11-真夜中の決闘
これは、いったい。考えている暇もなく、横合いからロスペイルが飛びかかって来た。打ち込まれたストレートパンチを寸でのところで回避し、背中からロスペイルにぶつかりに行く。攻撃を受けよろめいたロスペイルの腕を取り、力任せに投げ捨てる! 100kg近い体重を持つロスペイルに対して、生身で通用する攻撃はこれくらいだ。倒れ伏したロスペイルの頭をエリヤさんが踏み潰し、爆発四散せしめた。
「オイオイ、これはいったいどうなっているんだ?
いきなり襲われるとは……」
「どうやら、僕たちを襲って来たわけじゃないみたいです。
エリヤさん、こっちに」
僕たちは建物の影から様子を伺った。プレーン態のロスペイルが跋扈しているように見えるが、しかし実際のところそうではなかった。プレーン態のロスペイルが、オーバーシアの武装ロスペイルに襲い掛かっているのだ。僕たちはたまたま襲われたに過ぎない。
「ロスペイル同士の戦争か。
愉快な絵面だが、分からんな。どうしてこんなことに?」
考えてみたが、思いつく可能性は一つだけだ。
ローチが軍団を率いている。
「ローチは虫を操る能力を持っていました。
それを応用しているんじゃないでしょうか」
「なるほどな。高い知能を持たないという意味では、虫もロスペイルも同じ。
やり方さえ考えれば、お仲間を操作することだって出来る……っと!」
エリヤさんの腕が閃いた。そこには、すでに刀が握られていた。後方から奇襲を仕掛けて来たロスペイルが頭部を切断され、爆発四散した。
「さて、それじゃあさっさと行くとしよう。
虎之助くん。獲物を取られてはかなわん」
僕は頷き変身し、走り出した。もっとも戦火の激しい場所に向けて。重火器を内蔵したロスペイルが僕たちを狙ってくるが、横合いからプレーン態のロスペイルが邪魔をする。僕らはそのどちらも倒しながら突き進んで行った。辿り着いたのは公園だった。
驚くべきことに、100年前の公園はかつての姿を恐らくは保っていた。瑞々しい樹木、整然とした石畳、美麗なオブジェクト。こんな状況でなければ心安らいだだろう。もっと言うならば、虫たちが黒い列を成していなければ。
「ローチに率いられた虫だ!
あそこです、行きましょうエリヤさん!」
僕たちの眼前で、赤い炎が舞い上がった。武装ロスペイルの腕から放たれたものだ。対ローチ、あるいはビーハイヴのような、小型端末を操る敵の対策として開発されたものだろうか? 噴水を挟んで敵と対峙したローチは、忌々し気に舌打ちした。
「分かっているようだな。
俺がいったい何をしたいのか。俺がいったい何者なのかを……!
セルゲイ=グラーミン! エエッ、そうなんだろう!」
ローチは八本の腕で器用に拳銃を持ち、発砲した。50口径弾が奥にいたセルゲイを襲う。だがその前に銀黒まだらのロスペイルが立ち、回し受けですべての弾丸を弾いた。
「銃弾など俺たちには通用せんぞ。
それは分かっているな、ローチ」
ゼブラは低い声で呟き、あの構えを取った。
二者の間に緊張感が漂った。
「さて、どっちからやる?
私としてはあの馬野郎が気に入らんのだが」
一瞬の状況判断。
いまならどちらにもアンブッシュを仕掛けることが出来る、が。
「セルゲイの確保が優先です。
エリヤさん、あなたはセルゲイの方をお願いします。
僕はゼブラを押さえる。
そして、ローチが来るようならそっちも止めます」
それを聞いて、エリヤさんは眉根を寄せた。
「負担がキミに集中しているぞ、虎之助くん。
私をあまりナメないでもらおうか」
「舐めているつもりはありませんよ。
ただ、あなたにとって大事なのは二人じゃあない」
彼女は朝凪氏が死んだ理由を知りたがっている。ならば、他のものはすべて雑事だ。彼女が注力すべきことは、結局のところセルゲイただ一つだけなのだから。
「……ふん、そう言ってくれるなら好意に甘えよう。
押さえられるな、化け物どもを?」
「大丈夫です。
でもダメそうになったら泣きつくんで、準備しておいてください」
エリヤさんは苦笑し、駆け出した。ロスペイルがそれに反応し、銃口を向けた。僕は武装ロスペイルに向けて熱弾を放った。頭部や心臓部、股間などのクリティカル部位に熱弾を受け、ロスペイルは爆発四散した。突撃の勢いを殺さぬまま飛び蹴りを放つ!
「貴様は、エイジアか! なぜ貴様が地下都市構造体に!?」
ゼブラは僕の蹴りを腕で受け止めた。反動を使い後方に回転しつつ着地。着地と同時に細かい熱弾を放ちゼブラを牽制する。ゼブラは巧みなフットワークで全弾を回避し、セルゲイの方に向かったエリヤさんを追おうとした。だが、その横合いから銃弾が放たれる。
「ヌゥーッ! 邪魔だ、羽虫風情が!」
ゼブラは連続バック転で蛇の如く追いすがる銃弾を回避。軌道上にいた武装ロスペイルが大口径弾の連続直撃を受け爆発四散した。残った武装ロスペイルはセルゲイを守るために走り出し、ここに残ったのは僕とゼブラ、そしてローチだけになった。
「邪魔だ、貴様ら。
虫と下賤な探偵如きに、我が道を阻むことは出来んぞ」
「否、貴様を阻む。そして殺す。
貴様も、貴様の雇い主も、貴様の主もすべてだ!
俺は貴様らのすべてを滅ぼし尽くし、この世界から片鱗も残さず消し切ってやる!」
狂気の戦意によって戦うローチ、そして僕たちを歯牙にもかけないゼブラ。
そのどちらも、ここから先に進ませるわけにはいかない。僕は構えを取った。
「どちらもここでおしまいだ。お前たちはここで倒す……!」
誰が示し合わせたわけではない。
だが三者は同時に地を蹴り、戦闘へ移行した!




