03-真犯人を探せ
学校で僕がロスペイルに遭遇したと聞き、野木さんは驚いていた。
「まさか調査に向かった学校で偶然ロスペイルと遭遇するとは。
運がいいのか悪いのか」
「悪いのかもしれません。
事件はまったく解決していないのですから」
学校で女子高生を殺したのは、あのロスペイルではない。傷の状態が違い過ぎる、あれでは死体さえも残らないだろう。何より、事件の証言にも不自然な点が目立つ。
現場は当時施錠されていた。
しかし、それならどうやって警備員は更衣室に入ったのか?
更衣室は内部から施錠すれば、外側から開けることは出来ない。バールか何かでこじ開けることは出来るだろうが、そうすれば破壊痕が残る。そんなものはなかった。
また、入室直後は電灯がついていなかったそうだ。
それならどうして事件発生を知ることが出来る?
扉には窓が付いておらず、唯一の窓は2mは上にある。外から状況を伺うことは不可能だ。なぜそのようなことが起こったのだろうか?
「誰かが嘘をついている。そういうことなんでしょうか?」
「恐らくはそうだろう。
そして、それを感知したからこそここに依頼が来た。
警察でなく、上流の興信所ではなく、この探偵事務所に。
我々でしか出来ないことがある」
我々にしか出来ないこと。
しがらみにとらわれず、犯人を追い掛けること。
しかし、僕たちに犯人を捕まえることなど出来るのだろうか? 犯人を突き止めたとして、僕たちは彼らを刑に処すことが出来るのだろうか? 疑問は絶えない、だがやるしかない。
「ひとまず今日はここまでにします。
エイファさんの手も借りないと……」
「いい手だ。
彼女なら学園のサーバーにアクセスし、情報を手に入れられるだろう」
僕は野木さんに頭を下げ、隣の部屋に入った。僕は家から出て来て、この場所を与えられた。野木さんに、朝凪さんの恩に報いたい。それが出来るのならば……
翌日も僕はマルドゥクに訪れた。
今日は一人だ、クーデリアの世話はエイファさんに任せてある。
彼女自身、クーデリアのことが気になっていたようだ。
僕は学校の警備室に向けて歩いた。凄惨な殺人事件があったというのに、校内ではごく普通の日常が送られていた。まるで、人死にがなかったかのようだった。
「お疲れ様です、警備員さん」
「ああ、探偵さん。お疲れ様です、今日も中に入るんですか?」
守衛控室に、僕が探している人はいた。首を横に振り、中に入れてくれと頼んだ。彼は首を傾げながらも、僕を招き入れてくれた。校内と比べて、内装や設備は一段劣る。
「今日はどのようなご用件で?
お話しできるようなことは何もないと思いますが……」
警備員さんはおろおろと視線を泳がせた。
僕は黙って携帯端末を取り出す。
そこに映し出されていたのは、不鮮明な監視カメラの映像だ。時刻表示は1時11分、彼は言わなくてもどこの映像か分かるだろう。目を見開くのが見えた。
「言わなくてもお分かりだと思いますが、これは北棟の監視カメラです。
位置的に事件があった更衣室も見える。
あなたが警備を行っているところも、ちゃんと見えます」
通路の奥の方から、いま目の前にいる警備員が出て来た。彼は一つ一つ扉を開けない部を確認。そして、件の扉を開いた。そして、尻もちをつき震えた。
「事件当夜は鍵がかかっていたそうですね?
でも、あなたは何の抵抗もなく扉を開いている。
つまり、あなたは偽証を行っていたんだ。何故ですか?」
「こんなもの、どこで。いや、関係ありません。
お答えする立場にはありませんよ」
犯人からの口止めがされているのだろう。
彼は立ち上がり、頭を振った。
「本当のことを話していただきたい。
扉は施錠されておらず、誰でも入れて逃げられた。
不可能性も、不可解性もありはしない。
単なる校内で起こった殺人事件に集約される。
それなのに、どうしてあなたは真相を隠すんですか?」
「出鱈目を言わないでくれ!
私は何も知らない、私はッ……」
「もしこの映像が出回れば……
あなたは殺人犯として逮捕されるでしょう」
警備員さんはまたビクリと身を震わせた。
たまらないだろう、それは。
「でもそれは有り得ない。あなたは速やかに警察に通報した。
実況見分の結果、被害者の死後硬直はかなり進んでいた。
当日の巡回で、あなたがあの場所を回ったのは一度だけ。
それ以前にこの場を訪れてはいない。あなたに殺害は不可能です」
僕は立ち上がり、警備員さんの前に立った。
そして、その目を真っ直ぐ見た。
「でも、無理筋でもあなたに罪をなすり付けるかもしれない。
そう言う相手なんでしょう、あなたを脅しているのは?
だからこうして口を噤んでいる」
彼は言葉に詰まり、何かを言い返そうとした。
だが、それは出来なかった。
「私なんか簡単に消されてしまう。私が黙っていなかったら!」
「ありがとうございます。それが聞けて良かった。
それじゃあ、失礼します」
僕は頭を下げ、来館者章を貰い出て行った。
犯人は彼をあっさり消すことが出来る。それはすなわち……
権力者であるか、その子弟であるということだ。




