレーン態のロスペイルも、虫ももういない。何らかの使用制限があるのか、もしくは虫を既に使い切ったのか。あるいは、適切なタイミングを見計らっているかだ。


 一方、ゼブラの攻めにも守りにも隙は見られない。元々ほとんど能力を持たない、自力勝負のロスペイルだ。鍛え上げた技もスゴイ。対ロスペイル用の護衛としてこれほどまで優れた者もそうはいないだろう。


「どうした? 確か私を殺すとか言っていたな。

 どうやってそれを成す?」


 嘲笑うようなゼブラの言葉。

 ローチは8本の腕を使った特殊な構えを取り答える。


「この命、我が魂のすべてをかけて。

 失われし誇りを取り戻す……!」


 凄まじき執念を持ってして、ローチはゼブラに猛攻を仕掛けた。ローチの8本腕に対して、ゼブラの腕は2本。だがゼブラは円弧を描く動きでローチの攻撃を捌き切った。


「腕の動きは上から順に、だ。

 単調過ぎてあくびの出て来る動きだぞ……!」


 捌きからの素早いチョップを繰り出し、ゼブラはローチの胸板に攻撃を喰らわせる。一撃一撃は軽い。しかしローチのタフネスを持ってしても無視出来ぬダメージが蓄積する!


 僕は手甲を分解し二刀を形成し、ゼブラに切りかかった。素手の攻撃ではゼブラの優位を覆すことが出来ない。ならば武器を用いるべきだ。だが、ゼブラの格闘術は対武器をも想定していた。刃の先端を的確に見切り叩き、衝撃力を十二分に刀身に伝える。梃子の原理めいて増幅された力が握りの力を上回り、刀が弾かれる。


 無防備を晒した僕の懐に、ゼブラは飛び込んで来た。ゼロ距離では刀を振るうことが出来ない。軸足で大地を踏み込み、腰を捻り、全身の回転エネルギーを加えて放たれたアッパー掌打が僕の顎に打ち込まれた。脳が揺らされ、意識が飛びかける。両足の感覚さえなくなったのかと思ったが、違った。僕の体が一撃で宙に浮かされたのだ。


「イヤーッ!」「グワーッ!」


 続けて放たれた肘打ちを喰らい、僕は再び吹き飛ばされた。


「軟弱な力……

 そして漁夫の利を狙おうという、その惰弱な精神ーッ!」


 背後からローチが迫る!

 それに対して、ゼブラは鋭いバックキックで対応!


「イヤーッ!」「グワーッ!」


 キチン質の腹部装甲が冗談のようにへこみ、内部に衝撃が伝播した。その一撃がローチの内臓をズタズタに切り裂いたのだろう、ローチは気色の悪い色の血を吐き出した。


「これで終わりだ!

 ロスペイルの力を手に入れて増長しただけの増上慢がァーッ!」


 ゼブラは卓越した脚力で地を蹴り加速、吹き飛ぶローチに止めの一撃を繰り出す!


 その時だ! 両脇の植え込みから4体のプレーン態のロスペイルが飛び出して来た。ゼブラはそれに気付き、流れるような連撃でロスペイルを一瞬で殺害した。しかし、狙いは攻撃にはない。ロスペイルはそれぞれ持っていた拳銃をローチに投げる!


「部下にリロードを任せていたというのか……!?」

「この距離ならば、貴様とて防ぎ切ることは出来まいーッ!」


 ローチは8挺の大口径拳銃を一斉に発射する! 銃身が焼け付き、全弾を一瞬で撃ち尽くすほど凄まじい連射! 爆発四散には至らなくとも、無視出来ぬダメージがゼブラにもたらされる! 特に、防御の範囲外となった左大腿部には痛々しい傷が刻まれる!


「我が恨み……晴らさでおくか……死してなおッ……!」


 バックジャンプで距離を取り、着地したゼブラはローチの執念に戦慄したように震える。4体のロスペイルが爆発四散し、その煙が晴れる頃にはローチが消えていた。ゼブラの放った全力の蹴りは、ローチであろうとも耐えられぬほどの威力だったのだ。


「ハァーッ……げに凄まじき、執念であったことよ。

 貴様はどうだ、エイジア?」


 左足を負傷しながらも、ゼブラの闘志は一切萎えていなかった。傷を庇いながらもあの構えを取る。僕も構えた。どこか遠くで何かが爆発し、衝撃がこちらまでやって来た。


 それが僕たちを煽ったのと同時に、僕たちは駆け出した。三連続で放ったジャブをゼブラは容易に回避し、肩口からぶつかって来る。半身になってそれをかわし、再び距離を取る。今度はゼブラの方から踏み込んで来た。コンパクトな掌打が何度も打ちこまれる。


 先ほどまでと比べて威力はない。ゼブラの掌打は足腰の回転から生み出されるエネルギーを掌に乗せ、相手に叩きつける技だ。空気を裂き、螺旋を描いているようにさえ見える攻撃は、彼の体調が万全であればこそ放てる攻撃だ。負傷したいま使える技ではない。


(負傷を差し引いても……やはり強い!

 補うだけの技を持っている!)


 ゼブラは決して一芸特化の業師ではない。

 たゆまぬ鍛錬を積み重ねて来た戦士だ。


 だからこそ、負けるわけにはいかない。一撃一撃を丁寧に捌きながら、僕はその瞬間を待った。焦れて一撃必殺を狙ってくるような相手ではない。足の負傷具合が分からないような間抜けではない。だが、決着を急ぐ必要はあるだろう。だからこそ……


「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」


 ゼブラは右の拳を外側に弾き、手首を返しチョップを打ち込む。放たれた左の拳を腕を立て受け止める。ゼブラは痛む左足に力を込め、力強く前蹴りを放った。これを待っていた!


 放たれた神速の蹴りを、素早く右手を戻し受け止める。そして左手を引き戻し、叩き込まれた足を抱える。ゼブラが目を剥いたのが見えた。全身全霊の力を籠め、足を折りたたむ。無理矢理体勢を変えられ、足を負傷したゼブラに、踏ん張ることなど出来なかった。


「見事だ」


 マウントを取った僕はゼブラの顔面に何度も拳を振り下ろし、粉砕。爆発四散させた。


 さすがは『十三階段』の一員、油断ならぬ強敵だった。万全の状態だったなら、僕もやられていただろう。立ち上がり、周囲を見渡してみるがローチの姿はない。爆発に常時でどこかに逃げたのか。だが、いったいどこに?


 考えるより先に動き出した。エリヤさんは先にセルゲイの方に向かっている。彼女ならば万が一の事態もないだろうが、それでも。僕は急ぎ先へと向かった。


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