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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第二章:黄と赤と幻の都
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07-リボーン

 セラフの攻撃を、僕たちは同時に左右に跳んで回避した。着地した僕をファイアの炎弾が襲う、それを飛び込み前転で回避し、起き上がりざまに長刀を振るった。ファイアの胴が切り裂かれる、追撃を繰り出そうとしたが取りやめ、再び側転を打った。


 頭上からハープーンめいた巨大な弾丸が降って来たからだ。

 地面に弾丸がめり込む……違う。地中で振動を検知、あの弾はまだ生きている。僕は立ちあがり、弾丸の出現地点を予測。硬いアスファルトを突き破って出て来た弾丸を踵で踏み潰した。


 かつてアパートで戦った時は、奇襲を行い能力を使用させずに勝利した。開けた場所で戦っていたらどうなっていたことか。今更ながらに戦慄する。


 僕は顔を上げ、戦場を俯瞰する。大振りなソーの懐に入った赤い戦士はゼロ距離でレバーブローを叩き込み、ソーを浮かせた。追撃を放とうとするが、そこに全身から刃を伸ばしたエッジロスペイルが割り込んで来る。あれはかつて僕が戦った相手、手元で伸びる刃とスピード重視の鋭い体術が持ち味のロスペイルだ。戦場にコールタールがなければ僕は戦った時に死んでいた。



 セラフを名乗った男は遠巻きにこちらを観察し、時折射撃を行う。セラフが放つ攻撃は実弾ではない、光弾だ。衝撃に加え徐々に受ける長刀に熱が蓄積していく。


 足を止めた僕に向かって、ファイアが炎を纏った拳を振り下ろしてくる。長刀の柄でそれを受け止めるが、しかし打点が赤く染まった。その後ろではシューターが次弾を装填している。長刀を折られるか、あるいはシューターに撃たれるか。


 一か八かだ。僕は長刀を真ん中で分解した。当然、受け止めていた部分がなくなったのだから、阻むもののなくなったファイアの拳が僕の胸に突き刺さった。拳の衝撃を踏み込み耐えるが、しかし耐えがたい熱が僕を焼く。それなりの代償を払うことにはなったが、しかしファイアの両脇に刃を突き立てることは出来た。


 分解した刃を再構成し、二刀を成す。鋭利な先端を持った薄い片刃剣を生成、ファイアの両脇に突き刺した。二刀を薙ぎ、容赦なくその胴を両断する! ファイアの体が青い燐光に包まれ分解され、光は意志を持ったようにセラフのポーチに向かって行った。


 やはり、あの男が。だが考える前にシューターの放った弾丸が僕の肩に命中した。腕ごと行かれそうになる衝撃に懸命に堪え、後ろから戻って来る弾丸をギリギリのところで弾き飛ばした。弾が壁にめり込んでいる、その内に勝負を決めなければ。


「ブーストスラッシュ!」


 合図とともにブーストが作動し、二刀にエネルギーが充填された。

 僕は踏み込み、刀を投げた。刀はクルクルと回転しながらシューターの体に吸い込まれ、それを両断した。背後にいたセラフはその場でブリッジ姿勢になり、迫り来る刃を避けた。二刀は僕から50mくらい離れたところで分解され、こちらに戻って来た。シューターの青い光と金色の光がすれ違い、しばし幻想的な色を作り出す。僕はセラフを睨んだ。


 隣を見ると、足を折り砕かれたソーが地面に転がっていた。そして赤い戦士はエッジの腕を掴み、何度もその顔面を殴っている。腕を極められ、体勢を強制的に固定された状態では、エッジの伸びる刃も十分に効果を発揮することが出来ない。なるほど、ああいう対処法もあったか。5発目でエッジの顔が砕け、6発目でエッジの頭が爆ぜた。


 赤い戦士はエッジを放し、倒れたソーを見た。そして腕を天に掲げる。掌から鈍色の甲殻が生じ、柄のような形になった。柄からはそれよりも少し太い甲殻が伸びて行き、さながら大剣のような形になった。赤い戦士はそれを、ソーの頭に容赦なく振り下ろした。甲殻の刃を受けたソーの頭が真っ二つに切断され、そして絶命した。


