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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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11-殺戮の宴

 シティを覆い尽くす闇。それはどこにあっても例外ではない。大型バイク『スレイプニルMkⅢ』のライトが闇を切り裂き、ハイウェイをひたすら東に突き進んで行く。


『位置情報から逆算するに、そこから5kmってとこや。

 周囲には監視カメラはないはずやけど、警戒しときぃ。

 そういう場合は人の目があると相場が決まっとる』

「ナビゲーションどーも、エイファ。通信はどこまで確保出来る?」

『外にいる間は大丈夫や。地下都市構造体に入ったら……分からんな。

 ジェイドの話やと、空間が隔絶しとるんやろう?

 せやったらこっちでいくら細工しても無駄やろ』


 つまり、中に入ったら自力で何とかする他ないというわけだ。クーはいま父さんのところに行っている、増援は期待できない。市長軍は確たる証拠がなければ動けない。


「今までにないくらいキツいシチュエーション、っていうことかな?」

「どうってことありませんよ。いままでなら仲間さえいなかったんだ」


 そうだ、いざという時は市長軍の力を借りることも出来る。それは僕にとって心強いことだ。いままで経験したこともない戦いに、自然と心臓が高鳴って来る。


 僕は視線を上げた。

 エリヤさんの長い髪が風に引かれてたなびいていた。


「……聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「答えられる限りのことは答えよう。

 何が知りたい、好みのタイプか?」

「聞きませんよ、そんなこと!

 僕が聞きたいのは、朝凪幸三氏の話ですッ!」


 茶化されそうになったので、慌てて軌道を修正した。

 エリヤさんは口を噤んだ。


「すみません、エイファさんからいろいろ聞いてしまったんです。

 だから、その気になって。

 あなたが朝凪氏に育てられたことは分かったけど、10年以上前ですし……」

「どれだけ時間が経ったって、育ての親は変わらん。そうだろう?」


 時間が経って親が変わってしまったら、その方が嫌だ。


「10年だ。確かに怒りや憎しみが減衰してしまいそうになる時は、ある。

 そういう時は爺さんの笑顔と言葉を思い出すことにしている。

 怒りが体に満ちて来るからな」

「……なんて言っていたんですか、朝凪さんは?」

「人を守り、人のために生きろ、さ。私はそれを実践している」


 僕は言葉に詰まった。

 エリヤさんは祖父との思い出を憎しみの炉にくべて戦っている。


(なあ、朝凪幸三。アンタは、こんな風になって欲しかったのか?

 あんたの娘は、あんたの遺志を継いで戦っている。

 アンタの言葉がこの人を縛っているんだぞ?)


 僕たちはそれから言葉を交わすこともなく、現場へと向かった。


 『パッセリーノ土地開発所有』『侵入禁止』『合法な』と書かれた看板がいくつも見えた。施設をぐるっとフェンスが取り囲んでおり、その上部には通電有刺鉄線が取り付けられている。入ろうとしたものをずたずたに引き裂くためのものだ。


「……虎之助くん、待ってくれ。

 何だか、様子がおかしいような気がする」


 それは僕も感じていた。護衛がいてしかるべきなのに、人の気配はまったくなかった。僕たちはフェンスに音もなく近付いて行く、監視カメラはないとあらかじめ分かっているので、最低限の警戒をしながら。だが、やがてそれが無駄だということが分かった。


「……頸椎をへし折られて、一撃で殺されているな。

 グラーミンの護衛か」


 エリヤさんが死体を見聞している間に、僕は周囲を探った。玄室を隠すために上物が置いてある。これだけでもかなり高価なものだが、地下都市に比べれば塵にも等しい。


「こいつらを殺して回るような奴に、心当たりはあるかな?」

「ええ、パッセリーノを殺した奴でしょう。市長軍を呼んできます」


 敷地内で殺人事件があったとなれば、踏み入る理由にはなるだろう。僕は市長から渡された端末で彼らに緊急事態を告げ、建物の中へと入っていった。


 不法侵入は簡単だった。僕たちの前に強引な侵入をした奴がいるのだから当たり前だ。白を基調とした品のいい壁紙、光を反射するフローリング材、掛けられた価値の分からない、しかし強い存在感を放つ絵画。そしてそれらを悉く彩る鮮血の赤。


「酷いな、これは。皆殺しって感じじゃないか。

 セルゲイについたのが彼らの不運か」


 彼らが持っているのは小口径の拳銃のみ、狭く死角の多い室内ではロスペイルに太刀打ち出来るはずはない。セルゲイはそんなことを知っていただろうに、彼らを配置した。生きた鳴子代わりに使っていたのだろうか? 怒りが湧き上がって来る。


 その中で、一際はっきりとした血痕が地下まで続いていた。戦闘音は聞こえないので、恐らく彼らは地下に逃れたのだろう。僕たちはその血痕を追い、建物の地下スペースに入った。地下室の扉は既に開け放たれており、その先には白の玄室があった。玄室の奥のスペースは不可解に揺らめいている、あの中に入っていったのだろうか?


「地下都市を脱出する時に使ったものとよく似ている。

 ポーターだったか?」

「覚えているんですか、エリヤさん?

 正直、あの時は必死だったからこっちはよく」

「覚えているさ、あれくらいはな。

 探偵にとっての必須スキルだ、いつでも冷静であれ」


 そう言ってエリヤさんは煙草に火をつけ、一口吸ってからポーターに投げ込んだ。煙草は地面に落ちることなく消えて行った。僕たちは顔を見合わせた。


「正直な話をします、エリヤさん。

 あの中に入るのはぞっとしない」

「ふっ、キミも恐怖を覚えることがあるんだな。

 だったら、私から先に行ってやろう」


 エリヤさんはボクが制止する暇もなく室内に入って行き、そしてポーターに身を躍らせた。ああ、まったく! ワケの分からないものに手を出すなんて! 冷静なんだかそうじゃないんだか分からない。

 大胆と言うにも何というか、ああ!


 僕もポーターに入った。

 ぞっとするような冷たさを感じた後、僕は別の場所にいた。


「地下都市構造体……再びここに来ることになるなんてね」

「しかし、あの広い地下都市でどうやってセルゲイを見つけるか……」


 僕たちは横開きの扉を開き、地下都市に足を踏み入れた。結論から言えば、どうやってセルゲイを探すのか、という問題はすぐに解決することになった。


 なぜなら、地下では派手な爆発を伴った戦闘が既に開始されていたからだ。


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