表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
50/149

08-強大なる敵、ベヒモス

 いきなり何を言い出すんだ、こいつは。

 外に出ろ? 子供を連れて?


「どうして僕がそんなことを……

 っていうか、あんたが連れて行けばいいだろう?」

「これでも追われる身だし、犯罪者なんでね。

 この子の教育によくないんだ、俺はね。

 それを言うとキミは免状持ちの私立探偵だし、家族は金持ちだ。

 この子のためになるし、キミの方が俺よりも追われにくい。

 まあ、頼まれちゃくれないかね? 虎之助くん?」


 僕はカプセルの中から出て来た少女を見た。

 規則正しい呼吸、取り敢えず生きてはいるようだ。だが、こんな環境で長く生きていくことは出来ないだろう。そして、ジェイドにはこの子を助ける気など欠片も無いようだ。僕はため息を吐いて、頷いた。


「分かったよ、仕方がない。この子は僕が預かる。

 それでいいんだろう?」

「グッド、契約成立だ。

 では、キミを出口へと案内しよう……」


 その時、足音がした。僕たちは慌てて振り返った。

 そこにいたのは、怪物だった。


 全身を鱗で覆った、トカゲのような生命体。だが、身体特徴は明らかに異なる。ねじくれた角、盛り上がった筋肉、肉体の強さを誇示するような六つ割れの腹筋(シックスパック)。背中からは薄く黒い翼が生えており、口元からは鋭利な牙が露出している。その姿を見て、僕はカートゥーンに登場する悪魔の姿を連想した。


「ベヒモスか。

 参ったな、こんな奴に目を付けられることになるとは……!」


 ベヒモスはレスラーめいた構えを取った。

 両腕を軽く曲げ前に突き出し、腰を落とした前傾姿勢。両足で踏ん張っているので生半可な衝撃は効かず、パンチやキックは懐の深さが防ぐ。戦い慣れている、立ち姿を見ただけでもそれが分かった。


「虎之助くん、合図とともに右から抜けろ。

 振り返らずに行くんだ、いいね?」


 僕は子供を抱えて頷いた。

 貫頭衣にはネームが入っている、『アリーシャ』と。


 ジェイドは4枚のカードをロード。『PLAIN』の後に『MIRROR』が3回続いた。プレーン態のロスペイルが生成され、その姿がセラフのものに変わった。そして、中空から僕とセラフの姿も生じる! セラフが展開した鏡の力だ!


 僕は駆け出した。ベヒモスと呼ばれたロスペイルは鉤爪を振るい僕を狙う。首筋に一撃を喰らうが、しかし砕ける。鏡像だ。それに構わずベヒモスは爪を振るう、振るう、振るう! 四つの胸像が砕け、プレーンロスペイルが青い光に還元される!


 そして、僕たちはその影からベヒモスに飛びかかった!


 狭い室内と入り口、ベヒモスを振り切ることは不可能だ。だから僕たちは蹴り抜けることにした。ダブルキックを喰らったベヒモスはさすがによろめき、その隙を突いて僕たちは両脇を抜けた。素早く入り口に飛び込み、外を目指す!


「一瞬だって止まるなよ、虎之助くん!

 死にたいってんなら話は別だけどな!」


 走る僕の視界が赤く染まった。

 振り向くと、僕たちが出て来た扉から赤々とした炎が吐き出されていた。火炎はもっとも単純なエネルギーの放出パターン、この力を使うロスペイルは多い。だが、桁違いの出力に僕は戦慄した。


「あいつはいったい何なんだ!

 お前、あいつのことを知っているんだろ!」

「ああ、よく知っているよ!

 だが普段はこんなところにはいないんだ、まさか目を付けられるとはね!

 驚きだ! アリーシャ嬢は彼らにとっても大事なものらしい!」


 背後から焙られながらも、ジェイドは笑った。

 こいついったい何を考えている!?


「何がおかしいんだよ、ジェイド!

 ちょっとでもミスをしたら、死ぬんだぞ!」

「分かっているさ虎之助くん! だが愉快でね!

 俺の嫌がらせが効いてるってのが!」


 ワケが分からない。直線の通路を駆け抜け、曲がり角に飛び込み、それを何度か繰り返して僕たちは地上に出た。その直後、入り口から煌々と炎が立ち上った。


「何か使えるものはないのか!?

 あいつの足止めが出来るようなものが、何か!」

「悪いがこっちはタネ切れだ。

 短時間に使えるのは6枚が限度、疲れるんだよ」


 使用制限がある能力、ということか。

 少なくともジェイドはもう役に立たない。


「それより早く逃げるぞ、虎之助くん!

 この程度、まだ序の口だからさ!」

「序の口!? あんな化け物みたいな炎が序の口だって?

 面白いことを言う!」


 僕たちは走った。ビルとビルの隙間に入り、呼吸を整える。


「確かに凄まじい力だけど、力を合わせればどうにかならないことはない。

 違うか?」

「違うね。まだキミはベヒモスの力をすべて見ていない。

 だからそんなことが言える」


 恐ろしい咆哮が聞こえて来た。ベヒモスのものだ。僕は物陰から様子を伺った。ベヒモスは周囲を見回し、時折怒りをぶつけるように壁やアスファルトを殴っている。


「相手はこちらを見失った。いまのうちに動こう、ジェイド。

 出口はあるんだろう?」

「もちろんさ。そしてそれなら好都合、こっちに来い。

 逃がしてやるからさ……」


 僕たちはそこから動こうとした。

 ところで、低い声が聞こえて来た。


「まだるっこしい……鬼ごっこはもうたくさんだ。

 終わりにさせてもらうぞ……」


 それは、人語だった。

 間違いない、あいつも人の心を持ったロスペイル……!


 だが、真に驚くべきはそこではなかった。メキメキと言う不穏な音が聞こえて来た。僕は物陰からそれを見て、息を飲んだ。ベヒモスの体が、段々と変形しているのだ。


 変形、否、そんな生やさしいものではない。筋繊維が肥大化し、骨格が変化していく。それに呼応するように、周囲のアスファルトがひび割れ、風花していった。ベヒモスの体が大きくなっていくたびに、周囲の物体が萎んで行っているのだ。不可思議な光景。


「ベヒモスは周囲の物体を取り込み、再構成する能力を持つ。

 どういうことって?」


 言われなくても、言わんとしているところは分かった。目の前で繰り広げられているのだから、当たり前だ。あんなロスペイルが存在するなど、想像もしなかった。


「デカくなるんだよ、あいつはな。

 建物を踏み潰してしまえるほどに……!」


 30mをゆうに超えるであろう怪物が、そこに現れた。


 黄金の目が僕たちを捉える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