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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第三章:闇の中より覗く瞳
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10-新たなる戦士、アストラ

 突進するゼブラを跳び膝蹴りでインターラプト、後退する敵の前に立った。


「ここから先は一歩だって進ませない。

 あんたたちは、ここで排除する」

「貴様はエイジアか。

 ジャッジメントを殺した強者……一度戦ってみたいと思っていた」


 ゼブラは構えを取り、僕を睨んだ。一瞬背後を見る、ジェイドは彼女を止めようとしている。ならば、僕のやるべきことはこいつを全力で止め、倒すことだ。


「さぁて、キミ相手に半端なことはやってられん。

 最初から全力で行ってみようか!」


 ジェイドは二枚のカードを取り出し、同時にスキャンした。特徴的な機械音声が発せられる、『JUDGEMENT』と。電光が瞬き、ロスペイルが召喚された。


 そして、その光が僕とゼブラの開戦の合図となった。僕の放った拳を、ゼブラは手首を返しながら受け流した。そして素早く袈裟掛けのチョップを打ち下ろして来る。逆手でそれを受け止めるが、ゼブラは素早い逆の掌打を打ち込んで来る。左足を軸にして回転、直線的で危険な打撃をかわし反撃。ゼブラは右足を引き反転、それをかわす。


(ジャッジメントに匹敵する格闘技、と言うのはウソではないらしい。

 というか、電光がない分を腕でカバーしている……こいつは、強いぞ)


 その時、バタバタと言うやかましいローター音を聞いた。空を見ると、両腕を天に向けた奇怪なロスペイルがいた。両手首からは巨大なローターが生えており、それを巧みに操り飛行している。僕が見た改造ロスペイルの中でも、一際奇怪だった。


「さて、それでは俺はこの辺りで失礼させてもらうぞ。

 乱戦は好みではないのだ」

「行け、デッドマーク! 行って俺たちの役に立つのだ!」


 デッドマークと呼ばれたロスペイルは上空で旋回するローターロスペイルの足を掴んだ。ローターは彼を乗せて遠ざかり、デッドマークは腰だめ姿勢で巨大な銃を構えた。右こめかみについていたガジェットが作動、モノクルのような形になり、彼の前に照準器を出現させた。


 狙いをつけている、避けたいがゼブラの連打が僕の足を止める。


 DOOM! 工事現場の発破音めいた爆音と衝撃が周囲を揺らす。僕の側頭部を狙って放たれた弾丸を、僕はかろうじで手甲で受け止めた。しかし、砲弾とも呼べるほど巨大な弾丸を受け切ることは出来なかった。手甲が醜くへこみ、体勢が崩れる。


 そこにゼブラは、捻りを加えながら掌打を繰り出す! 軌道上の大気が渦巻く様な錯覚すらも覚えるほど凄まじい打撃、僕は直撃を喰らってしまう!


「イヤーッ!」「グワーッ!」


 僕の両足が地面から浮き上がり、吹き飛ばされフェンスに突き刺さった。衝撃を分散してなお、基礎部分に亀裂が入った。直接打ち込まれた僕は一瞬前後不覚に陥る。


「イヤーッ!」「グワーッ!?」


 そこに、強烈な後ろ回し蹴りが叩き込まれた。スパイク蹄鉄によって装甲が抉り取られ、衝撃に耐え切れなくなったフェンスが基礎ごと破壊された。吹き飛ばされた僕は対岸にあった商業ビルの壁に叩きつけられ、重力に引かれて地面に落下した。


(っそ……! 強すぎる!

 体さえ万全なら、もっとやりようはあったのに……!)


 全身が引き攣るような感覚があった。血を失い過ぎて気分が悪い。だが、痛む体を気にしている暇なんてない。危険なロスペイルがいまも上にいるのだから。


「何だこいつ?」「コスプレ?」「爆発してましたよ」「コワイ」


 祭りに参加していた人々が僕のことを遠巻きに見る。一刻も早くここから逃げなければ。彼らが巻き込まれるようなことがあってはならない。


「アゴアァーッ!?」


 その時、絶叫を上げ人が倒れた。一人、二人ではない。何人もの人が痙攣しながら倒れた。僕は困惑し、周囲を見渡した。まさか、毒ガスでも撒かれているのか?


「やはりお前には通用しないようだな。厄介な相手だ、貴様は」


 路地裏から声が聞こえた。

 僕がそちらを見ると、白い甲冑を纏った女性的な外見の怪物がいた。両肩には花弁を模したような飾りが付いており、手足には絡みつく茨のような形をした装甲があった。新たな敵、僕は構えを取った。


「お前も『十三階段』か……!?」

「フラワーロスペイル。いまは、そう名乗らせてもらっている」


 ゼブラは降りて来ない。ジェイドと御桜さんを相手に戦っているのだろうか? こんなところで足止めをされている場合ではない、さっさとこいつを倒さなければ!


「先輩! 先輩、どこに行ったんですか! 先輩!」


 極限まで張り詰めた緊張の中に、飛び込んでくる影があり。それは僕にとって、見慣れたものだった。フラワーはごく不快そうに視線を向けた。反射的に僕は飛び出した。


「ユキ、伏せるんだーッ!」


 飛び込んできたユキを庇い、フラワーに背を向けた。彼女の背から何本もの白い茨が伸び、襲い掛かって来た。僕は背を何度も打たれた。痛みに意識が途切れそうになる。


「……兄さん!? どうしてこんな……えっ!?

 こ、これはいったい……」

「いいから、ユキ! 早く逃げるんだ! ここは、危険だッ……!?」


 白い茨が僕の首絡み付いた。引き剥がそうとする腕にも巻き付き、締めあげる。四肢を拘束され、僕は呻いた。こいつ、僕をこのまま締め落とすつもりか? もしくは、その力で八つ裂きにしようと? そのどちらも正しいのだろう。


「兄さん……! 待っていて、いま助けるから!」


 その先は僕の想像を遥かに超えていた。ユキは袖をまくり上げた。

 すると、腕に巻き付く奇妙な電子機器があった。ユキはテンキーでコードを入力、『WAKE UP』の電子音声。懐からキーカードを取り出し、カードリーダーに通した。


「変身!」


 ユキの体が光に包まれた。


 光に?

 いったい何が起こっている?


 ユキの体を、深い緑色の装甲が包み込んだ。エイジアやセラフのものとは違って生物的な外骨格に見えた。体表に刻まれた、血管の如き赤く複雑なエネルギーラインがその印象を強めていた。複眼めいた赤い瞳が輝くと同時に、ユキの姿が僕の眼前から消えた。一瞬にして背後に回り込み、腕から生えたブレードで巻き付く茨を切断した。


「お前は……!?」


 フラワーも狼狽していた。

 ユキは腕のブレードを向け、言った。


「アストラ」


 頭上で悲鳴が上がり、何かが落ちて来た。

 僕たちは同時にフラワーに向かい駆けた。


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