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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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10-バカ騒ぎの終焉

 屋上から追い落とされたジェイドが空中で一回転し、空に向けて光線を放った。追いかけて来た御桜さんの体を逸れは貫いたが、御桜さんは意にも介さない。振り下ろされた両手の爪を槍の穂先と柄で受け止め、それを軸に更に回転。御桜さんの腹を蹴った。



「オイオイ、ちゃんと止めておいてくれよ虎之助くん。

 こっちは一人で精一杯……」


 空中で360度回転して着地したジェイドは、僕たちの方を見て口笛を吹いた。


「フラワーまで出て来やがったか。『十三階段』揃い踏みだな、オイ」


 御桜さんが身を翻しビルの壁面を蹴ったのと同時に、ジェイドも跳んだ。直後、ゼブラが急降下ストンピングを仕掛けて来たからだ。抉れたアスファルトの散弾が倒れた人々を襲った。飛びかかって来た御桜さんを、ゼブラは反動跳躍でかわした。


「やれやれ、面倒なことになって来たな」


 ゼブラと御桜さんを、ジャッジメントの電撃が襲った。悲鳴が上がる。


「ジェイド、エイジア、そしてアストラ」


 フラワーは無感動な口調で言った。彼女のガントレットが解け、細剣のような形になった。白い剣を駆使し、両側から攻撃を仕掛けた僕たちをいなし、捌き、弾き飛ばした。さすがは『十三階段』の一員、倒れた人を避けるため不自由な移動を強いられているとはいえ、油断ならぬ強敵だ。


「ARRRRRGU!」


 御桜さんは咆哮を上げながら立ち上がり、落ちてくるジャッジメントの体を掴んだ。巨躯から生み出されるパワー、そして電撃に耐え切るタフネスを前に、さしものジャッジメントも敵わなかったようだ。彼女はジャッジメントの肩を持ち、それぞれ逆方向に引っ張った。絶えず電撃を流すが、無駄だった。ジャッジメントの体が真っ二つに裂けた。


「オイオイ、勘弁してくれよ。

 二枚も使った力作だったんだぜ?」


 ゼブラが御桜さんの無防備な腹部に何発もの拳撃を繰り出した。巨体が揺らぐが、しかし倒れることはない。御桜さんは腕を振り払いゼブラを跳ね除ける。ジェイドは二人に向けて無差別な射撃を行う。助けに入りたいが、しかし。


「私の力が通用しない相手とは、面倒でやり合いたくないのだがね」


 細剣で僕の拳を受け止めたフラワーは、その細い見た目からは想像も出来ぬほどの膂力で僕を弾き返しながら言った。確かに、人々を一斉に昏倒させた力を彼女は使わない。あるいは、使っているのかもしれない。だが、エイジアの力はそれを無力化する。


(と、なるとやはり毒ガスとかそう言う類の力なのか?

 だとしたら……!)


 フラワーは対ロスペイル、対人に対しては絶対的な力を持っているが、僕たちのような装着者にとっては無力な存在ということになる。ならばその優位を生かす。危険な力を持ったロスペイルは絶対にここで殺してみせる!


 なぎ払われた細剣を屈んでかわし、すぐに放たれた手首を返しての振り下ろしを手甲で受け止める。前蹴りを打ち込み、前屈みになったフラワーに踵落としを打ち込む。フラワーは信じられないほどの力で無理矢理体勢を引き戻し、踵落としを回避。しかし剣撃をすり抜け放たれたユキのアームブレードを喰らい、後ろに弾かれた。


「兄さん、あっちをお願い! ここは僕が……」

「ユキ、お前いったいそれは!」


 問いかけたが、しかし答えが帰って来る前に僕は駆け出した。いまはユキを詰問している時間はない。早々に御桜さんを止め、ロスペイルをすべて倒さなければ!


「たった一人で私を止めようなどと……

 ならば見せてやろう。私の力を……!」


 背後で激しい剣戟の音が聞こえて来た。

 僕は横合いからゼブラに跳びかかる。


「イヤーッ!」「イヤーッ!」


 飛び蹴りをゼブラは手刀で逸らし、着地した僕の延髄を狙い回し蹴りを放った。着地と同時にバック宙を打ち、スレスレのところで蹴りを回避。ゼブラは追撃を行おうとしたが、光線によって阻まれた。御桜さんが怒りに満ちた表情で腕を振り上げ、ゼブラを押し潰そうとした。それを察知したゼブラは、側転を打って振り下ろされた一撃を避けた。


「御桜さん、しっかりして下さい! 自分の意識を保って!」


 僕は彼女に呼びかけた。だが、憎悪に染まった彼女は決して止まらない。ゼブラの拳も、ジェイドの交戦も彼女を止めることは出来なかった。抉られた肉体がどんどん復元されて行く。傷が癒えて行くごとに、彼女は凶暴性を増しているように思えた。


