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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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09-真実は炎の中に

 CRASH!

 強化ガラスはあっさりと割れ、僕は実験室へと飛び込んだ。


「なんだ、こいつは!

 いや、その姿。報告にあった殺し屋か!」


 作業員たちはホルスターに納めていた45口径拳銃を抜き、一斉に放った。マンストッピングパワーに優れる45ACP弾だが、エイジアのルナメタル装甲を貫通するには不足だ。僕は銃弾の嵐を無視して突き進み、管理者と思しき男に跳びかかった。


「クソ、来るなクソ野郎め!」


 どっちがだ。頭部に打ち込まれた弾丸を籠手で弾き、逆の手で男の喉元を掴んだ。地面に押し倒し意識を揺らし、そして持ち上げる。作業員たちの銃撃が止んだ。


「動くな! 動けばこいつの命はない……

 武器を置いて大人しくしろ!」


 作業員たちは顔を見合わせた。

 だが銃は下ろさない、油断はまだ出来ない。


「ここでいったい何をしていた?

 ロスペイルを作り出そうとしていたのか?」

「コソコソ嗅ぎまわる犬にここを突き止められてしまうとはな。

 まったく、ツキのないものだ」

「質問に答えろ!

 オニキスたちと繋がって、お前たちは何をしようとしている!

 人間をロスペイルに変えることが目的じゃないはずだ!

 何をしようとしている!?」


 僕の言葉に答えず、彼らは耳元に手を当てしきりに頷いている。何かがおかしい。僕の困惑をよそに、彼らは銃を向けた。トリガーに手を掛けているのが分かった。


「ハッハッハッハ! バンザイ!」


 僕は男を反対側に突き飛ばし、跳んだ。だが間に合わず、彼の太い血管を銃弾が貫いた。血煙の中で男がダンスを踊る! 銃弾の雨が僕を襲う!


「仲間ごと……!?」


 ここにいるのはマズい、一旦脱出しなければ。僕は手術台の影に隠れ周囲を見渡す。その時、部屋の隔壁が一斉に落ちた。そして警報が鳴り響く。


『重点警戒地区に侵入者あり。

 全隔壁を閉鎖、焼却を開始します』


 何だって? 考えている暇はなかった。

 ダクトから炎が漏れ出して来たのだ。赤々とした炎がシリンダー溶液を、手術台に置かれた犠牲者を、そして作業員たちを焼いた! 地獄が顕現したが、しかし彼らは恐怖を表に出すことさえなかった。


「何なんだ、こいつら!

 自分たちまで死ぬんだぞ、それなのに……!」


 地上で僕に襲って来た男のような、洗脳装置が組み込まれているのだろうか? ならば彼らは死ぬまで同じことを繰り返すだろう。僕が脱出しなければ、彼らは死ぬ。


 スウッ、と息を吐く。覚悟は決まった。一番手近にあった扉目掛けて、力任せに蹴りを繰り出した。足形のクレーターが出来上がるが、しかし一撃での粉砕は不可能。僕は脚部装甲を集中させ、もう一度蹴った。背中から降り注ぐ弾丸が僕の体を苛んだ。装甲なしに弾丸を完全に防ぐことなど出来ない。だが隔壁の破壊には成功、僕は穴に飛び込んだ。


「こっちだ……来るなら来い!

 全員相手してやるよ!」


 僕は装甲を元に戻し走り出した。

 作業員たちも僕に続いてくる。


 さっきから端末にコールを送っているが、一向に返事がない。これほど近くにいるはずなのに繋がらないのはおかしい、もしかしたら二人とも本当に……


 そう思ったところで、受信を告げる音が鳴った。

 僕は端末を見る、ショートメールでクーからの連絡があった。『妨害装置を破壊。中央管制塔に向かう』とだけ書いている。僕からメッセージを送る、『管制塔に何がある?』。すぐに返事が返って来た、『施設管理者在中。障害在り、足止めを願う』。これはクーの言葉ではないだろう。


 障害とはいったい何かとコールを送る僕の前に、二人の男が現れた。二人ともスキンヘッドで、頭には手術痕がある。彼らの体が光に包まれ、変身した。ロスペイルと化した彼らは腕に装着したマシンガンを向け、発砲して来た。狭い空間を埋め尽くす弾丸を、壁を蹴っての三次元機動でかわす。しかし、数発は避けきれずに貰ってしまう。


「アッ……クソ!」


 流れ弾が持っていた携帯端末にぶつかり、破壊! 地面に落ちたそれを回収している暇はない。僕は壁を蹴り真正面からロスペイルに向けて飛び込んで行く!