「参ったな。高レベルの連中を揃えたつもりなんだけど……

 あっさりやられたなぁ」


 くすくすと笑う男に向かって、僕は歩みを進めた。赤い戦士も同様だ。そして、同時に駆け出した。セラフは銃槍を構え、放った。攻撃を行いながらもカードを槍にかざす。だが、ロードの時間よりも僕たちの動きの方が速い! 射撃を装甲で受け止め、僕たちはスピードを落とすことなく駆けた。そしてほとんど同時にセラフの顔面に拳を叩き込んだ!


「……!?」


 奇妙な手応えだった。

 と言うより、殴り慣れたものがそこにあるような気がした。


『PLANE』『MIRROR』


 遅れて機械音がした。セラフの体表がひび割れ、輝き、そして割れた。その奥にあったのは、プレーン態のロスペイルだった。一撃にして頭部を破壊された死亡、青い光へと還元された。何らかの手段で自らの姿を映し出し、その間に逃れたか。


(セラフ……いったい何者だ?

 なぜ僕と同じような姿を……)


 ジャッジメントのそれとは違う気がする。

 あれは野木さんの執念がエイジアの形を取ったものだ。だが、セラフの意匠はエイジアのそれとは異なる。まるで、エイジアよりも後に作られた完成品を見ているような、そんな気になって来る。


「……もうしばらくしたら市長軍が現場に到着する。

 そうなると面倒だぞ」


 赤い戦士が僕に語り掛けて来た。

 僕はそれを、ロスペイルを正面から見る。


「この街の住民を守ってくれたこと、感謝する。

 また会う時があるかもしれないな」


 それだけ言って、赤い戦士は跳んだ。常人には赤い風が吹いたようにしか見えないだろう。僕はそれを追わなかった。人気のない物陰に隠れ変身を解除、一息吐いた。


「……取り敢えず、最大の目標は成し遂げたんだ。

 まずは、それを喜ぼう」


 僕の仕事はセラフを追い詰めること。

 無論、これが最大のチャンスであった可能性は否定出来ない。だが、成し遂げられなかったことを悔いても仕方がない。まだノア=ホンは生きている。何の確証も得られていないのなら、それを追うべきだ。


 僕は歩き出した。

 いまいる道が、先へと続いて行くことを信じて。


■◆■◆■◆■◆■◆■◆■


 ……その光景を、エイジアが変身を解除する瞬間を見ていた者がいた。そのものは虚空より出でた。緑色の鱗で全身を覆った怪物、カメレオンロスペイル。周囲の風景に擬態し、元となった生物のそれよりも遥かに高い精度で隠れていたのだ。


「あれがエイジア。我々の仇敵。

 こ、こんなことをしている場合ではない……!」


 男は携帯端末を取り出し、ショートカットメニューから連絡先を選択。自らの敬愛する師父に対して連絡を行った。このようなことが起こった場合、最優先で連絡するように取り決められていたのだ。


「モシモシ、突然のお電話申し訳ありません。

 ハイ、存じ上げています。しかし……」


 それは、一国一城の主とは思えないほどへりくだった態度だった。


「ハイ、発見しました。

 『ジェイド』にも遭遇しましたが、偶然にも奴が……

 ええ、利用してやりました。あいつは私を守ったんですよ。

 ただ、奴は我々のことを嗅ぎ回っているようでして……」


 通話口に対してぺこぺことは頭下げた。

 そして最後にひときわ高く『ハイ』と言った。


「さすがは師父でございます。

 それならば確かに、エイジアを永遠に葬ることが……」


 彼はもたらされた天恵に感謝した。彼は懐に仕舞っていた銀細工を取り出し、いまは近くにいない師父

に対して祈った。銀細工は円をくりぬき十字を作ったような形をしており、中心には巨大な目があった。


 すべてを見通し、射抜く異形の目が。


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