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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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11-十三階段の襲撃

 僕たちは事務所に戻った。次なるターゲットの当たりを付けることは出来たが、しかし単独でセルゲイに接触することは出来ない。相手は大物だ、真正面から言っても追い返されるのがオチだし、セキュリティもこれまでとは比べ物にならないほど強固なものだ。


「いままでも随分な目に遭って来たと思うが……

 今回は格別やなぁ。あのセルゲイかい」


 エイファさんも頭を掻いた。彼女でもセルゲイ邸のセキュリティを突破するのは容易なことではないだろう。それに、先に調べておくべきことはたくさんある。


「まずはセルゲイの背後関係を調べてみましょう。

 何か分かるかもしれない」

「えー、でも表の有名人なんですよね? 叩いて埃、出ますかねぇ?」


 クーがアリーシャとのオセロ対決をしながら言った。

 見るとアリーシャ優勢のようだ。


「表の有名人だからこそ、おかしなところがあるんだよ。

 16期連続当選など、常人に出来ることではない。

 出る杭は打たれるのがシティの常だからな、必ず追い落とされる」


 シティ市議会議員になった人間の末路は、大きく分けて二つだ。ある程度の知名度とキャリアを稼いだところで辞め、事業を興すタイプ。もしくは権力の座にしがみつき、スキャンダルによって追い落とされるタイプ。セルゲイは例外の一人だ。


「シティ最大の権力者だからな。

 腐敗の温床になり、それから逃れるのは容易ではない。

 清流も汚濁に飲まれれば、鈍色に染まるってことだ……」


 セルゲイが汚染を逃れているか、あるいは汚れを隠す手段を持っているのか。恐らくだが後者だと僕は思っている。記事で確認した彼の人相は悪人のそれだった。もちろん、顔で相手を判断してはいけないということは痛いほどよく知っているが。


「ヌワァーッ! 負けたぁーっ!」

「クー、あなたとやっててもつまんないですの!

 ユキを出すですの!」


 クーが盤をひっくり返しながら叫び、アリーシャが憤慨する。

 楽しそうだなぁ、おい。


 その時、アリーシャは弾かれたように立ち上がった。その視線が何を見ているのか、僕には分からなかった。虚空を眺めているようでもあったからだ。


 彼女の視線の先にあった扉が、勢いよく開かれた。

 その先にいたのは異常巨体の男。


「神の巫女……! 奪われたものを、奪い返す……!」


 男は指先で首からかけていたシンボルを弾いた。

 十字眼のシンボルを。


「お前、まさかオーバーシアの……!」


 どうしてこんな奴が、全身で信者だと主張しているような奴が放置されてきた? そう考えるよりも先に、男の体が光に包まれた。鋼鉄の鎧を纏ったロスペイルへと変わった男は、腕から伸びたいくつもの銃砲を僕たちに向ける!


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 朝凪探偵事務所があった階層から火の手が上がった。人々は悲鳴を上げ逃げ惑う。その中に一人、逃げない者がいた。30℃近い気温の中、その女は分厚いダスターコートを纏い、醜い裂傷の刻まれた目で惨劇を虚無的に眺めていた。


「マインドシーカー。

 この辺りからの人払いは、済んでいるんだな?」

『もちろんだ。

 面倒なことよ、市長軍さえいなければこうする必要もないというのに』


 女は脳内で会話を行った。

 会話の相手はマインドシーカーロスペイル、相手の脳波に、無意識に干渉する能力者だ。彼は通行人の『ここから逃れたい』という意識を後押しし、道行く人々の『近付きたくない』という思いを想起した。もちろん、ロスペイル相手には通用しないし、相反する強い感情を持った相手にも効き辛い能力だ。


 それを応用した広域通信能力も持っており、オーバーシアではそちらの方が重宝されている。彼らはテクノロジーを忌避しないが、しかし尊重されるのは個々の能力。特に生体ジャミング装置にして生体通信機たるマインドシーカーの能力は作戦行動に不可欠とされている。戦闘能力を持たない彼が『十三階段』の一員として認められているのはこの力があるからだ。


『コンバット、フラワー、モール、ビーハイヴ。

 残存『十三階段』を投入した任務だ、失敗は許されんぞ。

 朝凪の連中を皆殺しにして、巫女を確実に回収しろ』

「言われなくても分かっている。大丈夫、今回に限って言えばな……」


 衝撃で割れたガラスから何かが飛び出してくる。

 あれしきのことで死ぬとは、フラワーは思っていなかった。白い茨を槍めいた勢いで打ち出し、飛び出して来た影を狙った。硬質の茨は、しかし打ち払われ、切り払われ、誰一人として傷つけることはなかった。


「お前は……! 確か、祭りの時にいた奴か!」


 クルリと空中で一回転し、エイジアが着地した。続けて刀を持った女性とそれに担がれた女、そして栗色の髪の毛の少女と、巫女。巫女は気を失っているようだ。


「我々はオーバーシア。

 天意に背く逆賊を排除し、この地を平定する」

「クソ喰らえだ。貴様らの如きカルトが天を騙るなど、片腹痛し。

 ここで死ね」


 刀を持った女、朝凪エリヤが着地と同時にエイファを放し、フラワーに切りかかる。思いの外鋭く、そして素早い一撃をフラワーは避けられない。しかし、足元からそれを妨害するものがあった。硬いアスファルトを粉砕し、凶刃がエリヤに迫る!


 一瞬早く攻撃を察知したエリヤは、上体を逸らし地中からの襲撃を防ごうとした。だが、かわし切れずに爪の先端を喰らい、胸元に赤い筋を刻むこととなった。アスファルトから飛び出して来た影は空中でクルクルと回転しながら爪を振るい、反射的に放たれたエイジアの熱弾とエイファの銃撃を受け止めた。


「カッカッカ! ストライクとは行かんか!

 だが次こそはその美しい顔を切り取ってくれようぞ!

 ドーモ、私の名はモールロスペイル! 『十三階段』の一人だ!」


 エイジアは反撃を行おうとしたが、踏み止まる。横合いから放たれた攻撃をかろうじでガードし、そちらを見る。黄と黒のまだら色で体を染め上げたロスペイルがそこにいた。


「私の名はビーハイヴ。お前たちを『ハチの巣』にしてくれようぞ」

「そして! 俺様が! コンバットだッ!」


 崩壊した事務所から顔を出したコンバットロスペイル。

 全身の砲門を開きながら言う。


「お前たちを殺し、ここを更地にし、俺は教主から有り難い説教をいただく!」


 全身の生体砲門が爆音を上げる。

 質量弾が彼らに降り注いだ!


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