 彼女は鋭い爪の生えた右手を弓のように引き絞り、放った。上体を逸らし攻撃を避けつつ、彼女にサイドキックを繰り出した。厚い胸板によって蹴りは弾かれる。振り払われる逆の腕を側転で避け、距離を取る。奇しくも僕とゼブラで挟み込むような形になった。


「硬くて、強い。生半可なロスペイルじゃないね。

 これで目覚めたてってのが恐ろしい」


 僕とゼブラは同時に踏み込んだ。彼女は腕を振り回し、僕たちを近付けまいとした。だが、粗雑な攻撃を避けることなどそう難しいことではなかった。ゼブラはチョップを打ち下ろし攻撃を逸らし、僕はスライディングで彼女の懐まで入り込んだ。


 御桜さんは僕を踏み潰そうと足を振り上げた。僕は両腕でブレーキをかけ停止し、下半身を持ち上げ踏みつけを回避。ネックスプリングの要領で胴体に両足で蹴りを繰り出した。更に、手甲を分解し脚甲を成し、ブースターで加速。加速と重量を加えた一撃を受けて、さしもの御桜さんも上体をぐらりと揺らした。


 そこにゼブラが連打を加えた。蛇めいて複雑な軌道を取り、拳はガードを掻い潜り彼女の体を抉った。衝撃に体を揺らされ、血反吐を吐きながらも、彼女はゼブラに向かって反撃の拳を繰り出した。ゼブラはバックステップでそれを回避し、そして。


「いまだ、デッドマーク!」


 光があり、御桜さんの胸が撃ち抜かれ、少し遅れて爆音が鳴り響いた。デッドマークが放った大型ライフルによる一撃だ。体勢を崩した御桜さん目掛けて、ゼブラが必殺の一撃を繰り出そうとした。だが、僕たちもこのタイミングを待っていたのだ。


「見えたぜ、デッドマーク。

 そこにいるってな……!」


 ジェイドはバックルに挿入した金属カードを、もう一度押した。バックルが光り輝き、同期するように槍の穂先も光を放った。それを視界の端にあったビルの屋上に向けた。


 槍の先端から、太い光線が放たれた。放たれた光線は一直線に屋上に向かって進んで行き、ビルを飲み込んだ。光が晴れた時、そこには抉り取られ、円形の穴を開けたビルがあった。デッドマークロスペイルは爆発四散することさえ出来なかっただろう。


「なんと!?

 このタイミングを探すために、お前たちはいままで……!」


 僕は御桜さんの体を飛び越えた。切り揉み回転しながら装甲を再度分解し、武器を作り出した。それは200cmを越えるほど長い刀だった。振り下ろされた刀を、ギリギリのところでゼブラは回避した。だが、避けきれず右目と胸、そして足に裂傷が刻まれた。


「ヌゥーッ……! やりおる!

 だが、まだだ。まだ負けてはいない……!」


 ゼブラは闘志を萎えさせずに僕を睨んだ。その後方ではアストラが、ユキが倒れ込んでいる。まさか、負けたのか? フラワーは茨の先端をユキの背に向けた。


(引きなさい、お前たち。

 これ以上の戦いは非常に危険です)


 その時、僕たちの耳に聞いたことのない声が聞こえて来た。

 耳を押さえても聞こえる。


「バカな、マインドシーカー!

 彼女を確保するまであと一歩なのだぞ! それを……」

(市長軍が近付いて来ている。

 これ以上は彼らとの交戦を余儀なくされるぞ)

「市長軍、何するものぞ!

 あの程度の輩、私の手で殺し尽くしてくれる!」

(ならばそのお言葉、教主に直接伝えるといい。

 私からの伝言は、以上だ)


 念話とでも言うべき不可思議な現象は終わりを迎えた。フラワーは唐突に剣を引き路地に引っ込み、ゼブラは一瞬の逡巡の後構えを解いた。


「此度は私の負けだ……だが、二度目はない。

 次に会う時が貴様らの最後と心得よ!」


 そう言うとゼブラの体が光に包まれた。エイジアのそれと同じ、分解再構成プロセスだろう。彼の下半身が変形し、四本足の太い胴体を持ったものへと変わった。彼はいままでとは比べ物にならないスピードで道路を掛け、壁面を昇り消えて行った。


 僕は御桜さんに向き直った。胴体に空いた穴が塞がろうとしていた。凄まじい生命力。御桜さんは血走った目で僕を見て、そして地を蹴った。


「! 待ってください、御桜さん! 話を、話を聞いて下さい!」


 サイレンの音が近付いてくる。

 僕は地を蹴り、彼女を追った。


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