10-新たなる戦士、アストラ
突進するゼブラを跳び膝蹴りでインターラプト、後退する敵の前に立った。
「ここから先は一歩だって進ませない。
あんたたちは、ここで排除する」
「貴様はエイジアか。
ジャッジメントを殺した強者……一度戦ってみたいと思っていた」
ゼブラは構えを取り、僕を睨んだ。一瞬背後を見る、ジェイドは彼女を止めようとしている。ならば、僕のやるべきことはこいつを全力で止め、倒すことだ。
「さぁて、キミ相手に半端なことはやってられん。
最初から全力で行ってみようか!」
ジェイドは二枚のカードを取り出し、同時にスキャンした。特徴的な機械音声が発せられる、『JUDGEMENT』と。電光が瞬き、ロスペイルが召喚された。
そして、その光が僕とゼブラの開戦の合図となった。僕の放った拳を、ゼブラは手首を返しながら受け流した。そして素早く袈裟掛けのチョップを打ち下ろして来る。逆手でそれを受け止めるが、ゼブラは素早い逆の掌打を打ち込んで来る。左足を軸にして回転、直線的で危険な打撃をかわし反撃。ゼブラは右足を引き反転、それをかわす。
(ジャッジメントに匹敵する格闘技、と言うのはウソではないらしい。
というか、電光がない分を腕でカバーしている……こいつは、強いぞ)
その時、バタバタと言うやかましいローター音を聞いた。空を見ると、両腕を天に向けた奇怪なロスペイルがいた。両手首からは巨大なローターが生えており、それを巧みに操り飛行している。僕が見た改造ロスペイルの中でも、一際奇怪だった。
「さて、それでは俺はこの辺りで失礼させてもらうぞ。
乱戦は好みではないのだ」
「行け、デッドマーク! 行って俺たちの役に立つのだ!」
デッドマークと呼ばれたロスペイルは上空で旋回するローターロスペイルの足を掴んだ。ローターは彼を乗せて遠ざかり、デッドマークは腰だめ姿勢で巨大な銃を構えた。右こめかみについていたガジェットが作動、モノクルのような形になり、彼の前に照準器を出現させた。
狙いをつけている、避けたいがゼブラの連打が僕の足を止める。
DOOM! 工事現場の発破音めいた爆音と衝撃が周囲を揺らす。僕の側頭部を狙って放たれた弾丸を、僕はかろうじで手甲で受け止めた。しかし、砲弾とも呼べるほど巨大な弾丸を受け切ることは出来なかった。手甲が醜くへこみ、体勢が崩れる。
そこにゼブラは、捻りを加えながら掌打を繰り出す! 軌道上の大気が渦巻く様な錯覚すらも覚えるほど凄まじい打撃、僕は直撃を喰らってしまう!
「イヤーッ!」「グワーッ!」
僕の両足が地面から浮き上がり、吹き飛ばされフェンスに突き刺さった。衝撃を分散してなお、基礎部分に亀裂が入った。直接打ち込まれた僕は一瞬前後不覚に陥る。
「イヤーッ!」「グワーッ!?」
そこに、強烈な後ろ回し蹴りが叩き込まれた。スパイク蹄鉄によって装甲が抉り取られ、衝撃に耐え切れなくなったフェンスが基礎ごと破壊された。吹き飛ばされた僕は対岸にあった商業ビルの壁に叩きつけられ、重力に引かれて地面に落下した。
(っそ……! 強すぎる!
体さえ万全なら、もっとやりようはあったのに……!)
全身が引き攣るような感覚があった。血を失い過ぎて気分が悪い。だが、痛む体を気にしている暇なんてない。危険なロスペイルがいまも上にいるのだから。
「何だこいつ?」「コスプレ?」「爆発してましたよ」「コワイ」
祭りに参加していた人々が僕のことを遠巻きに見る。一刻も早くここから逃げなければ。彼らが巻き込まれるようなことがあってはならない。
「アゴアァーッ!?」
その時、絶叫を上げ人が倒れた。一人、二人ではない。何人もの人が痙攣しながら倒れた。僕は困惑し、周囲を見渡した。まさか、毒ガスでも撒かれているのか?
「やはりお前には通用しないようだな。厄介な相手だ、貴様は」
路地裏から声が聞こえた。
僕がそちらを見ると、白い甲冑を纏った女性的な外見の怪物がいた。両肩には花弁を模したような飾りが付いており、手足には絡みつく茨のような形をした装甲があった。新たな敵、僕は構えを取った。
「お前も『十三階段』か……!?」
「フラワーロスペイル。いまは、そう名乗らせてもらっている」
ゼブラは降りて来ない。ジェイドと御桜さんを相手に戦っているのだろうか? こんなところで足止めをされている場合ではない、さっさとこいつを倒さなければ!
「先輩! 先輩、どこに行ったんですか! 先輩!」
極限まで張り詰めた緊張の中に、飛び込んでくる影があり。それは僕にとって、見慣れたものだった。フラワーはごく不快そうに視線を向けた。反射的に僕は飛び出した。
「ユキ、伏せるんだーッ!」
飛び込んできたユキを庇い、フラワーに背を向けた。彼女の背から何本もの白い茨が伸び、襲い掛かって来た。僕は背を何度も打たれた。痛みに意識が途切れそうになる。
「……兄さん!? どうしてこんな……えっ!?
こ、これはいったい……」
「いいから、ユキ! 早く逃げるんだ! ここは、危険だッ……!?」
白い茨が僕の首絡み付いた。引き剥がそうとする腕にも巻き付き、締めあげる。四肢を拘束され、僕は呻いた。こいつ、僕をこのまま締め落とすつもりか? もしくは、その力で八つ裂きにしようと? そのどちらも正しいのだろう。
「兄さん……! 待っていて、いま助けるから!」
その先は僕の想像を遥かに超えていた。ユキは袖をまくり上げた。
すると、腕に巻き付く奇妙な電子機器があった。ユキはテンキーでコードを入力、『WAKE UP』の電子音声。懐からキーカードを取り出し、カードリーダーに通した。
「変身!」
ユキの体が光に包まれた。
光に?
いったい何が起こっている?
ユキの体を、深い緑色の装甲が包み込んだ。エイジアやセラフのものとは違って生物的な外骨格に見えた。体表に刻まれた、血管の如き赤く複雑なエネルギーラインがその印象を強めていた。複眼めいた赤い瞳が輝くと同時に、ユキの姿が僕の眼前から消えた。一瞬にして背後に回り込み、腕から生えたブレードで巻き付く茨を切断した。
「お前は……!?」
フラワーも狼狽していた。
ユキは腕のブレードを向け、言った。
「アストラ」
頭上で悲鳴が上がり、何かが落ちて来た。
僕たちは同時にフラワーに向かい駆けた。




