11-赤き戦士との共闘
砲弾の雨を掻い潜り、状況を判断。僕はビーハイヴと名乗ったロスペイルに狙いを定めた。何らかの精密な射撃を可能とする奴は、乱戦状況においては最大の脅威だ。
ジグザグ走行を繰り返し、ビーハイヴに飛びかかる。ビーハイヴの臀部には尻尾のような丸く大きな器官が付いており、それが震えた。かと思うと、白い軌跡を残してそれがこちらに向かって飛んで来た。僕は走行を取りやめ、飛来物を防いだ。
「これは……蜂? だが、生き物じゃないぞこれは……!」
エイジアの装甲に針を突きさし、蜂は消えた。
尻尾が震えるのを見て、僕は再びビーハイヴに飛びかかった。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
僕の連撃を、いともたやすくビーハイヴはいなす。
「私と戦うことを選ぶとは、お目が高い。
それはすぐ死ぬって意味でしてよ……!」
流れるような素早い動作で攻撃をいなしつつも、尻尾は震えた。そして再び蜂が飛んでくる。攻撃に注力していた僕は、それを避けられない。蜂の針がいくつも突き刺さり、装甲を抉る。僕の注意が逸れたタイミングを見計らい、ビーハイヴは攻勢に転じた。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
一本貫手と呼ばれる、中指一本だけを立てた特殊な拳撃。刺すような一撃を避けられずに喰らってしまう。打撃のインパクトが打点だけに集中するため、装甲を貫かんばかりの衝撃が僕を襲う!
思わずたたらを踏み、後退してしまう。
ビーハイヴの尻尾が激しく震え、先ほどよりも多くの蜂が生み出される。僕はそれを捌きながら後退、背後の戦場を見た。状況はそれほどよくない。クーもエリヤさんも、無防備なエイファさんとアリーシャを守るために防戦に徹さざるを得なくなっているからだ。
(クソ、数でこっちを圧倒してくるとは……
せめてユキがいれば……)
「イヤーッ!」「グワーッ!?」
突如として放たれた、蜂の針を思わせる鋭いジャンプキックを顔面に喰らい、僕の視界がぐらついた。その隙を突き、蜂の針が何本も突き刺さる!
(グウゥッ……!
一撃一撃はそれほど重くない、だけど手数が多すぎる……!)
全身にエネルギー噴射口を生成、まとわりつく蜂を焼き尽くす。だが、一瞬早くビーハイヴの本体は炎の射程圏内から逃れていた。新たな蜂が生成される。
(二人を安全なところまで移動させないと……! こういう時は……)
全身に赤熱機構を転移させ、作動させる。重力フィールドを解除し、ほとんどのエネルギーを拡散させる。放出された熱エネルギーは光へと変わった。
「ぬうッ……! これは、目くらましか! 小癪なことをッ……!」
僕は素早く反転し、モールに電熱剣による一撃を繰り出した。これは避けられるが、想定内。逆の手甲を分解し刀剣を成し、コンバット目掛けて投げた。
「エリヤさん、クー! 二人を安全なところに運んでやってくれ!」
「そんな、トラさん!? どうするんですか、そんなの!」
「言い合っている場合じゃない! 早く行け、二人を逃がすんだッ!」
こんな小手先の小細工、すぐに効果を失う。フラワーなどは既に体勢を立て直しつつあった。迷っている暇がないことは分かっていた。エリヤさんはエイファさんを抱え立ち上がり、走り出した。クーも一瞬の逡巡の後走り出す。追おうとした蜂を僕は打ち落とす。
「面白い、たった一人で俺たちを倒そうってのか!? ッハッハッハ!」
コンバットは生体砲門を僕に向けた。両手の手甲を分解し、長刀を形成する。放たれた砲弾を長刀で防ぎつつ、襲い来るモールの爪を脚甲で防ぐ。バックステップでタメを作り、跳躍。襲い掛かって来た白い茨を避ける。迫り来る蜂はすべて切り伏せた。
「こ奴、俺たちを倒す気などないな?
足止めが出来ればせいぜいと考えているか……バカにされたもんだぜ!
フラワー、あれをやる! あれを俺にくれッ!」
コンバットが騒ぎ出した。アレ?
フラワーも若干面倒そうなニュアンスで言った。
「4対1で負けるはずがない。
あれは負担が大きい、要らぬリスクを招くことに……」
「んなことを言ってたらよォーッ!
あのガキに逃げられちまう!
俺は嫌なんだよ、分かるだろう!?
教主に嫌な顔させたくねえんだよォ」
コンバットの恫喝しているのか嘆願しているのかよく分からない言葉に、フラワーは嘆息した。何かをしようとした、ところで耳元を押さえた。他の面々も同じような仕草をした。こいつら、いったい? 隙を見出すことも出来ず、僕は立ち尽くした。
「……突破された?
バカな、市長軍の戦力でロスペイルを突破出来るはずは……」
そう言えば、市街の至る所で銃声が聞こえて来る気がする。僕たちを襲うためだけに、これだけ大規模な作戦を展開しているというのだろうか?
「……敵方の、ロスペイル。
まさかな、あいつが出てくることになるとは……!」
ザッ、と足音がした。僕たちは一斉にそちらを剥き、それを見た。
赤い戦士を。
「随分と、舐め腐ったことをしてくれてンじゃねえか。エエ?」
確かな怒気を秘め、赤いロスペイル――クラブロスペイルだったか――が歩いてくる。彼はビーハイヴの方を見ると、徐々に歩調を速め、そして走り出した。
ビーハイヴは蜂の軍団を向ける。針が赤い戦士の装甲に突き刺さり、そして爆発した。爆風に飲み込まれ、蜂の軍団が引き剥がされて行く。赤い戦士は失踪し、ビーハイヴに飛び膝蹴りを繰り出した。それを両手で受け止めるが、しかし膂力では赤い戦士が勝る!
「ビーハイヴ!
クソ、そんな……やらせてたまっかよォーッ!」
だったらやらせてもらう。注意の逸れた一瞬を見計らい、僕はコンバットに掌を向けた。全赤熱機構を右手に収束、電熱砲を放った。一瞬早くコンバットはそれに反応し、事務所だった場所から飛び降りた。だがビーハイヴを援護することは出来なくなった。
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!?」
爆発する拳が何度もビーハイヴの顔面に叩き込まれた。抵抗は徐々に弱まって行き、やがてビーハイヴはすべての力を失った。そこに止めの一撃を赤い戦士は繰り出した。頭部を完全に粉砕され、ビーハイヴロスペイルは爆発四散した。
「オッ……俺たちの、仲間を!
手前、なんてことしてくれやがるんだ!」
コンバットは泣き声とも聞こえるものを発した。
赤い戦士は静かに言う。
「手前の仲間とやらを、この世から完全に消し去ってやるのが……
俺のお仕事なンでね」
赤い戦士は僕を一瞥した。僕はそれに頷き応えた。
僕たちは同時に跳んだ。




