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少年探偵とサイボーグ少女の血みどろ探偵日記  作者: 小夏雅彦
第一章:サイボーグ少女と雷の魔物
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06-雷神

 ジャッジメントの拳と僕の拳がぶつかり合う。

 反作用でお互い跳び、距離を取った。


(単純な力比べならエイジアに分がある。

 けど、あいつには電撃と技量がある)


 ジャッジメントは掌を僕に向けて来た。電光が迸り、電流が僕に向かって飛んで来た。僕は側転を打ちそれを回避、電流は狙いを外し背後にあった金属製のゴミ箱に当たった。内部にあった可燃性の何かと反応したのか、ゴミ箱は爆発した。


(ジャッジメントの電流にはいくつかの特徴がある。

 手足の末端からしか放出出来ないこと。

 そして真っ直ぐ進んで行くこと。

 もしかしたら……)


 電流にはより流れやすい方に向かって行く性質がある。避雷針などはその原理を利用し、落雷の被害を押さえる。だが、ジャッジメントの電流はその法則を無視している。


 ジャッジメントとの意のままに進んで行くのか?

 だがそれなら僕に避けられるはずがない。


(もしかしたら……試してみる価値はあるかもしれないな)


 ジャッジメントは再び僕に掌を向けて来る。僕はそれを待ち受けた。狙いをつけるのと、電流が放たれる間には一瞬のタイムラグがある。僕はその瞬間を待ち受け、そして捉えた!

 僕は拳を薙ぎ、ジャッジメントの掌から放たれた小さな針を弾き飛ばした。続けて放たれた電流は針に向かって飛んで行った。ジャッジメントが舌打ちをする。


「やはり、誘導を行うものがあったみたいだな。

 小手先の技はもう通用しない」

「針を破った程度でいい気になってもらっては困るな……

 まだ私の手は残っている」


 ジャッジメントは拳から電流を迸らせた。

 そして、踏み込む。身を低くして飛び込んで来たジャッジメントを、僕は水面蹴りで迎撃しようとした。だが、直前でジャッジメントが跳ねた。膝の屈伸だけで跳び上がり、電流を纏った拳を繰り出してくる!


 僕はこの前の交戦と同じく手首を弾こうとした。ジャッジメントは、しかし危機を察知し一瞬早く拳を引いた。迎撃の寸前でブレードを展開し、腕を切り取ろうとしたのを見破られたのだ。左の攻撃も防がれ、逆に両手を押さえられることになった。


 ジャッジメントは空中で前蹴りを繰り出してくる。僕は上体を逸らしそれをかわし、足を振り上げた。当たりはしなかったが十分、反動を使ってバック転を打ちジャッジメントとの距離を離した。10mの距離で再び僕らは対峙する。


「ほんの数日前は、私に手も足も出なかった小僧が……出来ておる。

 エイジアの強化も合わさっているとはいえ、驚異的なことだ。

 誇っていいことだぞ、これは」


 ジャッジメントは構えを崩さず、円を描くようにして僕の側面に回ろうとする。僕もまた構えを取り、反対に動いた。静かな緊張感が僕たちの間に充満した。


「まったく勿体ない。

 その力を正しいことに生かしたいとは思わないのか?

 お前の力はこの街を変えることだって出来るだろう。

 可能性や人間性などという言葉に囚われ、未来を台無しにするつもりか?

 考え直せ、虎之助。これが最後のチャンスだ」


 ジャッジメントは僕を動揺させようと言葉を弄する。

 僕は真っ直ぐ彼を見た。


「言ったはずだ、ジャッジメント。僕は化け物にはならない。

 世界を好きにしようなんて言う化け物と……

 戦い、倒し、人の平和を保つのが、僕の仕事なんだ」

「やはり言葉は通じぬか、虎之助。

 ならば貴様はここで死ななければならないーッ!」


 ジリジリと距離を詰めていたジャッジメントが跳ねる。だが、この間と違って僕はそれを見切っていた。迎撃の回し蹴りを繰り出す。この間はこれを取られたが、しかし!


 白熱する脚甲を見て、ジャッジメントは受けるよりも避けることを選んだ。急ブレーキを踏み上体を逸らし、脚甲をギリギリのところで回避。僕は回転と反動のエネルギーを殺さぬままに踏み切り、風車めいて回転。強烈な後ろ回し蹴りを繰り出した。


 ジャッジメントは両腕の手甲でそれを受け止め、更に後方にジャンプ。蹴りの衝撃を完全に殺し着地した。だがその時には僕も、すでに次の一手を打っていた。


 ジャッジメントは目を疑ったことだろう。

 僕の体が空中で逆回転したのだから。


「グワーッ!?」


 不意を打った一撃は、ジャッジメントの側頭部に直撃した。加速のついた蹴りをまともに食らったジャッジメントは吹き飛び、頭からアパートの壁に激突した。


「ぐぅっ……!