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 トルニクス産業廃棄物処理場、中央管制塔。

 

『焼却炉に可燃性物質が混入! キヲツケテネ!』

 『作業所への被害は軽微。ガンバロ!』


 欺瞞的な合成音声が『安全』を告げる。

 作業員たちは不安を感じながらも業務を続行していた。


「チクショー!

 やってられるか、こんなことやってられるか!」


 そんな中、管理者であるルーク=トルニクスはキーボードを叩き社の全データにDELコマンドを掛けようとしていた。施設のありとあらゆる情報は炎の中に消えるだろう、だがそれでは足りぬ!

 ネットワーク上に残った情報もすべてを消し、彼は不透明な資金の流れといかがわしい交流に関する一切合切を消し去ろうとしているのだ!


「命なんて賭けてやれるか、あのクソどもめ!

 これで全部終わりだァーッ!」


 ルークは必死になってキーボードを叩く! しかしディスプレイは無情にエラーを告げた! 作業を継続させようとするが、強制的にネットワークを切断される! ルークは発狂したかのごとくキーボードを叩き、ディスプレイを叩き割り、銃弾を叩き込んだ。


「脱出だ! こんなところにいられるか!

 俺はこんなところで死ぬ男ではない!」


 ルークは趣味の悪い絵画の裏に隠していた隠し金庫のダイヤルを操作する! これはありとあらゆるネットワークから隔絶された、彼しか知らぬ場所! 彼は都市行政府を、そして『組織』を誤魔化し、大変な私腹を肥やしていたのだ!


 彼は現金をかき集め、換金しやすい金製品をバッグに詰め、屋上へ向かおうとした。屋上には個人用のプレーンが用意されており、脱出の手助けをしてくれるのだ!


 しかしそう上手くは行かない!

 屋上へと続くドアが勢いよく開かれる!


「エッ!」

「おっと、やっぱり逃げようとしていましたね!

 そうはいきませんよ!」


 ルークは狂乱し、ほとんど狙いを付けずにクーデリアに発砲した。彼女は迫り来る弾丸を摘み取り、投げ捨てた。動揺したルークは拳銃がクリック音を立てるのに気付かない!

 彼女はツカツカと近寄り、その横っ面を殴りつけた。


「ゴメンナサイ、助けて下さい。こんなところで死にたくないんです!」


 ルークは滑らかな動作で土下座した。

 背後の入り口からエリヤが入って来る。


「自爆装置を止めろ。貴様に止められないはずはない」

「ち、違うんです。上物は確かに私のものです。ですが、地下は違うんです」


 二人は鼻根を寄せた。

 その時、爆発があった。考えている暇はない。


「ともかくここから脱出するぞ。

 脱出手段くらいは用意しているんだろう?」

「は、はい。屋上にエアプレーンがあります。

 さ、三人くらいなら大丈夫です」


 よし、と言って立ち上がった時、窓ガラスが勢いよく割れた! 悲鳴を上げるルークに向かって、黒い液体が迫る! その間にクーデリアが立ち、盾でそれを受け止めた。


「チィーッ! だが貴様らの運命は変わらん。

 ここで死ぬのだ!」


 トキシックロスペイル、クルエルはニヤリと笑って言った。シールドの表面から煙が上がり、溶けだした。不可思議な金属で形作られた盾をもこの怪物はものともしない。


「どうやらこいつに生き残られると、余程都合が悪いみたいだな」

「故に殺す。貴様らも皆殺しだ。

 貴様らは絞首台に自ら昇ったのだ、覚悟しろ――」


 クルエルの敏感な聴覚が風切り音を、そして壁を蹴る音を聞いた。クルエルはノールックで左掌をガラスの外に向け、汚濁の奔流を放った! 軌道上にいるのは虎之助!


 吐き出される汚染液を、虎之助はスラスターを作動させ回避。ブースターを作動させ飛行速度を元に戻し、クルエルに向かって槍めいた蹴りを放った。クルエルはブリッジ姿勢でそれを回避、通り過ぎて行く虎之助を追撃せずに距離を取った。


「貴様は……その姿、まさか!」

「どうやら、僕のことはそれなりに知られてしまっているようだな」


 虎之助は向き直り、構えを取った。

 目の前の怪物を殺すための型を。


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