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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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09-再びイーストへ

「トラさんの弟さんなのに、真面目な方なんですねえ。

 こんなのよく読める……」

「こら、クー。まるで僕が真面目じゃないような言い方は止めてくれ」


 クーの言葉にユキは苦笑する。そう言う控えめなんじゃなくて、ちゃんと反論して欲しかった。反論することが出来ない、ということなのかもしれないが。


「でも、ユキも弁護士を目指すのか」

「うん。父さんの仕事を手伝いたいんだ。

 何だか最近、とても大変そうだからさ」


 ユキが図書館から持ってきたのは参考書に六法、判例集と言った極めて堅苦しいものだ。僕など一文字見ただけでダウンするだろう。不真面目のそしりを受けても仕方ない。


「それがいい、きっと父さんも喜んでくれる。

 僕より出来はいいんだからさ」

「もう、そんなこと言って。

 兄さんだって頑張っているって、父さんから聞いてるよ?」


 ユキはまた苦笑した。僕が頑張っていると言っても、それは体を張ることしか出来ないからだ。ユキのようにちゃんと頭を動かすことが出来る人間が、僕は羨ましい。


 そんなことを考えていると、アリーシャが呻いた。

 その手にはユキが借りて来た六法がある。

 プルプルと震えて、憤慨した。


「キー、なんですのこれは!

 まったく面白くないですわーッ!」

「いや、そりゃそうだろ。

 法律の専門書なんだから、面白いわけがないぞ」

「そんなことないよ、兄さん。

 これでも読み進めていくと面白い物なんだよ?」


 そんなことを言われても、僕にはユキの気持ちが理解出来そうもなかった。


「こんな退屈なものしかないんですの!? むー、きー!」


 アリーシャは可愛く癇癪を起こした。と、思う反面僕には懸念があった。地下でのことだ、あのベヒモスを退けた一撃。あれを放ったのは、アリーシャなのではないだろうか?


 この場であの力を発動させたら、今度は人間がああなるのでは?

 僕は青くなった。


 しかし、癇癪を起すアリーシャの頭をユキが優しく撫でた。アリーシャはビクリと身を震わせるが、それを振り払うことはなかった。ユキは微笑み、彼女に語り掛けた。


「そっか、面白くない本だったんだ。

 アリーシャ、キミはどんな本が好きなんだい?」

「えっと……色がいっぱいあって、動物がいて……それにお花も!」


 アリーシャはたどたどしく自分が昔読んでいた本のことを僕たちに語り始めた。特に注意して聞かなくても、それが絵本であることが分かった。ユキは微笑み頷いた。


「そう、素敵な本を読んだことがあるんだね。

 それじゃあ、探してみようか?」

「探す……それって、ここからってことですの?」

「そうだよ。ここにはたくさんの本がある。

 キミの大好きなものも、きっとあるはずさ」


 ユキは彼女を連れて行こうとした。僕もそれに続いて行く、勉強に来たユキを邪魔したのではちょっと心が痛む。だが、そうしているだけの時間はなかった。


「こんなところにいたのか、少し探したぞ。

 それより虎之助、収穫だ」

「えっ。でも、エリヤさんちょっと待ってください。

 アリーシャちゃんが……」

「この子のことは僕に任せておいてよ、兄さん。

 大丈夫、こういうのは得意なんだ」


 確かにユキは昔から子供にモテるが、しかし話はそう言う次元にはない。アリーシャは危険な能力を持っている可能性があり、そして何らかの秘密組織から狙われている。一介の学生であるユキにとっては、荷が勝ちすぎる。どうするべきか……


「なに、治安のいいノースで大っぴらに誘拐なんぞをするバカはいないだろう。

 それよりこっちは緊急だ、思ったよりも厄介なことになっている。

 すぐに対処しなければ」


 僕は後ろ髪引かれる思いだった。

 クーがユキに近付いて行き、何かを手渡す。


「何かあったら、これでこの子を守ってあげてください。

 大丈夫ですよ!」


 クーのサムズアップに、ユキは微笑み頷いた。

 そして彼女が戻って来る。


「クー、ユキに何を渡したの? 防犯グッズとか?」

「そう言う感じです! これでユキくんは大丈夫ですよ!」


 自信満々に言うクーに、少しだけ不安になって来る。


「迷っている暇はないぞ、虎之助くん。敵は予想以上に狡猾で、強大だ。

 このままでは都市全域にロスペイルが蔓延る日も遠くないだろう。

 止めなければならない」

「都市全域に? 思っていた以上に大事になったみたいですね……」


 僕はユキの方を向き、アリーシャを頼むという意志を込めて頷いた。


「分かりました、行きましょう。

 それじゃあな、ユキ、アリーシャちゃん」

「うん、分かった。気をつけてね、兄さんも、クーさんたちも」


 僕たちは図書館から出た。

 足早に事務所へと向かって行く。


「いったいどういうことですか。

 ノア邸でいったい何を見つけたんですか?」

「犠牲者のリストだ。

 エイファに頼んで確認してもらっているが、恐らくは私の予想通りだろう。

 彼らは自分たちの従業員を使って……」


 と言ったところで、エイファさんから通信が入って来た。


『お疲れのトコ悪いけど、結果が出たでエリヤ。

 アンタの予想通り、このリストに乗っとるのはすべて行方不明者や。

 坑道の採掘、警備作業その他諸々。

 ノアとオニキス、それから何名かの会社で働いとった連中や。

 予想通り、あいつらはクロってことやな』

「さすがはエイファ、仕事が早い。

 彼らがどこに連れて行かれたかは分かるか?」


『結構面倒やったけど、こっちですでに特定は済ませてあるわ。

 関連企業のトラックが定期的に向かっているところがある。

 そこはそれらの企業が関わっていないところなんや。

 人気もないんで、目に付くこともない。

 発覚しなかったのも当たり前やな』

「では、すぐにそちらに向かう。地図データをくれ」


 『あいよ』と短い返答があり、そして僕たちの携帯端末に件の住所が送られてきた。イーストエリア、産業廃棄物処理場。ノアはともかくオニキスとは縁のなさそうな場所だ。


「廃材から使えるものを探し出す……

 くらいならまだ、大人しいと言えるんだがな」

「これまでのことを考えて、健全なことをしているとは思えない。

 行きましょう」


 一度事務所に戻りバイクを回収し、僕たちは現場へと向かった。


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