 なるほど、赤熱機構ので生成した熱を放出し、加速に使ったか……!

 そのような改造、お前一人で出来るはずがない。

 エイファが、やったのか……!」


 エイジアの赤熱機構は更に強化され、高い応用力を持つようになった。

 従来通りの拳撃、刀剣加工、そして加速装置(ブースター)。最適化された本体と変形能力、そして強化赤熱機構の力を使えば、やれる。よろよろと立ち上がるジャッジメントを見て僕は確信した。それでも、ジャッジメントの闘志はまるで萎えていなかったが。


「驚いたぞ、虎之助。

 お前を殺さねばならんということが、惜しくてたまらん……!」


 ジャッジメントは叫び、体をのけぞらせた。

 全身から電光が迸り、放たれた電流が周囲を破壊した。

 僕は破壊の暴威を前にして一歩後退、それを冷静に観察した。


「全身から放出することも出来るのか……!?」


 だがジャッジメントにとってもあまり使いたくない手なのだろう。その証拠に体表は焼け焦げ、鈍色の筋繊維が露出している。ジャッジメントは攻撃的な構えを取った。


「終わりだ、虎之助。貴様はもはや、私に触れることさえも出来ん!」

「……ならばやってみろ。野木ッ!」


 ジャッジメントの体が揺らいだ。

 次の瞬間には、その姿が視界から消えた。


 僕は狼狽えた。だが、真横に気配を感じガードを固めた。いつの間にか僕の側面に回り込んでいたジャッジメントがいた。彼は絡みつく様な連撃を放ち、僕のガードの隙間を縫って拳を叩き込んで来る。ガードし切れず数発を貰いながらも、反撃の膝を繰り出した。


 その瞬間、ジャッジメントの姿がまた消えた。膝は虚空を蹴り、空しく足が地につく。なんてスピードだ。まさかジャッジメントがこれほどの手を残していたとは。


 左の膝裏に衝撃、何かに押さえ込まれていた。無理矢理片膝立ちにされた僕の顎を、ジャッジメントは打ち上げた。首が引き千切れそうなほどの衝撃が襲い掛かるが何とか堪える。左の裏拳を放つがそれはあっさりと避けられ、同時に拘束が外された。


「これはいったい……!

 エイジアの強化知覚でも捉えられないなんて!」

『超音速とか、そう言うレベルやないな。

 言うなれば光の速度に近い』


 光の速度?

 そんなスピードを、例えロスペイルでも出せるのか?


『原理としてはエイジアの装甲展開システムもそう変わらんやろ。

 恐らく電撃の力を応用して自分の肉体を電子サイズにまで分解しておるんや。

 光の速度なんて人間だろうがロスペイルだろうが処理し切れるはずはあらへん。

 移動先をあらかじめ指定してそこに運んでいるってことやろ。

 何とも興味深い力やが……』

「どうすればいいんですか! このままじゃやられる……!」


 ジャッジメントは電子化を利用した高速移動を繰り返しながら、僕に攻撃を加えて来る。一瞬のタイムラグがあるから何とか防げているとはいえ、このままでは反撃に転ずることが出来ない。エイジアの力では電子化した敵を捉えることは不可能だ。


『言ったやろ、光の速度は制御し切れん。

 ならば行き先を指定する方法があるはずや』


 行先の指定、それはどうやっている? 思考だけで?

 そんなはずはない。どんな天才であれ、ロスペイルであれ、頭の中だけで戦うことは出来ない。戦場の環境は刻一刻と変化している。僕の動きを単に予測で追うことは出来ない。ならば、転移先はリアルタイムで指定しているはずだ。そして、それを行うのに最適な方法は……


 攻撃を捌きながら、ジャッジメントを観察する。攻撃のスピードは変わらないし、電流の放出もない。恐らくは電子化のためにはそこにエネルギーを集中させなければならないのだろう。それは僕にとって幸運だった。相手を冷静に観察する暇が出来たのだから。


 戦いの最中、ジャッジメントが視線を僕から外した。

 戦いの中にあっては有り得ない隙。

 だが、その意味を理解したいまならば納得出来る。

 転移先の指定方法は目視だ。


 僕は敢えて大振りな一撃を繰り出した。

 予想通りジャッジメントは自身を電子化し、攻撃を回避する。転移先は僕の背後。僕は装甲を変形させ肘に噴射口を生成、熱エネルギーを放出! ブースターによって加速された拳の勢いのまま僕はその場で一回転、電子化を解除したジャッジメントに強烈な一撃を見舞った!


「グワーッ!」


 顔面に一撃を喰らったジャッジメントはたたらを踏んだ。僕は右足を軸に地面を踏み込み、全身の力を乗せた中段ストレートをジャッジメントの胸に叩き込んだ。


「グワーッ!」


 胸甲に蜘蛛の巣状のひびが入り、ジャッジメントの体が水平に吹っ飛んで行く。僕は更なる追撃を繰り出すべく地を蹴り、全体重を乗せたジャンプパンチを繰り出した。


「お前を侮っていたようだ、虎之助。

 だが、最後に勝つのは私だァーッ!」


 再びジャッジメントの体から電光が迸った。

 先ほどまでとは違い、大規模な破壊は起こらない。代わりにジャッジメントは常にバチバチと電気を放出した。そして目にも止まらぬ速度で首を振り僕の攻撃をかわし、逆にカウンターパンチを繰り出して来た!


 今度は僕が吹き飛ぶ番だ。

 僕は空中で半回転し、ギリギリのところで転倒を免れる。


「速い……あれがジャッジメントの持つ、本当のスピード……!」

『動きは依然そっちの方が速い。

 ただ神経伝達速度(ニューロンパス)を弄って反射神経を増強しているみたいやな。

 後出しジャンケンで勝ってるようなもんや』


 戦いの中で後出しが出来るだけで十分強い。

 それならば、どうするか。


「僕が勝っているのはパワーとスピード。

 だったらとことん……!」

『せや。力押しで行ったれ、トラ!』


 僕は再度装甲を変形させた。全身の形状は空気抵抗を考慮した鋭角に、要所要所にはスピードを補強するブースターを設置し、困難になった姿勢制御を補助すべくスラスターも追加する。僕はジャッジメント目掛けて駆け出す、先ほどよりも高速で!


 全速力の突進をジャッジメントは無理矢理受け止めた。

 ブースターで拳を引き、ブースターで拳を加速させる。そして僕自身の体を押し込んで行く。凄まじい速度の連打を、しかしジャッジメントは強化知覚で捉え切り、そして受け止める!


 反動で斜め上方に跳んだ僕をジャッジメントが追う。

 ジャッジメントの放った蹴りを受け止め、押し返す。斜めに飛んだジャッジメントを僕が追う。僕が放った打ち下ろし気味の攻撃をジャッジメントが受け止め、押し返す。壮絶な打ち合いの奇跡は黄金の、そして銀色の輝きへと変わり、曇天の空に壮大なアートを描く。


 ジャッジメントは踵を振り下ろす。手甲で受け止めるが、反撃の前にジャッジメントは蹴り足を支点にして上方に跳んだ。僕の手甲をジャンプ台にしたのだ。僕の上を取ったジャッジメントは両掌を僕に向け、そして電撃を放った。恐らく地上には誘導針が既に打ち込まれているのだろう。当然、その軌道上にいた僕に電流が降り注いでくる。


 スピードでの回避は不可能。だが掌の動きである程度予測は出来る。スラスターとブースターを駆使したジグザグ軌道で電撃を避け、ジャッジメントの上を取った。僕は両手を合わせ、ハンマーのように打ち下ろした。直撃を受けたジャッジメントは落下していく。


 直撃を受けた?

 そうではない、ジャッジメントはその攻撃さえも捉えていた。僕の拳を打ち、その反動で落下を加速。地上にいち早く降り立ち、反撃を繰り出そうとした。電光がジャッジメントの右足に収束、このまま落ちれば僕は死ぬ。


「そうするだろうと……思っていたぞ!」


 装甲を分解、再構成。

 自らの体を推すスラスター、そして打ち貫くための槍。

 それだけあればいい。僕はそれになればいい。


「ハァーッ!」


 大質量、かつ高速。スピードで劣るジャッジメントは、それを避けられない。ジャッジメントは蹴りを放つ。槌と蹴りがぶつかり合い、一瞬の拮抗状態が生まれる。


 だが、次の瞬間にはジャッジメントの足が砕け、押し潰された。


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